家族みんなが片付けられる、片づけ・収納の仕組みを考えてみたら…
null水谷妙子さんは武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業後、株式会社良品計画に13年間勤務し、『無印良品』の生活雑貨の商品企画やデザインを500点以上手掛けてきました。『無印良品』の収納用品などを開発しながらも、「自分は片付けられない人だった」と水谷さんは話します。
「もともと家事も育児も1人で抱えて、大失敗した経験があります。特に初めての出産後、慣れない育児に追われながら、“母なのに片付けられない”という自己嫌悪はピークに達しました。そこで、思い切って片付けサービスをお願いしたら、劇的に暮らしがラクになったんです。
それから、SNSに溢れているような、同じ収納ケースで美しく整えたり、キレイにラベリングすることが、果たして私が目指す収納なのだろうか? 私も家族も本当に“片付けられる”って一体どういうことなのだろう? そんな風に自分が求める収納のカタチをひとつひとつ見直していくことを始めました」
その結果、水谷さんが辿り着いたのは、「誰でもどんな時でも、間違えようのない、収納の仕組みを作る」こと。
『無印良品』の商品企画では、見た目に惑わされず、物事の本質を捉えることを徹底的に叩き込まれたという水谷さん。そこで培ったものづくりの知識や経験を融合しながら、独自の収納法を明快に提案して、現在は3児の母(長女7才、長男5才、次男3才)でありながら、新進気鋭の整理収納アドバイザーとして、テレビやWeb、雑誌などで注目されています。
そんな水谷さんの収納ルールをkufura読者にもご紹介。これを実践してみると、驚くほどストレスなく片付けられるようになるはずです。それでは早速、解説してもらいましょう。
1:「使用頻度で分ける」ことで、グンと使いやすくなる
nullもともと片付けが苦手で、「よく使うもの」と「そんなに使わないもの」が混在していたという水谷さん。
「まさにそれが片付けられない原因でした。そこで、まずは“よく使うもの”、“あまり使わないもの”に分けることが大切だと気付いたんです。
自分の暮らしの中でこれは一体どんなものなのか、どのように使っているものなのか、それを一度見つめ直してみる。毎日よく使うものであれば“一軍”に、たまにしか使わないものであれば“二軍”に認定。使用頻度が異なるものが混ざらないように、分けることから始めてみましょう。
さらに、一軍は使いやすい配置や取り出しやすい工夫をして収納すること。これだけで気持ちよく片付けられるうえ、暮らしがグンと快適に変わりますよ」
それでは、具体的にそれぞれの収納を見ていきましょう。
◆毎日使うフライパンは「立てて」、たまに使う鍋は「重ねて」収納
頻度の違う調理道具が一緒に収納されていると、毎日使う調理道具をパッと取り出せず、小さなストレスをその都度感じてしまいます。そこで水谷さんは、よく使うフライパンや鍋は一軍に、たまにしか使わない大きな鍋や卵焼き器などは二軍に認定し、別々に収納しています。
「毎日使うフライパンや鍋は、サッと一瞬で取り出せるように立てて収納。逆に、あまり頻繁に使わない大きくて重い鍋などは、ちょっと取り出しづらくてもOK。重ねてたっぷり収納しています」
ちなみに、カタチが不揃いで取り出しにくい調理ツールは、厳密な場所はあえて決めずに、1マスに1つずつ、収納ケースにざっくり分けるだけでOK。居場所を決めすぎない方が、戻しやすい場合もありますね。
◆一軍を手前に配置すれば、「10cm開けるだけ」で取り出せる
シンク下の引き出しには、一軍の洗剤やふきんを手前に、二軍のストック類を後ろに配置。
「よく使う一軍を手前に配置することで、中を見なくても“ちょい開け”すれば取り出せます。わざわざ全部引き出さなくても、10cm開けるだけでいいんです」
◆家族用のカトラリーは上段に、来客用は下段に
大人のお箸や子ども用のスプーンなど、毎日使うカトラリーは1つにまとめて収納ケースにIN。そしてケースごと、そのまま食卓へ。
「よく使う家族用は上段、来客用は下段と、カトラリーも使用頻度で分けて、取り出しやすいように収納しています」
2:「見えているから探さない」使いたいものが一目瞭然!
