キャリア形成やビジネスマナーを専門とするライフスタイリストの北條久美子さんによれば、雑談が相手の心を開くカギになることもあるとのこと。
今回は、北條さんに雑談のテーマ選びの方法や、雑談力を磨くコツについてうかがいました。
「雑談力」はなぜ必要?ビジネス現場での雑談の役割とは
nullビジネスパーソン向けの自己啓発本コーナーでは、「“雑談力”をいかに高めるか」という内容の書籍が数多く並んでいます。
それだけ多くの人が必要性を感じつつも、苦手意識を持っているのが“雑談力”ではないでしょうか。
ビジネスシーンにおける“雑談”は、ただ単に気軽でとりとめもない話をするだけではありません。相手との適度な距離感を保ちながら、打ち解けていくためにも大切な時間です。
ここで会話をボールに例えてみるとわかりやすいと思います。例えば、キャッチボールをするとき、最初の一球から全力でボールを投げるのではなく、最初は“肩慣らし”から始めていきますよね。
ビジネスにおいても、同じことが言えます。例えば、商談目的で訪問した相手との会話で、最初の一言から”直球の球”、つまり本題を投げかけることはありません。雑談を通じて徐々に場を和ませていくことは、相手のコンディションを探る“肩慣らし”のような役割も果たしています。
雑談でよい雰囲気づくりができると、本題に入ったときにも良い雰囲気を保ったまま会話を続けることにつながるのではないでしょうか。
社内の人間関係においても、移動中や会議前の雑談を通じて同僚のコンディションを探ったり、場を和ませるために役立つのが雑談です。仲の良い同僚とダラダラと仕事に関係ない話を続ける“無駄話”とは一線を画しています。
どんなテーマなら自然な会話が続く?雑談しやすいテーマの選び方
null続いて、雑談しやすいテーマについてご紹介します。
話題選びで心がけたいのが“広く浅いテーマ”を選ぶこと。相手は友達ではありませんから、マニアックな趣味や、強い主張を伴った“狭くて尖った話題”は、雑談にはあまり向いていません。
また、雑談が自然に続きやすいテーマは“相手との共通点”に関すること。まだ打ち解けていない相手と共通点を探すのは難しいものですが、まだ打ち解けていない相手との雑談のテーマは以下の3つのテーマを選ぶのがいいでしょう。
(1)天気・暦
目の前にいる相手との共通点は、同じ季節の中で、同じ気温と天気を経験していることです。というわけで、最も無難なのが天気や暦に関する話題。暑さ、寒さや暦など、意外と豊富なトピックがあります。
【天気の話題を出すときの例】
「週末、強い寒波が来るらしいですよ。分厚いコートが必要になりますね」
「お足元の悪い中ご来社頂き、ありがとうございます。今日は凍えるような冷たい雨ですね」
話題や質問を投げかけて、相手からの返事が返ってきたら、キャッチボールのように会話を進めていきましょう。ある程度会話が続くと、“話しやすい人”と印象付けられるのではないでしょうか。
(2)周辺情報・リアルタイムの交通情報
訪問を受けた場合には自社の周りの情報を、訪問した場合は相手の会社の周囲の情報なども話の切り出し方として有効です。
【訪問先にて】
「下の道路の桜並木、ものすごくきれいですね」
「来る途中に長い行列ができた店を見つけたんですけど、評判のお店なんですか?」
【訪問を受けたとき】
「この辺りは“カレーの町”って呼ばれていて、おいしいカレー屋さんが多いんですよ」
「今朝、東海道線がずっと止まっていたんですけど、電車大丈夫でしたか?」
(3)相手の変化をキャッチする
初対面ではない相手であれば、ちょっとした変化をキャッチして会話の糸口にすることもできます。ただし、ネガティブに伝えるのはNGです。
【相手の変化に気づいたとき】
「前回お会いしたときは夏だったので、ネクタイ姿が新鮮ですね」
「髪の毛切られました? とてもお似合いです」
【NG例】
「なんだかお疲れの様子ですけど、大丈夫ですか?」
雑談で避けたほうがいい話題は?スポーツや子どもの話題OK?
