解説して頂いたのは、『品良く美しく伝わる「大和言葉」たしなみ帖』(永岡書店)などの著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「不手際」の意味とは?
null“不手際”は、物事を処理をする手腕や技量を表す“手際”に打消しの接頭語“不”がついた言葉。至らない点があったり、失敗して人に迷惑をかけてしまったことを“不手際”と表現します。
「不手際」はどんな時に使うといい?例文は?
nullビジネスシーンにおいては、おもに2つの場面で使われています。例文とともに解説していきます。
(1)失敗して謝罪する時
自分や自分たち側の失敗や至らなかった点を認め、
【例文】
・この度は、弊社の○○による不手際があり、申し訳ありませんでした。
・こちらに不手際があり、改めて話し合いが必要となりました。
・今後はこのような不手際がないよう、社内で情報共有をする所存です。
私生活においても、子どもが通う園や学校のPTA活動、知人の冠婚葬祭などで任された仕事のプロセスでよく使われています。
【例文】
・こちらの不手際により、バザーの釣り銭が足りません。
・運営側に不手際があって、名簿が用意できていないようです。
(2)迷惑をかけそうだと先にことわっておく時
挨拶の中で使われることもあります。“迷惑をかけてしまうかもしれないが、お許しを”
【例文】
・未熟者でなにかと不手際があるかもしれませんが、ご容赦ください。
・もし不手際がございましたら、現場のスタッフにご指摘頂けますと幸いです。
「不手際」の使い方の注意点は?「不手際をする」という言い方はある?
null“不手際がある(がない)”と使うことが多く、“不手際をする”
【「不手際」のNG例】
(1)Eメールの宛先を間違えるという不手際をしてしまいました。
→この場合は、“不手際がありました”が正解。
(2)今後、このような不手際を演じることがないように注意致します。
→“不手際を演じる”という言い方はない。“不手際がないよう”などと言うのが正解。
「不手際」を言い換えると?
null続いて、“不手際”の言い換え表現をご紹介します。
(1)落ち度
失敗や粗相などを意味する名詞です。謝罪のみならず、自分の側に過失がないことを主張する時にも使われます。
【「落ち度」の例文】
・私どもの落ち度により、ご迷惑をおかけしてしまいました。
・今回の件に関しては、弊社に落ち度はないと思われます。
(2)手抜かり
注意が行き届かずに失敗してしまった時に使います。“不手際”が習熟度の不足によって起こるのだとしたら、“手抜かり”は、うっかり失敗したようなニュアンスを含みます。
【「手抜かり」の例文】
・先ほどお送りした見積書にちょっとした手抜かりがございましたので、再送致します。
(3)遺漏
“漏れていること”を意味する言葉です。書類にちょっとした漏れがあった場合などに、書き言葉の中で使います。少々堅苦しい言葉ですので、話し言葉で使うことはほとんどありません。
【「遺漏」の例文】
・遺漏なきよう心がけますので、よろしくお願いします。
今回は、国語講師の吉田裕子さんに“不手際”という言葉を解説して頂きました。
こちらの対応を“不手際”と認め、謝罪するまでのプロセスは、次回の仕事の質にも関わってくることです。ミスをしてしまった時こそ正しい言葉遣いを心がけたいものです。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。