十代の頃からイラストレーターとして活躍している田村セツコ先生(以下、セツコ先生)。85歳の今も現役で、新作を描いたり、個展を開催したりと活動的です。
そんなセツコ先生の愛用手帳を見せてもらいました。
「毎年、東急ハンズに行って適当に買ってるの。『モレスキン』っていうの? 知らなかったわ」(以下「」内、セツコ先生)
『モレスキン』の手帳は19世紀後半に誕生し、ピカソやヘミングウェイも愛用していたというもの。現在はノートブックからダイアリー、トラベラーなど様々な種類が展開されています。セツコ先生が愛用しているものは、どうやらノートブックタイプのよう。
「ピカソも使っていたなんて聞いて、嬉しくなっちゃうわ」
気づいたこと、素敵なセリフなどを書き留める
null「カフェとか家にいるとき、ちょっと時間があると手帳を開くんです。ところがね、出先でいろいろ見聞きすると紙切れに書いちゃうんです。それでこの手帳にいっぱい紙切れやメモが挟まっているの(笑)。もうはみ出ちゃって、輪ゴムでとめないといけないの」
セツコ先生のメモを拝見させていただくと、新聞の切り抜きだったり、スターバックスのシールだったり、テレビで聴いた言葉だったりと、まるで先生の頭の中を見せてもらっているよう。
「縦にも横にも斜めにも書いちゃう(笑)。絵になりそうな言葉を書き留めています。この前も“ショパンを着て歩く”っていうフレーズがひらめいて気に入ったので、メモしました。じゃないとすぐ忘れちゃうから。私メモ魔なの。
スターバックスは大好きで、よく行きます。あそこって、仕事やお勉強している若い人や打ち合わせをする人とか、いろんな人がいるでしょ? そういう何かやっている中にいるのが楽しいのよ」
「腹が立つ」ということがない
nullセツコ先生は、幼いころからずっと日記も書いているそうです。
「日記は“友達”ですね。『アンネの日記』の“キティ”のように名前をつけて、なんでも話せる友達。少女の頃から書き始めて、そのまま大人になって、おばあさんになっても日記を書いている。私のいろんな気持ちを書いているの。面白かったことは読み返しても楽しいし、ちょっとイヤな気持ちになったことも、1日経って読み返してみたらクリアしちゃうし。
だから”腹が立つ”っていう感情も、どこかに消えて行っちゃう。
そうして、いいことも嫌なことも両方とも楽しめる“不思議な人”になれるのかも。そうやっていけば、ちょっと嫌なことなんてなくなっちゃうし。
あと私、歌を歌うのが大好きで、歌詞をメモして冷蔵庫に貼って歌いながら料理したりするの。クサクサした時にも、無理やり歌う。すると、なんかエンジンがかかってくるみたいで、健康にも良さそうでしょ?
大らかっていうより、抜けてるんじゃないかしら(笑)」
セツコ先生は著書の中で、お母様と妹さんの介護をなさっていた時にも歌を歌っていたと書かれていました。先生にとって歌は心のバランスを元に戻してくれる、ひみつのお薬のようなものなのかも。
セツコ先生がいつまでもいきいきとして、楽しそうなのは、日々の暮らしの中で発見した出来事をメモするような、瑞々しい好奇心があるからなのかもしれませんね。
撮影/黒石あみ(小学館)
田村セツコ
イラストレーター。1938年東京生まれ。60年代に『りぼん』『なかよし』『マーガレット』などの表紙を担当。『おちゃめなふたご』シリーズの表紙イラストほか、多数の童話作品のイラストを手掛ける。最新著書はトートバッグがついた『田村セツコ 85歳のHappy Surprise!』(小学館)。