人の熱意には、人を動かす力がある
null映画に登場するのは、鼻の手術を専門にする大村和弘医師。タイトルにもある「Bala(バラー)」はミャンマー語で「力持ち」という意味で、大村先生は現地の人たちから親しみを込めてそう呼ばれています。
大村先生が海外活動に興味を持ったのは、医師になったばかりの頃に、たまたま参加した講演会がきっかけです。ミャンマーで医療支援活動を行うNPO法人ジャパンハート代表の吉岡秀人先生の講演を聞いて、衝撃を受けたといいます。
吉岡先生が話したのは、ミャンマーの厳しい医療事情やジャパンハートの医師たちがどんな支援をしているかということ。話の内容はもちろん、大村先生が驚かされたのは、その熱量でした。
「なんて熱い人なんだろう。今どき、こんなに熱い思いを持っている人がいるなんて……」 気付いたときには、大村先生の心の中に「いつか自分も東南アジアで支援活動をしたい」という夢が生まれていました。その夢が、現在まで続く海外活動の原動力になっているのです。
面白いことに、熱量は連鎖します。映画の中には、大村先生の講演を聞いたことがきっかけで、海外活動を始めたという若い医師が登場。かつて大村先生が吉岡先生の影響で行動を起こしたように、今度は大村先生の姿を見た誰かが、新たな一歩を踏み出しているのです。
人の熱意には、人を動かす力がある――。映画『Dr. Bala』は、私たちにそのことを教えてくれています。
海外で活躍する医師の姿を見て、世界が広がる
null大村先生は、1年間に1週間の休みを利用して東南アジアに行き、これまで12年間にわたって現地の医師たちに医療技術を伝えるボランティアを続けてきました。1年に1週間というと、「短い」と感じる人もいるかもしれません。でも、「短い」からこそ長く続けられる。
実際に、大村先生が長年活動を続けたことで、手術の技術を教わった医師たちはメキメキと成長していきます。そして、現地の医療も大きく変わろうとしています。
大村先生が目指したのは、自らが治療するだけではなく、現地の医師たちに技術を教えて、彼らが自分たちの力でできるようにすること。そうした仕組み作りは、医療の世界だけに限らず、私たちが普段の仕事や生活において、誰かを「支援したい」と思ったときにも、大事な視点になりそうです。
映画を観た人たちが「自分も何かしたい」と思えるのは、大村先生がボランティア活動を心から楽しんでいるから。これから将来を考える子どもたちにとって、大村先生のように生き生きと世界で活動している人の姿は、きっと刺激になるはずです。その刺激が、子どもたちの可能性を広げることにつながるのではないでしょうか。
映画を制作したコービー島田監督は、「この映画には、子どもたちの知らない世界がたくさん映っています。それは、大人の方にとってもそうかもしれません。私も映画を作ったことで知った歴史や文化、事実がたくさんありました」と話します。
以前、オンラインで親子向けの上映会を開催したときには、上映後に子どもたちから次々と質問が寄せられたそうです。映画を観た後には、きっと誰かと話したくなる。それも『Dr. Bala』の魅力のひとつです。
「観た人たちからは、よく“笑顔が多い映画ですね”と言われるんです。だから、ドキュメンタリー映画は“重い”イメージがあって苦手という方にも、楽しんでいただけると思います。気軽な気持ちで劇場に来ていただけたら嬉しいです」(コービー監督)
日本での上映に向けて、大村先生はこんなメッセージを伝えています。
「特別な才能があるわけではない私が、これまで自分のできることをコツコツと続けてきました。そうして出会えたのが、この映画に登場するたくさんの人たちの笑顔です。映画を通して、皆さんがその手に持っている“何か”に改めて目を向け、それによってさらに多くの笑顔があふれることを願っています」
ほんのちょっとしたきっかけで、夢が生まれて、人生が動き始める。もしかしたら、この映画は、お子さんたちが将来を考えるひとつのヒントになるかもしれません。ぜひ映画館で、大村先生の熱量を感じてみてください。
(取材・文/安藤梢 トップ写真撮影/中村力也)
【上映情報】
映画『Dr. Bala』
公式サイト:Dr.Bala/Japanese — KOBY PICTURES (kobypics.com)
4月29日(土)から 東京・ポレポレ東中野にて上映スタート
・詳しい上映日時は劇場サイトにてご確認ください
・GW期間中の4月29日~5月7日は、上映後にトークイベントが予定されています。