子育て世代の「暮らしのくふう」を支えるWEBメディア

「恐れ入ります」は万能に使える?「恐縮です」「痛み入ります」「かたじけない」の使い分け【今さら聞けない大人の敬語講座vol.7】

“恐れ入ります”は、ビジネスの場で非常によく使われる言葉です。便利な言葉ではありますが、“恐れ入ります”を多用してしまうのは考えもの。今回は、“恐れ入ります”の意味を掘り下げて、NG使用例や言い換え表現をご紹介します。

『大人の語彙力 使い分け辞典』(永岡書店)などの著書を持つ国語講師の吉田裕子さんに、間違いやすい敬語表現や、知っておくと必ず役立つステップアップ敬語についてお話をうかがいました。

「恐れ入ります」はどんな意味?どんな時に使う?

null

ビジネスシーンで使う“恐れ入ります”には、以下のような意味があります。

・相手にかける迷惑や手間を申し訳なく思う。恐縮する

・相手の好意をありがたく思う

感謝と恐縮、2つの意味を併せ持っている便利な言葉です。

まずは、それぞれの意味での使用例をご紹介します。

【軽く詫びるときの「恐れ入ります」使用例】

恐れ入りますが、こちらの書類を確認していただけますか?

恐れ入りますが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか。

相手に依頼したり、声をかけたりするとき、“恐れ入りますが”と前置きをすることで、与える印象を和らげることができます。このような言葉は“クッション言葉”と呼ばれています。“恐れ入りますが”は、クッション言葉の代表的な存在と言ってもいいでしょう。

続いて、感謝の気持ちを伝えるときの使用例をご紹介します。

【お礼を言うときの「恐れ入ります」使用例】

・ご尽力くださいまして、誠に恐れ入ります

・本日は猛暑のなかお越しいただき、恐れ入ります

日本人は控えめさを美徳とするところがあります。感謝の気持ちをストレートに伝えるのを避け、謙虚な姿勢で心苦しいほどありがたい気持ちを示すのに “恐れ入ります”を用いることがあります。

【正しく使えてる?これまでの「今さら聞けない大人の敬語講座」】

「お名前を頂戴する」はNG!?「頂く」「賜る」の使い分け【今さら聞けない大人の敬語講座vol.5】

「幸いです」は目上に失礼!?「ありがたい」「助かります」は…【今さら聞けない大人の敬語講座vol.6】

「恐れ入ります」のNG使用例は?

null

“恐れ入ります”は、相手にかける手間を恐縮して軽く詫びる“クッション言葉”として用いることがありますが、自分に非がある場面で用いる謝罪の言葉としては適しません。

【「恐れ入ります」NG使用例】

・このたびは、弊社社員がお客様に不快な思いをさせてしまい、恐れ入ります

→自分側の非を謝罪する場合には、素直に詫びる。“恐れ入ります”は適さない。

「恐れ入ります」の言い換え表現は?

null

先ほど説明したように、相手がしてくれたことに対して感謝と遠慮の気持ちを込めて“恐れ入ります”を用います。

この場合の“恐れ入ります”は、以下のように言い換えることができます。

 【お礼をいうときの「恐れ入ります」言い換え表現】

・ご配慮を賜り、恐縮です

・ご丁寧に対応していただき、痛み入ります

・お心遣い痛み入ります

・けっこうなお品を賜り、かたじけなく存じます

ステップアップ編!大人女性が知っておきたい「依頼するときのクッション言葉」

null

相手に依頼をするとき、相手の期待に反することを伝えるとき、話の前置きに“クッション言葉”を用いることで、与える印象を和らげることができます。

“恐れ入りますが”一辺倒になってしまわぬよう、いくつか頭に入れておくと便利です。

【依頼するときの「クッション言葉」の例】

お手数をお掛けしますが、何卒よろしくお願いいたします。

誠に勝手ながら、至急ご返事を賜りたくお願い申し上げます。

こちらの都合を申して恐縮ですが、至急ご確認お願い申し上げます。

差し支えなければ、ご住所をお教えいただけますか?

“クッション言葉”には、相手の状況に配慮する意味も込められています。言葉のキャッチボールにおいて緩衝剤のような役割を果たすクッション言葉は、“悪いんだけど”“もしよかったら”という形で家族や夫婦の親しい間柄でも使われています。

 

相手との関係性に応じて、適した言葉を使い分けるようにしたいものです。


【取材協力・監修】

吉田裕子

国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。

pin はてなブックマーク facebook Twitter LINE
大特集・連載
大特集・連載