解説して頂いたのは、『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「忌憚のない」の意味とは?
null“忌憚のない”の読み方は“きたんのない”。
“忌憚”を訓読みしたときの“いみはばかる”という読み方の通り、“はばかり遠慮すること”を指します。
基本的には、“忌憚ない”“忌憚のない”というように打消しの形で用いて、“遠慮せずに”という意味で使います。
「忌憚のない」はどんなときに使うといい?
nullビジネスシーンにおいては、相手に率直に意見を言ってもらいたいとき、正直な声をききたいときに使われています。想定されるシーンとしては、会議や打ち合わせ、お客様向けアンケートを通じて相手の意見や正直な評価を求めるときに用います。
少々堅苦しい表現ですので、私生活においてはあまり使う機会はありません。もし、あえて例を挙げるとしたら、以下のようなシーンでしょうか。
・催しごとが終わった後の運営者・参加者向けアンケートの一文
・PTAや町内会で、1年間の運営方針について真剣に話し合うとき……etc
いずれも、率直な意見を出してもらいたい際に使います。
「忌憚のない」の例文は?
null続いて、“忌憚のない”の例文を通じて使い方をチェックしていきましょう。
・皆様の忌憚のない意見をお聞かせください。
・忌憚のない意見交換ができれば幸いです。
・気になることがありましたら、忌憚なくお申し付けください。
このように、依頼の文章の中で多く使われています。相手の要請を踏まえて、あえて「忌憚なく申し上げます」という形で使うこともあります。
「忌憚のない」の使い方の注意点は?
null“忌憚”は、“忌憚のない”“忌憚ない”など、打消しの形で使うのが一般的です。“忌憚のある”という言い方をすることはありません。
【NG例】
・直属の上司に報告することに忌憚のある場合、人事部までご相談ください。
→現代の日本語では“忌憚のある”という言い方はほとんどしない。この場合は「直属の上司に報告しにくい場合」など。
「忌憚のない」を言い換えると?
null続いて、“忌憚のない”の言い換え表現をご紹介します。
(1)「率直」
飾ったり、隠したりせずにありのままであることを指す言葉。相手に気を遣うことなく、素直な意見を伝えるときに使います。
【例文】
・率直なご意見をおきかせください。
・本日は率直に意見申し上げます。
(2)「遠慮なく」
気を遣って言葉や行動を控えめにすることを指します。“忌憚のない”を柔らかくした表現で、ビジネスシーンからプライベートまで広い場面で使われています。書き言葉でも話し言葉でも使うことができます。
【例文】
・なにかあれば、ご遠慮なくおっしゃってください。
・それでは遠慮なく申し上げます。
(3)「気兼ねなく」
“気兼ね”は、相手に対して気を遣うこと。“気兼ねなく”は“気を遣うことなく”という意味になります。柔らかい言葉なので、ビジネスシーンではもちろん、親しい間柄でも使うことができます。
【例文】
・気兼ねなく、どんなことでもおっしゃってください。
今回は、吉田裕子さんに“忌憚のない”の使い方や例文について解説して頂きました。
参加者の遠慮を取り除いて、率直な意見交換をしたいと思ったときに役立つ言葉です。ぜひ、覚えておいてくださいね。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。