さて、最終回は、読者の方と筆者が実際に言い換えフレーズを試した感想について、実践編としてお届けします。
叱り言葉のせいで子どもの気持ちを抑えつけていたことに気づいたり、イヤイヤに悩んでいたのに驚くほど素直に行動して感激したり……。まるで魔法がかかったように、親と子が素直になれたエピソードを紹介します!
片付け、きょうだい喧嘩…「しつけの間違い」に気がついた!
null「自分で片付けなさい!」のせいで、姉と弟が片づけを押し付け合う関係に…(7歳女の子と4歳男の子の母)
「『“あなたが使ったんでしょ? 片付けなさい!”と言われてきた子どもは、大人が指示しないとできなし、誰かが使っていたものは、“ぼくのじゃないもんねー”と片づけません。言われたことしかやらないようなしつけでは、将来、子どもが困りますよ』(第5回)というお話は、まさに将来の私の子どもたちのこと!
片付けの本質は、“物を大切にすること”だったり、“みんなが気持ちよく過ごすため”というメッセージにハッとしました」
「いまお兄ちゃんが使ってるから、使い終わるまで待とうね」を実践したら、弟が大泣き⁉(3歳&8歳男の子と11歳女の子の母)
「お姉ちゃんやお兄ちゃんが使っているおもちゃでも、3歳の弟が欲しがったらいつも譲らせていました。年が離れているので、上の子達を説得した方が私としても手っ取り早くて……。
でも、『一方的な“貸してあげなさい!”ではお互いのコミュニケーション力が育たない』(第7回)というお話が気になって実践フレーズを試してみたら、弟が“待てない~(涙)”と大騒ぎに。弟にとっては、貸してもらうのが当たり前になっていたんですね。それに、上の子達には、使いたい気持ちを我慢させていたのかも……。
『相手がきょうだいでも、いま使っているものを欲しがるのは、マナー違反”と教える中で、相手の気持や立場を理解できるようになる』ということだったので、これからも根気強く実践していこうと思います」
「かして」「いいよ」でもめるのを避けたくて、先回りしすぎていました!(7歳女の子の母)
「2年生になった娘がいまだに、友達の“かして”に、“いいよ”が言えないことが多くて困っていました。しかも、相手は年下だったりするのに……。
『相手のお母さんへの気兼ねや、トラブルを避けて早く解決したいという大人側の理由がある』(第7回)というお話を読んで、私は、娘の気持ちよりも周りのママの目を気にしていたんだということに気づきました。
おうちに友達を呼ぶときも、“貸してあげられるおもちゃしか出しちゃダメ!”と言ったり……。そうやって、表面的な仲の良さを求めることで、娘が相手の気持ちになれる機会を奪ってしまっていたように思います」
怒って言うことをきかせていたら、子どもが自分の気持ちを言えなくなっていた!(5歳&7歳男の子の母)
これは筆者自身の体験です。
井桁先生の取材の帰り、“今日から優しいお母さんになろう!”と決意。早速、実践フレーズ“心配しすぎてガミガミ怒っちゃったけど、ママが間違ってたら言ってね”(第8回)を試してみたら……。
「ママはいつも威張ってて、大王みたいだと思ってた」(兄)、「ママが怒ってるときに何か言ったら、もっと怒るからいつも黙ってた」(弟)と思いがけない本音を突き付けられました!
母としては、間違いのない人になれるように厳しく注意していたつもりだったのに、自分は“育て急ぐ親”の典型だと猛省です。
ストレスフルだった子どもとのシーンが驚くほどスムーズに!
null食事中の「早く!」を「頑張って食べてるね」に言い換えたら、スピードアップ!(6歳男の子の母)
「子どもが食べるのが遅いことに、ついイライラしてしまうので、『急いでいるのは大人の都合。子ども気持ちを考えて言葉にしてあげましょう』(第1回)を実践しました。
すると、“今日のご飯は多いよ~。でも、頑張る!”と言って、がんがん食べ始めたんです!
