解説して頂いたのは、『品良く美しく伝わる「大和言葉」たしなみ帖』(永岡書店)などの著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「うだつがあがらない」の意味とは?
null諸説あるものの、“うだつ”は、屋根のてっぺんの部分を支える短い柱が由来だとされています。“うだつがあがらない”は、以下の意味がある慣用句です。
・出世できない
・良い境遇に恵まれず運がない
・金銭的にうまくいかない
・地位や生活が向上しない
・ぱっとしない
このように、仕事や私生活があまりうまくいっていない様子を表す言葉です。
「うだつがあがらない」はどんな時に使うといい?例文は?
nullビジネスシーンにおいては、頻繁に使われる言葉ではありませんが、以下のような場面が想定されます。
(1)謙遜するとき
自分の状況を他人に説明するとき、自虐や謙遜の気持ちを込めて使うことがあります。
【例文】
・私は、Aさんと違ってうだつの上がらない人間ですから……。
(2)良くない現状について具体的に言うことを避けるとき
仕事面や金銭面において望ましい状況でないとき、具体的な表現を避けて“うだつがあがらない”と言うことがあります。
【例文】
・がんばってるんですけど、なかなかうだつがあがりません。
(3)その場にいない誰かを悪く評価するとき
残念ながら、しばしば第三者の噂や悪口を言う際に使われることもあります。
【例文】
・あの子、入社直後は期待の新人だったのに、最近はうだつがあがらないね。
私生活においても(1)~(3)と同様の場面で使われています。
「うだつがあがらない」の使い方の注意点は?
null“うだつがあがらない”は、目の前の相手に面と向かって投げかけるには少々強すぎる表現です。
例えば、上司が部下に対して言うと、相手を傷つけてしまう可能性があります。“パワーハラスメント”と受け取る人もいるでしょう。“うだつがあがらない”は、多くの場合、自分や自分の身内を謙遜して形容したり、その場にいない第三者に対して使われています。
【NG例文】
・(先輩から後輩に)君はうだつがあがらないから、営業成績が伸びないの。もっとがんばってよ。
→相手に面と向かって言うのは、よほど強い信頼関係で結ばれていない限り、避ける。
また、“うだつがあがる”という表現はありません。打消し表現を伴って使うのが一般的です。
「うだつがあがらない」を言い換えると?
null続いて、“うだつがあがらない”の言い換え表現をご紹介します。
(1)「伸び悩む」
“さえない”、“パッとしない”というのを遠回しに言うときに使います。伸びそうでいて、なかなか伸びていかないもどかしい気持ちを込めることもあります。
【「伸び悩む」例文】
・彼は伸び悩んでいるようだ。
・売上個数が伸び悩んでおります。
(2)「鳴かず飛ばず」
がんばってはいるものの、具体的な成果をあげられていない、活躍できていない様子を指して使います。自分のやっていることに対して自嘲的なニュアンスを含ませて使う場面も見受けられます。
【「鳴かず飛ばず」例文】
・デビュー直後は話題になったものの、その後は鳴かず飛ばずです。
・研究者としてはそれなりの実績を残しましたが、企業人としては鳴かず飛ばずでした。
(3)「一向に芽が出ない」
努力がなかなか実らず、成功のチャンスが巡ってこない様子を指して使います。
【「一向に芽が出ない」例文】
・彼は半人前のままで、一向に芽が出ないようだ。
今回は、“うだつがあがらない”の解説をお届けしました。
あまり良い言葉ではないのですが、他の人との会話で登場する可能性があります。会話の文脈を理解するためにも今回の表現を覚えておくと良いでしょう。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。