解説して頂いたのは、『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「やぶさかではない」の意味とは?
null「やぶさかではない」の“やぶさか”を漢字で表記すると“吝か”。“吝”という漢字は常用漢字ではないため、あまり馴染みがないかもしれませんが、“けち”“物惜しみする”という意味があります。”けち”は熟語で「吝嗇(りんしょく)」ともいいます。
打消し表現を伴った「やぶさかではない」という言い方をすると、「~する努力を惜しまない」「喜んで~する」「積極的に~する」という意味になります。
「やぶさかではない」の使い方の注意点は?
null先述した通り、「やぶさかではない」は「喜んで~する」という前向きな意味を持ちます。
ところが、平成25年度の「国語に関する世論調査」では、「やぶさかではない」の意味を正しく認識している人の割合はわずか3割。4割以上の回答者は「仕方なく~する」という意味だと勘違いしていました。
この結果を踏まえると、相手側が「あまり乗り気ではないけれど、しぶしぶ~する」という意味で受け取る可能性があるということになります。誤解を避けるためには、前向きな表現と一緒に使うと相手に真意が伝わりやすいのではないでしょうか。
また、「~“に”やぶさかではない」という形で使います。「~“は”やぶさかではない」ではありませんのでご注意を。
【NG使用例】
・そこまでおっしゃるのなら、協力するにやぶさかではありません。
→「仕方なく協力する」という意味で使っているのなら間違い。「お世話になった〇〇さんのお願いであれば、協力するにやぶさかではありません。何なりとお申し付けください」といった使い方なら、真意が伝わりやすい。
「やぶさかではない」はどんなときに使うといい?目上の人にも使える?
nullビジネスシーンにおいては、以下のようなシーンが想定されます。
・相手から協力を求められ、「積極的に協力したい」という意思表示をするとき
・積極的な姿勢を見せている第三者の状況を形容するとき
「やぶさかではない」は、目上の相手に対しても使うことができます。
書き言葉でも話し言葉の中でも使われていますが、先述したように意味を誤解している人が多いため、相手によっては真意が伝わりにくいかもしれません。
また、少々古風な言い回しですので、私生活においては、あまり使う機会はありません。
「やぶさかではない」の例文は?
null続いて、「やぶさかではない」の例文を通じて使い方を把握していきましょう。
・御社のご希望となれば、やぶさかではございません。
・もし状況が好転するのなら、変更するにやぶさかではありません。
・A社は、今回の案件にやぶさかではないようです。
「やぶさかではない」を言い換えると?
null続いて「やぶさかではない」の言い換え表現をご紹介します。
(1)「喜んでお引き受けします」
積極的に協力したい気持ちをよりシンプルに伝えるのなら、「やぶさかではない」よりも「喜んでお引き受けします(致します)」という表現の方が適しているかもしれません。
【例文】
・今回のご依頼、喜んでお引き受けします。
(2)「それならお安い御用です」
“お安い御用”は、“簡単な仕事”という意味です。本当に簡単な仕事に対して用いる場合もありますが、大切な相手からの依頼であれば面倒ではないという積極的な姿勢を
【例文】
・いつも迷惑ばかりおかけしていますから、そのくらいお安い御用です。
(3)「願ってもないお話です」
自分が期待した以上の良い話が舞い込んだとき、待ち望んだ仕事のオファーをうけたときなどに使います。
【例文】
・ご提案頂いたプロジェクトは、弊社にとっては願ってもないお話です。
(4)「快諾」
“快諾”は、気持ちよく承諾することを意味します。
【例文】
・この度は、ご快諾頂きありがとうございました。
「まんざらでもない」「やぶさかではない」の違いは?
「まんざらでもない」は、「必ずしも悪くはない/嫌ではない」という意味。「まんざらでもない」と「やぶさかではない」の意味を混同している方が多いようですので、違いを覚えておきましょう。
【例文】
・協力するのはまんざらでもありません。
→「協力するのは嫌ではない」の意
・協力するにやぶさかではありません。
→「積極的に協力する」の意
今回は「やぶさかではない」の使い方について解説しました。
意味を間違って覚えている人が多い言葉ですので、相手が「やぶさかではない」を使っているときにも、どのような意味で使っているのか見極める必要があるかもしれませんね。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。