子どもが生まれて感じた「きょうだいでも別の生命体だ!」
null鈴木さんのお子さんは、現在中学3年生の長女を筆頭に、小学6年生の長男、小学4年生の次男の3人きょうだいです。アトリエにお邪魔すると、お子さんと作った工作や、お子さんの絵もたくさん飾ってあります。また「『大ピンチずかん』のモデルは次男です」とのことで、鈴木さんの創作はお子さんたちが原動力の一つなのだと感じられます。
そんな鈴木さんですが、お子さんが生まれる前と後とでは、子育てへの印象がずいぶん変わったようで……?
「生まれる前は“全部楽しめる”と、変な自信がありました。そもそも子どもは嫌いじゃないし、僕は自由な考え方ができるタイプだし、いいお父さんといい子どもみたいな感じで、和気あいあいとハッピーにやれるかなと思ったら……ズドーン!!!!と突き落とされた(笑)。
まず長女が、我が道をいくタイプで。“うわっ、こんなに大変なんだ”と、子育て像がガラガラと崩れました」(以下「」内、鈴木のりたけさん)
その後、長男と次男も誕生。きょうだいが増える中で、わかったこと。
「意思が強い長女を見て、長男、次男も“これでいいんだ”と思ったみたいです。それぞれがそれぞれに生きていく様子と向き合う中で、同じ親から生まれたけれど、一人ひとり別の人間。世の中に、たった一つの生命なんだっていう悟りみたいなものにたどり着きました」
子育ては「待ちの姿勢」
null子どもが失敗したり、悩んだりする様子を見るのは、親としては切ないもの。ついつい“何か”が起こらないよう、先まわりする人もいるでしょう。鈴木さんは、3人の子育てを通して「先まわりはやめた」といいます。
「自分の子どもではあるけれど、別の人の人生です。親が先まわりして、選択する余地や、失敗を経験して自分で考える機会を奪うのはやめよう。うまくいかないときも、ずっと見守ろう。そんなふうに“待ちの姿勢”を大事にするようになったら、気持ちがラクになりました。そして、今この時間を楽しもうっていう意識に一歩進めたんですよね」
この大きな一歩は、お子さんが「学校に行きたくない」と言い出したことにありました。
「うちの子どもたちは今、3人ともフリースクールへ行っています。
長女が小学校に入ってすぐ“学校に行きたくない”と言い始めて。僕も学校に対して圧倒的な信頼があったわけではないけれど、最初はなんとか行かせようと思っていたんです。“何が嫌なの?”と尋ねたり、“好きな科目があるときだけ行ってみよう”“一緒に学校まで行くよ”と促したり。でも子どもを見ていると、そういうことじゃないと感じるようになって。それに僕も、自分の心に嘘をつきたくありませんでした。
世の中的にはみんな行っているっていう外から来た情報で喋りがちだったのを、ちゃんと自分の頭で考えないとだめだ、自分の足で稼いで知見を広げようと思ったんです」
そして、お子さんと家族にとって、最善の方法を探す日々が始まりました。不登校の子どもが通うプレイパークを見に行ったり、夫婦でたくさん話しあったり……。
「仕事もしながら、いろいろ見て、考えて。今できることの中で夫婦2人で到達したのは、かけがえのない家族の大事な時間を笑いながらハッピーに過ごしたいよねっていうこと。正解を追い求めても、正解はないんじゃないか?って気がついたんです」
人が一人ひとり違うように、家庭環境や仕事など、ライフスタイルはそれぞれ。だからこそ、ほかと比較するのではなく、目の前の世界の一人を大事にする……鈴木さんは当時を振り返りつつ、「今、家族で日々楽しくやれているのが嬉しい」と続けます。
「子どもたちはフリースクールも前向きに行ってます。“今日、学校でこんなことがあった”と、別にこちらが聞くわけでもなく喋ってくれるし、家族で話題に事欠かないんですよね。何かと比較するわけではないけれど、総じて楽しく、いい状態だと感じます」
子どもが自分の想像を超えていく快感
