『品良く美しく伝わる「大和言葉」たしなみ帖』(永岡書店)などの著書を持つ国語講師の吉田裕子さんに“不躾”の使い方についてうかがいました。
「不躾」(ぶしつけ)の意味は?
null“躾”(しつけ)は、身に着いた礼儀作法のこと。“仕付け”とも表記します。一方、“不躾”(ぶしつけ)は、“礼儀作法をわきまえていないこと”、“無礼”という意味があります。
ビジネスシーンで「不躾」はどんな時に使うといい?
null“不躾”という言葉は、ビジネスシーンでは、おもに2つの場面で使われています。
(1)依頼をする時(難易度の高い依頼も含む)
(2)立ち入った質問をする時
いずれの場合も“不躾なお願いで申し訳ありませんが”や“不躾なことを聞きますが”と前置きすることで、厚かましいこと、失礼なことを重々承知していることを詫びながら、本題の内容を和らげる“クッション言葉”として使われます。
「不躾」の例文は?
null続いて、“不躾”を使った例文を、依頼と質問のシーンに分けてご紹介します。
(1)依頼をする時
・不躾なお願いではありますが、何卒よろしくお願いいたします。
・不躾ではございますが、○○様の肩書きを伺ってもよろしいでしょうか。
(2)立ち入った質問をする時
・不躾ながら、予算はいくらくらいでお考えでしょうか?
・不躾なことを聞きますが、どうして前職を退職されたのですか?
「不躾」の使い方の注意点やNG使用例は?
null当然のことではありますが、“不躾”と前置きすれば、距離感をわきまえずにどんなことを聞いてもいいというわけではありません。
【「不躾」のNG使用例】
・不躾なことを聞きますけど、○○さんってどうして離婚されたんですか?
→たとえ“不躾”と前置きしても、距離感をわきまえずにプライベートに踏み込んだ質問をするべきではありません。
「不躾」を言い換えると?
null続いて、“不躾”の言い換え表現をご紹介します。
(1)失礼ですが
“失礼”も“不躾”と同様に“礼を欠く”という意味があります。平易な表現なので口頭でも伝わりやすいでしょう。
【例文】
・失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?
・こんなことをお聞きするのは失礼かもしれませんが、この商品の弱みも聞かせてください。
(2)立ち入ったことをお聞きしますが
質問の際に使います。聞くのが望ましいことではないことまで踏み込んでいるという自覚をもって使う言葉です。
【例文】
・立ち入ったことをお聞きしますが、この商品の特許取得の予定はありますか?
(3)ご無礼をお許しください
“無礼”は“不躾”の類義語で、礼儀をわきまえないことを意味します。ちなみに“ご無礼”の“ご”は丁寧の接頭語。自分が主語でも“ご無礼”を使うことができます。
【例文】
・突然連絡を差し上げるご無礼をお許しください。
(4)厚かましいお願いで恐縮ですが
自分の分をわきまえずに、ずうずうしいという意味。依頼の際によく使われています。
【例文】
・厚かましいお願いで恐縮ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。
・厚かましいとは存じますが、お言葉に甘えて頂戴します。
今回は、“不躾”(ぶしつけ)の意味や使用例をご紹介しました。
謙虚な言葉遣いは、人間関係に波風が立つのを防ぐ役割を担っています。ちょっと難しいお願いをする時には、今回ご紹介した言葉を使ってみてはいかがでしょうか。
取材・文/北川和子
国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。