null一方で、雑談の話題として避けた方がよい話題もあります。例をあげると、以下のような話題です。
【例】
悪口、人の噂、不確定な情報、相手の身体的な特徴、宗教など
悪口や噂は論外。ネガティブなニュアンスを含む相手の容姿に関することや、噂レベルの情報なども避けましょう。
また、相手を選ぶ話題もあります。
【例】
スポーツ、芸能、趣味、家族の話など
特定のスポーツが盛り上がっていたり、ワイドショーで持ち切りの芸能ニュースであれば話題を振ってみてもいいのかもしれませんが、中にはまったく興味がないという方もいらっしゃると思います。相手の反応を見て会話を進めていくといいですね。
あらかじめ相手が好きだとわかっているスポーツや趣味があれば、相手に合わせて事前に情報を収集しておくと楽しく会話が続くきっかけになるのではないでしょうか。
また、家庭や結婚観は多様化しているので、家族や子どもの話は相手から質問を受けた場合を除き、こちらからあえて聞いたり切り出したりすることではないかもしれません。
雑談力を上げるために日常でできること
null前述したようなテーマ選びで、ある程度雑談が続くと思いますが、場が一気に和むような高い雑談力を一朝一夕で身に着けるのは難しいものです。雑談力をブラッシュアップするためには、話題の引き出しを増やすための情報収集も欠かすことができません。
例えば、出勤前の情報番組ではニュースのほかに、天気や暦、流行しているものなど、雑談につながる話題が豊富です。なんとなく見るのではなく“情報を取りに行く”という気持ちで視聴すると、その日の耳よりな話題が取得できるかもしれません。
他にも紙の新聞はパッと見出しを見ただけでも社会の動きを把握することができます。自分が興味がない記事も目に入ってくるので、年代が違う相手との会話の引き出しを深めるためにはとても有効です。
また、定期的に書店に足を運び、“どんな本が売れているのか”をチェックしておくと、世の中の関心ごとが見えてくると思います。
会話の沈黙が怖い…そんなときには?
nullしばしば、雑談が盛り上がらなかったときの「会話の沈黙が怖い」という声が聞かれます。きっと沈黙が怖くて、自分の話をしすぎてしまった……という経験をした方は少なくないと思います。
とはいえ、会話の心地よい“間”は人によって異なります。もしかしたら、自分が沈黙だと感じている間に、相手は何かを考えている時間かもしれません。焦りは相手に伝わりますので、沈黙をネガティブに受け止めすぎないことも大切です。
雑談をスムーズに続けるためのコツ
null雑談に対して苦手意識がある方は、“イメージトレーニング”も大切。“話す”の「さ・し・す・せ・そ」を思い出してみましょう。
さ・・・最高の状態をイメージして
雑談が上手な先輩や上司を思い浮かべてもOK。
し・・・姿勢よく
背筋が伸びると声が堂々と豊かに響きます。
す・・・スマイルで
笑顔は印象をアップさせます。
せ・・・誠実に
心が声色にも口調にも出るものです。「心ここにあらず」の雑談は、相手にも伝わります。
そ・・・「そ」がつく言葉を大切に
「そうなんですね」「それからどうなったんですか?」など、“そ”のつく言葉は会話をつなぎます。
相手の言葉に耳を傾け、自然に会話のキャッチボールができるようになると、相手の心が少しずつ開かれていくと思います。
今回は、北條さんに雑談力のテーマ選びや会話を続けるコツを解説して頂きました。
ビジネスにおける雑談は、人間関係の潤滑油になることもありますが、「うまく雑談しよう」と気負う必要はありません。自然体で雑談を楽しむコミュニケーション上手な人は、どの会社組織にもいるものです。そういう相手の会話の進め方を観察してみるのも雑談力アップの近道ではないでしょうか。
【取材協力】
北條 久美子
東京外国語大学を卒業し、ウェディング司会・研修講師を経て、2007年 エイベックスグループホールディングス株式会社人事部にて教育担当に。2010年にキャリアカウンセラー・研修講師として独立。全国の企業や大学などで年間 約2,500人へビジネスマナーやコミュニケーション、キャリアの研修・セミナ―を行い、顧問として企業の人材育成や教育体系の構築にも携わる。現在はライフスタイリストとしてワーク(仕事)寄りだった人生を、生きること=ライフにシフト。睡眠マネジメントやマインドフルネスなどをワークに取り入れ、自分らしく、かつ生き方(ライフスタイル)を美しくすることを自らも目指し、それを広める場作りに力を入れる。著書に『ビジネスマナーの解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『働き方のセブンマナー』(講談社)ほか。