40年ものの「アラジンの石油ストーブ」
null富山県黒部市は、もうすっかり晩秋だ。
手前の田んぼは青々としているけれど(刈り取った稲株から新たに生えてきた葉)、奥の山は、裾野まで紅葉が下りてきているし、その奥の北アルプスは雪で白くなっている。
なにより、ここ数日、お天気がすこぶる悪い。風が吹き荒れ、雷が激しく鳴っている。
「鰤起こし」と呼ばれる北陸特有の、冬に入る前の天候だ。この時期から、日本海を回遊している鰤が獲れ始める。これを境に、富山は長くて暗い冬に入る。晴れる事はほとんどない。
朝から黒い雲が空を覆い、湿度の高い底冷えのする寒い日が続く。乾燥しているけれど青空が広がる関東の冬とは、全く違う世界が日本海側にある事を、関東の人は想像しづらいだろう。
鬱々とした冬の始まりだけれど、体も心も温めてくれるのがストーブだ。実家から奪ってきたこのアラジンの石油ストーブは、円筒形のブルーフレームではなく、シルバークイーンという珍しいタイプ。
もうかれこれ40年近く使っているけれど、ピッカピカの反射板が熱をしっかり伝えてくれるので、富山の冬でもこれ1つで部屋全体を十分に暖めてくれる。
今はあまり石油ストーブなんて使っている人は少ないだろう。灯油を入れるのは手間だし、換気も必要だし、何より小さい子どもがいる家だと、火傷や火事の心配もあるだろう。
でも私は、朝のシンとした時間、キーンと冷えきった部屋で、ストーブに火を入れる行為が、何か朝の儀式の1つのような気がして、好きだ。
石油ストーブは、火が危険である事、そして同時に、人間にとって大事なものである事を、子どもに日常的に教える事ができるという良さもあると思う。
この石油ストーブ、そして我が家のガスコンロも、目に見えて手で感じる火が、すぐそこにある。娘はそれを当たり前なものとして、充分に火の取り扱いに気を付けながら火と付き合っている。
この先もずっとずっと使い続けたいくらい愛着があるけれど、私が実家から奪ってきてしまったように、もしかしたら私も娘に奪われる日が来るのかもしれない。悲しいような、でも、嬉しいような。ちょっと待ち遠しい気持ちにもなる。
このストーブは、お料理にも大活躍。干し芋を並べて焼いたり、お鍋をかけて煮込み料理をする。
定番はおでん。
夏の「冷やし中華始めました」に対抗するのは、冬の「おでん始めました」で、異議を唱える人は少ないのではないだろうか。
絶対に外せない大根と卵、それにコンニャク。娘が大好きなウィンナー。あとは適当に練り物を加えて、お出汁(手軽に茅乃舎を愛用)とお酒、みりん、お塩、お醤油で味付け。辛しはたっぷりと。
とっても簡単だし家族に喜ばれるしヘルシーだし。何より温まる。ビールにも日本酒にも合う。
我が家の冬の定番ストーブお鍋料理だ。
マルシェはお米を売る場じゃなく「人と出会える場」
nullさて農作業の方は、ちょっとお休みして、東京でのマルシェやファーマーズマーケット出店の様子を。
10年前から、稲刈りが終わる10月から翌年の春作業が始まる前の3月まで、月1回くらいの頻度で無理なく、東京で出店をしている。
最初は張り切ってお米を売るぞー!PRするぞー!と意気込んでいたけれど、そのうちマルシェのような華やかな場所では、お米が売れない事がわかってきた。お野菜や果物、パンや焼き菓子などの加工品は華やかで、人を惹きつける魅力にあふれているけれど、どうやらお米はそうではないようだ。
毎日あたりまえにある食べ物。マルシェで買うには重いし、魅力に欠ける。でも私たちはお米だけしか作っていない。売るものはお米だけしかない。魅力的に見えるような売り場にする努力もしたし、POPだって専門家の意見を取り入れたり、試食を出したりもした。
それでもさっぱり、笑ってしまうくらい、売れない(笑)。
もちろん、私たちのやり方に問題もあるんだけれど、それを差し引いてもお米は、こういうマルシェの場では生活者には魅力的な食べ物、として目に留まったり、足を止めたりする力に欠けるのかもしれない。
お米じゃなくておむすびを並べれば、また違う展開になるだろう。でも、私たちは米農家であって、おむすび屋さんではない。私たちが作ったお米を知ってほしい、買ってほしい、食べてほしいのだ。
数年前から私たちは大きく方向を転換、マルシェを、お米を売る場としてではなく、人と出会える場として捉えるようにした。
買ってくれなくてもいい。興味を持って話を聞いてくれるだけでいいじゃないか。私たちが東京で出店する事で、毎月定期的にお米をお届けしている首都圏のお客様が会いに来てくれたり、千葉の両親や友人が足を運んでくれる。大学を卒業して10年暮らしたカナダから、一時帰国してくるカナダの懐かしい面々と会えるのも、この場所だ。
毎回びっくりするくらい嬉しいミラクルな出会いもある。ミラクルじゃなくても、いつものお客様、他の出店者さん、事務局スタッフさん等など、たくさんの出会いに溢れている。
人との出会いこそが人生を豊かにする。そう思ってマルシェに出店するようになったら、売れなくても楽しくなった。
もしこれを読んでいただいている方の中で、私や濱田ファームに興味を持った方がいたら、ぜひ私たちに会いにマルシェに遊びに来てください!
お会いできる事を楽しみにしています!