null水谷さんは、食事の準備は「毎食20分で作る」のがマイルール。そのためには、食材は隠さずに、パッと見てすぐに分かることが何より大切であると考えます。
「SNSを見ると、中身が見えない収納ケースがずらりと並んでいる姿や、ラベルがキレイに整っている収納がよく目に留まります。でも、“収納用品に収めること”だけが、私の目指すべきゴールではないと思っています。それよりも、自分や家族が実際に続けられる、自分たちのスタイルに合った収納法を考えることが大切なんです」
片付けが苦手な人ほど、整った収納をゴールとして目指しやすく、そのため、収納用品に頼ってしまうことが多いかもしれません。でも、本当に大事なのはそのものが自分にとってどういう使い方をしたいものなのか、どのように使うと心地よいのか、その本質を見極めることが必要だと、水谷さんは話します。
「私は、毎食20分で食事を作りたいので、そのためには、冷蔵庫や戸棚を開けた瞬間に、どこにどの食材があるかパッと分かることを優先しています。だから、中が見える半透明のケースやボックスに入れてひと目で分かるようにして、詰め替えることもしていません。
自分が『無印良品』の商品開発に携わっていた経験から、パッケージというのは使いやすさや見やすさを追求した、企業努力の賜物だと感じています。ですから、そのまま使用した方が圧倒的に使いやすいんですね」
そんな水谷さんのキッチンは、冷蔵庫や戸棚を開けると、食材がどこにあるのか、扉を開けた瞬間に一目瞭然!
◆冷蔵庫の食材は、すぐ分かるよう半透明のケースに入れて
冷蔵庫収納は、「時短」を追求しているという水谷さん。中身がパッと分かり、冷蔵庫の奥まで使える半透明の細長いケースに入れて、食材を上手に分類しています。
「賞味期限が近いもの、開封済みで早く食べ切りたいものなどは、まとめて1つのケースに入れて、目に付きやすい場所に置いています。これで食べ忘れを防止。
しょうゆやドレッシングなどの調味料も市販のパッケージのまま、あえて詰め替えません。みりんや料理酒は中身が似ているので、詰め替えない方がひと目で分かり、取り出す際に迷わないんです」
◆ストック食材は半透明のボックスに入れて「隠さない」
中身が見えないケースを並べ、美しくラベリングした収納が流行っていますが、水谷さんはあえて「隠さない」収納を選択。
「半透明のボックスに入れると、扉を開けた瞬間に中身が分かります。浅めのボックスを選び、手前に小さめの食材を入れると、少し引き出すだけで奥まで見渡せますよ」
◆残量を把握できるから、ムダな買い足しを防止できる
子どもたちのお菓子やお茶のパックは、袋から全部出してケースに入れて収納。
「個装のお菓子は袋から出してバラバラにして見えやすくすることで残っている量が分かるので、ムダな買い足しがなくなりました。お茶のパックなど、湿気やホコリが気になるものはフタつきのケースに入れて保管。フタつきのケースは目的に合わせて、ワンアクションで取り出せるものがおすすめです」
3:夫婦で使うから「家族みんなが使いやすい」を目指して
null水谷家では、夫が食洗機担当。夫婦で使うから「みんなが使いやすい」を常に考えているという水谷さん。
「もともと私だけが料理を担当していましたが、子どもが3人に増え、自分ひとりでは限界を感じました。そこで、夫に朝食を担当してもらうように。今では、半分以上の家事をシェアしています。
その時に大切なのは、夫ができること、やりたいこと、やりたくないことなどを一緒に話し合うこと。自分ひとりで、これやって!と決めてしまうのではなく、夫の意見も聞きながら、家族みんなが使いやすい収納の仕組みを作っていくことが重要なんです。お互いに相談して決めることで、責任感が湧き、無理なく続けていける方法を自然と見つけることができるんですね」
◆夫ができる係を決めることで、上手に家事をシェア
食洗機を1日2回使うという水谷家。食器やカトラリーの置き場所が明確に決まっているので、誰でも迷わず、すぐに食器を片付けることができます。
「今では夫が食器を手早くスムーズに片付けてくれます。誰が使っても同じように使える仕組みのおかげです」
以上、水谷さんのキッチン収納でした。編集部一同、目からウロコだったのは、「余計なことはしなくていい」ということ。
確かに、完璧に収納された美しい状態をゴールにしてしまうと、その状態を毎日続けることが苦しくなってしまうかもしれません。それよりも、片付いた状態にするためには何が必要か、ものや家族と向き合うことから始めてみる。他人から見たら一見整っていないと感じても、自分や家族が片付けられているのなら、それこそ「みんなで続けられる生きた収納」なのかもしれません。
次回は、リビング&キッズルーム編をご紹介。「家族が片付けられる仕組み作り」のコツについて、詳しく解説してもらいます。
【取材協力】
水谷妙子
整理収納アドバイザー。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後、株式会社良品計画で『無印良品』の生活雑貨の商品企画・デザインを13年間務め、手掛けた商品は500点を超える。2018年に「家が整うと、家族も整う」というコンセプトのもと、『ものとかぞく』を起業し、雑誌やWeb、テレビなどで活躍。著書に『水谷妙子の片づく家 余計なことは何ひとつしていません。』(主婦と生活社)など。監修した、子どもたちに片付けのコツを教える『すみっコぐらしのおかたづけ』(小学館)も人気。Instagram @monotokazoku
取材・文/岸綾香