さらに、いつもは食後に遊び始めてしまうのですが、自らパジャマに着替えて寝る準備をし始めて……こんなこと初めてでした!」
丁寧に声をかけたら、嫌がっていた鼻水を拭かせてくれるように!(1歳の女の子と5歳&7歳男の子の母)
「2歳前後の幼児とコミュニケーションを取る鼻水の拭き方(第2回)を、1歳7カ月の娘に試してみました。
まず、“お鼻出てるよ~、自分で拭く?”と声をかけてみたら、自分で箱からティッシュを抜いて拭いたのですが、うまくできず……。そのタイミングで、“ママが拭く?”と声かけたら、じっとしていてくれて、井桁先生が教えてくれた通り!
何も聞かずに、えいっ!とやっていた時は、そっぽを向いて拭かせてくれなかったので、コミュニケーションが取れたことが嬉しくて、それ以来、娘の意思を聞く声かけをするようにしています。
お兄ちゃん達が赤ちゃんの時にも、こんな風にしてあげたかったな~と思いました」
服の脱がせ方を変えたら、お着替えのイヤイヤがなくなりました!(3歳男の子と5歳女の子の母)
「お姉ちゃんのときはお風呂の前のお着替えで困らなかったのに、弟はグズグズ嫌がるので、どうして?と思っていたんです。
そこで、『嫌がる原因は、お母さんの“服の脱がせ方”にある』(第2回)に書いてあった通りに、上着を脱がせるときに両腕を抜いてから最後に首を抜いてあげるやり方にしたら、すんなり! 下からめくりあげる脱がせ方が嫌だったとは……。
それ以来、グズることが少なくなり、助かっています」
寝かしつけの「鬼が来るよ!」をやめたら、夜泣きもやんだ!(4歳&5歳女の子と7歳男の子の母)
「3人でふざけあってちっとも寝ようとしないので、鬼の話をしたり、怒って寝かせていました。そんな日は、子ども達はため息をつきながら寝て、夜泣きをすることも……。
私も“今夜もやってしまった……”と反省する日々だったので、子ども達の手や足に触りながら“今日はたくさん歩いたね”とか、“手もいっぱい使ってお疲れ様だね”と話しながら寝かしつけ(第3回)をやってみました。
すると、寝つくときの顔がとても穏やかになって、夜泣きも少なくなった気がしています」
「服、着せて!」に応えてあげたら、朝の支度が時短になりました!(7歳・女の子と4歳・男の子の母)
「保育園に送る朝は、“服、着せて!”に“自分で着なさい!”の押し問答で、お互いに険悪になっていた私と4歳の息子……。
『やってあげればいいんです! 服を着せてあげることで、子どもの気持ちを抱っこしてあげているんですよというお話(第4回)に、“自分でやらせようとしなくても、着せてあげていいんだ!”と気が楽になりました。
すぐにやってあげられなくても“洗い物が終わったらね”と声をかけると騒がず待っていて、気持ちよく家を出られるようになりました」
他にも、「“ダメ”と叱り言葉を使わずに“〇〇した方がいいんじゃない?”と言い換えてみたら、子ども自身も友達と話すときに気を付けている場面を目撃しました!」(7歳・女の子の母)、「怒ってばかりいる日々の自分の育児が不安だったのですが、もっと子どもに優しくしていいとわかって、心がすーっとラクになりました。先生のお話が頭の片隅にあるだけでも、とても救われる思いです」(8歳&4歳・男の子の母)など、たくさんの感想が寄せられました。
集まったエビソードを井桁さんにお伝えしたところ、「皆さんのお子さんの様子を伺って、やはり子どもは素晴らしいなぁと、しみじみした思いです」とお返事をいただきました。
時間に追われる日々の中で、つい発してしまう“叱りワード”を、大人都合から子ども目線の言葉に変えるだけで、子どもの素晴らしさにたくさん出会える日々になりそうです! まだ試していないお父さん、お母さんは、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
【取材協力】
井桁容子(いげた ようこ)・・・保育・子育てカウンセラー。東京家政大学短期大学部保育科を卒業後、同大学が併設する乳幼児の保育・研究を実践する保育施設に42年間勤務。2018年4月より保育の現場からステージを移すことになり、全国での講演のほか、『すくすく子育て』(NHK、Eテレ)への出演、『いないいないばぁっ!』(NHK、Eテレ)の監修も行う。著書は、『保育でつむぐ子どもと親のいい関係』(小学館)など多数。男女の母でもある。
撮影(井桁さん)/黒石あみ(小学館)
取材・文/駿河真理子