今回は『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんに“お手数”の意味や使い方を解説して頂きました。
「お手数をおかけします」の意味とは?
null“手数”は、ある事柄を実現させるために手続きの数がたくさんあること、複数のプロセスがあって面倒であること、煩雑な手段を要することを意味します。
「お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願いします」といった形で、相手に協力をお願いするときに、面倒をかけてしまうことの心苦しさや相手の協力に対する感謝、ねぎらいの気持ちをこめて使います。
他には「お手数ですが」「お手数をかけました」といった形でも用います。
続いて、最も使用頻度の高い「お手数をおかけします」を中心に使い方を解説していきます。
「お手数をおかけします」「お手数おかけします」正しいのはどっち?
null「お手数をおかけします」は、助詞“を”を省いた「お手数おかけします」という形でも頻繁に使われています。
どちらを使っても同じ意味ですが、文法的に正しいのは「お手数をおかけします」のほうです。メールや書簡の中では正しい文法を意識したほうがいいでしょう。
一方で、話し言葉では「お手数をおかけします」「お手数おかけします」どちらを使っても相手に違和感を与えることはないと思われます。なぜなら、現代日本語の日常会話においては「ごはん食べた」「テレビ見た」というふうに助詞を省略した言い方が既に一般的になっているからです。
また、実際に口に出してみるとおわかり頂けると思いますが「お手数をおかけします」「お手数おかけします」の違いを聞き取るのは難しいため、口語では細かく気にし過ぎる必要はないでしょう。
「お手数をおかけします」はどんなシーンで使う?
nullビジネスシーンにおいて、「お手数をおかけします」の使用頻度が最も高いのが、目上の相手や顧客に対して何か依頼をする時です。
「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
また、私生活においても様々な場面で使われています。
例えば、PTAや町内会などの地域の組織においてメンバーに仕事を割り振るとき、書類を提出してもらうときなど、何か依頼をするときに使います。「お手数をおかけしますが」と前置きして使うことで、相手への配慮の気持ちを込めることができます。
「お手数をおかけします」の例文は?
null続いて「お手数おかけしますが」を用いた例文を通じて使い方を覚えていきましょう。
・お手数をおかけしますが、ご教示いただきますようお願いします。
・お手数をおかけしますが、今週中にご返信ください。
・お手数をおかけして申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いします。
・お忙しい中、大変お手数をおかけしました。
「お手数をおかけします」の使い方の注意点は
null先述した通り“手数”は相手に面倒をかけるような仕事を指します。
相手にとってそれほど手間ではないことに対しても「お手数をおかけします」を用いたり、1度のメールの中で繰り返し使うと、仰々しい印象を与える可能性があるので注意しましょう。
【NG使用例】
・お手数をおかけしますが、そのファイルを取って頂けますか?
→“手数”が複数の手続きや工程を必要とする事柄を意味するため、例文のような簡単なお願い事には“お手数”はあまり適さない。この場合は「すみませんが」「恐れ入りますが」などを用いる。
「お手数をおかけします」を言い換えると?
null最後に「お手数をおかけします」の言い換え表現をご紹介します。
(1)「ご面倒をおかけします」
“面倒”は“手数”と比べて、
【例文】
・ご面倒をおかけしますが、何卒よろしくお願いします。
(2)「お手間をとらせてしまい」
“手間”と“手数”は類義語ですが、“手間”は時間的な意味合いが強くなります。ビジネスシーンでは、思わぬことで相手に時間を使わせてしまった時などに使います。
【例文】
・お手間をとらせてしまい、申し訳ございません。
(3)「恐れ入りますが」
相手にお願いをする時に、恐縮する気持ちを表します。
【例文】
・恐れ入りますが、ご確認のうえご返信いただきますようお願い申し上げます。
(4)「お忙しいところ申しわけございませんが」
書き言葉では“ご多用の折”“ご多忙中”なども使うことができます。
【例文】
・お忙しいところ申しわけございませんが、ご協力よろしくお願いします。
(5)「ご足労をおかけします」
“足労”は人に足を運ばせること。使うシーンは限られますが、何か用事があって相手に来社してもらうときなどに使います。
【例文】
・ご足労をおかけしますが、明日はよろしくお願いします。
今回は国語講師の吉田裕子さんに「お手数をおかけします」の使い方を解説して頂きました。意外と奥深い“手数”という言葉。相手に依頼をするときに役立ちますので、使い方を覚えておきましょう。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。