解説して頂いたのは『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「お納めください」の意味とは?
null“納める”には「物事を中にしまっておく」「受け取る」「金銭や物品を受け取るべき人に渡す」などの意味があります。
「お納めください」と依頼の形で使うことで、謝礼や贈り物などを受け取って欲しいという意図を伝えることができます。
「お納めください」はどんなときに使うといい?
nullビジネスシーンにおける「お納めください」は手土産や謝礼、おつきあいで贈ったお歳暮・お中元など、こちらから何かを渡したり贈ったりするときの表現です。遠慮することなくぜひ受け取って欲しいという気持ちを込めて使います。
給料、協力の対価としての謝礼など、
口語でも文章の中でも使うことができます。
私生活においては、敬語を使う間柄の相手に対し、お礼や手土産、謝礼などを贈ったり渡したりするときに使います。
「お納めください」の例文は?
null続いて「お納めください」の例文を通じて使い方を覚えていきましょう。
・心ばかりですが、先日のお写真をアルバムにまとめましたので、ぜひお納めください。
・お世話になった証ですから、ご遠慮なくお納めください。
・つまらないものですが、感謝の志です。どうぞお納めください。
こちらが用意した金品に対し、相手が遠慮し、
「お納めください」の使い方の注意点は?目上の人にも使える?
null「お納めください」の注意点は2点あります。
(1)ビジネス書類の送付時には使わない
しばしば「ご査収ください」「お納めください」を混同しているケースが見受けられます。
“査収”は「確認して受け取る」、“納める”は「受け取って中にしまう」の意。社内外に送る文書については「ご査収ください」を使います。
【NG使用例】
・見積書を添付いたしましたので、どうぞお納めください。
→ビジネス書類には「お納めください」は使わない。この場合は「ご査収ください」「ご確認ください」など。
(2)労働や奉仕への「当然の対価」には適さない
原則として、あらかじめ定められた報酬やお礼を渡す時には「お納めください」を用いることはありません。
「お納めください」を言い換えると?
null続いて「お納めください」の言い換え表現をご紹介します。
(1)「お受け取りください」
「お納めください」よりも気軽に使われているのができるのが「お受け取りください」です。贈り物や謝礼に限らず、もう少し幅広いシーンで使うことができます。
【例文】
・弊社の新商品のサンプルが完成しましたので、どうぞお受け取りください。
(2)「ご受納ください」
“受納”は贈り物などを受け取っておさめること。書き言葉で使われることの多い熟語表現です。
【例文】
・お礼の品をお送りしましたので、ご受納いただければ幸いです。
(3)「ご笑納ください」
「つまらないものですが笑って納めてください」という意味。自分が渡すものに対して謙遜する表現です。「きちんと受け取ってもらわなくてもいいよ」という気持ちも含んで使います。
【例文】
・つまらないものですが、どうぞご笑納いただければ幸いです。
今回は国語講師の吉田裕子さんに「お納めください」の使い方や例文を解説して頂きました。
物や書類を送るときの表現は、その内容に応じて使い分けるのは意外と難しいものです。1つ1つの言葉の意味を理解することで、“とっさの一言”が自然に出てくることにつながるのではないでしょうか。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。