Q.“仲良くして!”“ケンカはダメ!”と言っても喧嘩ばかり。思いっきりやらせた方がいいというけれど……
nullA.きょうだいのトラブルの訳を聞いていますか? 喧嘩は人の心を学ぶチャンスになる!
【実践フレーズ】「どうしたの? 何があった? ちょっとお話聞くから言ってみて」
「子どものイヤイヤについても同じですが、やっぱり大人側が一方的に決めつけて話を聞いてあげていないように思います(第2回)。
上の子にも怒った理由があって、下の子にも怒った理由が必ずある。 “どっちもどっちだ”みたいな時は、“じゃあ、怪我しない程度に納得するまでそうぞ”と(笑い)。時には自分の気持ちを思い切り出すことができるのも、きょうだいの良さですから。ただし、ケガにつながらないように“頭やおなかを蹴らない”とか顔を殴らない”というルールは必要です。
とかく大人は、子どもにセーブする力を育てようと急ぎがちですが、思い切り出すことで、“ちょっと”とか、“ほどほど”という加減や調整力が学べるのです。
子どもだって、保育園や幼稚園、小学校でストレスを抱えて帰ってくることがあります。そんな時に、安心できるきょうだい関係の中でつい、発散してしまうことも。表面的な仲良しを求める前に、お子さんの心の中に何か心配事がないか?とさりげなく探ることも大事です」
Q.お兄ちゃんが弟におもちゃを貸してくれなくて、意地悪なんです!
nullA.いま使っているのだから、貸せなくて当然です。一方的な“貸してあげなさい!”ではお互いのコミュニケーション力が育ちません
実践フレーズ「いまお兄ちゃんが使ってるから、使い終わるまで待つか、同じようなものを探してこようか」「どれくらい待てば貸してくれるか聞いてみようか」
「子どもの世界だからといって、大人が話も聞かずに早く解決しようと”こっちの勝ちー!”と軍配を挙げるようなことをすると、むしろ子どものコミュニケーション力を育ち損ねます。
”お兄ちゃんだから譲るべき”ではなく、他者が使っているものを欲しがるときは、兄でも弟でも欲しがることはマナー違反と教えてあげることが大事。
弟だから泣けばどうにかなるということではないことも伝えていくことが、相手の気持ちや立場を理解するチャンスになります。
本当のコミュニケーション力とは、ケンカをしないことではなく、自分の気持ちを表現しながら相手の気持ちになって考えて調整できる力のことです。
お兄ちゃんが意地悪なのではなく、大人の接し方に思い込みや決めつけなどがなかったか、振り返ってみてください。
それに、大人が表面的な仲良しを求めずに、子どもそれぞれの立場に立って対応したきょうだい喧嘩は、お友達との関係性や社会に出た時の人との関わりがうまくできるようになる大事な経験にもなりますよ」
お友達の“かして”に、“いいよ”が言えなくても大丈夫!
nullきょうだい同士の“かして”なら相手を待たせることができても、お友達となると親同士の遠慮もあって難しいもの。井桁さんは、それでも考え方は同じと教えてくれます。
「一生懸命おもちゃを使っている子がいるのに、“自分が使いたいときには、かして、って言うのよ?”と教える大人が多いのですが、これは間違いです。
大人の世界に置き換えたら、おかしなことですよね。誰かから使っているものを”貸して”と言われて、貸さなければならないと強いられるのは、恐喝されているのと同じくらい理不尽な出来事だと捉えていただきたいですね」
“いーいーよ”が言えない子どもの気持ち。子どもの遊び場でよくあるシーンで見ていきましょう。
Aくんがブロックで何か作っている。Bくんはブロックが使いたい様子。
Bくんの母:「“かーしーて”って言ってごらん?」
Bくん:「かーしーて!」
Aくんの母:「貸してあげなさい!」
Aくんの心の声:(えー! ぼく、いま使ってるよ? ママはBくんの味方!?)
Bくん:「かーしーて!!」
Aくんの母:「一個くらい貸してあげなさい!! 」
Aくんの心の声:(このブロックが1個でも欠けたら車が作れないのに、お母さん全然分かってない!!)
「どうしてAくんのお母さんは、我が子の気持ちにこんなにも鈍感なことが言えるのかというと、相手の子どものお母さんへの気兼ねや、トラブルを避けて早く解決したいという大人側の理由があるからですね。それから、自分の気持ちを抑えて譲ることが優しさだと思っているからです。
本当の優しさというのは、相手の気持ちになれることです。そのためには、自分の気持ちを幼いうちに十分に表現し、そのことを身近な大人に大切にしてもらうことが土台になって気づいていくことなのです。
自分の気持ちを押し殺して子どもに、心に無い“いいよ”と言わせていると、友だちなんかいなければいいのに……という思いを強めてしまうことになり、逆効果です。
他にも、子ども同士のトラブルに大人が”ごめんね””いいよ”を言わせることも、“自分の気持ちは理解されない”という無力感を育て、“心に無いことでも謝れば許される”つまり、“人付き合いは表面的なもので良い”と教えていることになります。そのような意味で”いいよ”を強要することも、やっぱり子どもの気持ちを抑えつけてしまっています。
このことは家庭だけでなく、保育や教育の場でもよく見受けられるので、気を付けて欲しいところですね」
お友達とトラブルになりそう!と思うと、我が子の気持ちはさておき、“貸してあげなさい!”とか”ごめんなさい、でしょ!?”と言いたくなりますが、井桁さんが強く発信する『 “かして””いいよ”、”ごめんね””いいよ”では子どもの心も社会性も育たない』という認識が親同士の間で広まれば、気兼ねなく子供の気持ちに寄り添えるようになるかもしれませんね。
次回は、井桁さんが子どもの“心の育ち”を待てない現代の親に贈るメッセージをお届けします。
【取材協力】
井桁容子(いげた ようこ)・・・保育・子育てカウンセラー。東京家政大学短期大学部保育科を卒業後、同大学が併設する乳幼児の保育・研究を実践する保育施設に42年間勤務。2018年4月より保育の現場からステージを移すことになり、全国での講演のほか、『すくすく子育て』(NHK、Eテレ)への出演、『いないいないばぁっ!』(NHK Eテレ)の監修も行う。著書は、『保育でつむぐ子どもと親のいい関係』(小学館)など多数。男女の母でもある。
撮影(井桁さん)/黒石あみ(小学館)
取材・文/駿河真理子