null人が人を育てるからこそ、嬉しいこともしんどいこともあるのが子育てです。十数年、3人のお子さんと接する中で幸せを感じるのはどんなときですか?と尋ねると……。
「幼いころの愛でるかわいさもあるけれど、成長して同志のような関係性になっていくと、どんどん楽しくなりますね。“子どもを育てなきゃ”“親として導かなきゃ”じゃなくて、子どもも1人の人間として認めるのが大事だと感じます。そうすると、どんどんよいところが見えてくるんですよ。
子どもが自分の想像を上まわることも幸せです。一緒にボードゲームをやっていても、“うわ、そう使う?”“なるほどね!”“自由だね〜”っていうふうに、親を上まわるような一手がカーンッて出てくるんですよ。これがかなり快感で、ああ、すごいなと驚きます」
鈴木さんは、子どもたちを尊重しているからこそ、子どもが自発的になれるような言動も心がけているそうです。
「僕は毎朝新聞を読むんですが、たとえば子どもが好きなバスケの記事があったら“あ、これ見てみ。千葉の高校のバスケチームが全国大会で勝ってるらしいよ”って言ってみる。バスケ好きから派生して、新聞というものに興味持つかもしれないでしょう。
あとは、わからない言葉があったら、僕はすぐに辞書を引いたり翻訳サイトで訳したりするんです。そういう姿を見せ続けることで、今わが家では辞書の説明文から“これは何という言葉でしょうか?”とクイズを出すブームがきています。
何事も、前向きに取り組んでる姿勢を見せるようにしたいですね」
日々はつながって、続いていく
null子育ても、家族の形も、そして自分の人生も、1日にして成らず。「すべてが“これをやった結果がこれです”っていう単純なものではなく、日々のつながりだと思うから」と鈴木さん。
「普段の子育てでも、多くの人に届ける本でも、自分は、何のために生きているのか? 勝ちとか負けとか正解とかはなくって、自分で道を切りひらいていくしかないということを伝えてゆきたいですね。
一見成功しているように見える人も、そう見えない人も、すべての人の時間の流れの中によいときもあれば悪いときもあって。大ピンチと感じることも、チャンスと表裏一体だったりしますよね。
すべては貴重な時間で、それが人生で。いかに自分なりの価値を見出して、ああ生きているって素晴らしいと思えるかどうか。そんな本を、これからも届けていけたらって思います」
撮影/五十嵐美弥(小学館)
鈴木のりたけさん
1975年、静岡県浜松市生まれ。グラフィックデザイナーを経て、絵本作家になる。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本賞読者賞、『しごとば 東京スカイツリー®』(ブロンズ新社)で第62回小学館児童出版文化賞。第2回やなせたかし文化賞受賞。『大ピンチずかん』(小学館)で第15回MOE絵本屋さん大賞2022 第1位。ほかの作品に「しごとば」シリーズ、『たべもんどう』「おでこはめえほん」シリーズ、「しごとへの道」シリーズ(ブロンズ社)、『ぼくのおふろ』『す~べりだい』『ぶららんこ』『ぼくのがっこう』(PHP研究所)、『おしりをしりたい』(小学館)、『かわ』(幻冬社)、『とんでもない』『なんでもない』(アリス館)、『うちゅうずし』(角川書店)などがある。千葉県在住。2男1女の父。
『大ピンチずかん2』作/鈴木のりたけ(1,650円税込み・小学館)
2022年に発売されて大ベストセラーとなった絵本『大ピンチずかん』の第二弾が、満を持して2023年11月に発売に! 進化した『大ピンチずかん2』では、子どもが陥りやすい大ピンチを、大ピンチレベルの順に掲載するのはそのままに、新たに採用した「大ピンチグラフ」で、6つの要素からその理由を解明しているぞ!
今なら特設サイトも充実だ。
朝ランが日課の編集者・ライター、女児の母。目標は「走れるおばあちゃん」。料理・暮らし・アウトドアなどの企画を編集・執筆しています。インスタグラム→@yuknote