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平野レミさんに聞く、食と家族。「自分を、さておいちゃダメよ。“私”が食べたいものを作ればいいの」【前編】

「おいしい!」と笑顔になればすべてOK。アイディア料理の元祖・平野レミさんが発信する、“料理の決まりごとにこだわらない”ワイルドで簡単な料理は世代を超え大人気です。“料理愛好家・平野レミ”として、家庭料理に驚きと新風を巻き起こし続けて40余年、いまでは3人の孫をもつ姑でもあるレミさんに、このコロナ禍、ストレスを上手に乗り越える“心と手の抜きかた”を伺いました。

さらに、残ったお餅で作る簡単激ウマメニューと、まとめない・形にしなくていいレミさんの代表作「食べれば○○〜」シリーズのレシピ付きです!

新年の抱負より今日の愉快。1日を笑って過ごすことに全力投球しなきゃ!

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お正月になるとさ、必ず“今年の抱負は?”とか聞いたりするじゃない? あれ、私は大っ嫌いなの。そんなこと決めちゃったら、365日もその通りに生きていかなきゃいけないでしょ。窮屈ったらないわ(笑)。ましてや、去年からこんな未曾有の事態が続いているんだもの。今日を元気に笑って終えられたら、それだけで上出来。万々歳よ」

私がレミさんとお会いするのは約5年ぶり。以前と変わらぬ大きな笑顔で「いらっしゃい!」と迎えていただき、言ったが早いか「紅茶でいい?」と言いながらキッチンへ駆け込んでいく姿に、こちらも「はい!」と心が駆け出します。話が始まれば爆笑、脱線、そしてまた爆笑。

じゃあ、どうやって笑って1日を終えればいいかというとね、やっぱり“ごちそうさま!”って元気に言える食事、それがベースなわけ。おいしいなぁってモリモリ食べてお腹いっぱいになるとさ、眠くなるでしょ? あれはいちばん幸せな動物本能で、チータやライオンだったらそこで寝ちゃうんだけど、人間は歳取ってそれやるとぶくぶく太るから要注意(笑)!」

「ちゃんとやらなきゃ」をやめる

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コロナ禍にあって自宅で過ごす時間が増え、家族と毎日食卓を囲むことが日常となって、私たちの生活は大きく変わりました。その分、妻であり母である私たち女性には、まるで“当たり前のように”家族の健康を守る責任がのしかかり、やり場のないストレスになることも……。

「そうよねえ、まだ子どもが小さくて、ましてや仕事もしていたら大変だと思います。やんなっちゃうわよね。子どもたちにちゃんと食べさせなきゃいけないし、感染から守らなきゃいけないし、家計のやりくりもしなきゃいけないし……って、毎日心配でしょうがないわよね。

私はさ、まずお母さんが、“ちゃんとやらなきゃ”って自分に言い聞かせるのを止めたらいいと思う。大丈夫。そんなこと思う時点で、もう充分、ちゃんとやってるからさ(笑)。

自分も大事なのよ。さておいちゃいけない。食事だって、自分が食べたいものを作ればいいじゃない。それを子どもも食べやすいようにちょっと工夫すればいいのよ」

和田家の家訓は「肉の3倍野菜を摂る」。

どんなに仕事が忙しくても、レミさんの手料理が大好きだった夫でイラストレーターの和田誠さん(201910月に永眠)とふたりの息子のために、肉や魚のメインおかず、野菜、汁ものとご飯という基本の食事を食卓に並べてきたレミさん。どうしてもたんぱく質に一極集中しがちな男子に野菜もしっかり食べてもらうため、閃いたのが「食べれば○○」おかずでした。

ごっくんすれば結果オーライ!あの名レシピの誕生秘話

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「口の中で帳尻が合ってればOK、とするわけ。たとえばコロッケは、成形して卵とパン粉つけて油で揚げて……って、結構面倒じゃない?

で、野菜食べさせなきゃ、ってキャベツを一生懸命せん切りしても、絶対に残るのよ、せん切りが! じゃあ、てんこ盛りのキャベツのせん切りを大皿に敷いて、その上にレンチンして潰したじゃがいも、炒めたひき肉と玉ねぎをのせちゃえと。最後に粗く砕いたコーンフレークを散らして、ブルドッグソースをわーっとかけたら、『ごっくんコロッケ』降臨よ(笑)。

これならキャベツも一緒に食べざるを得ないし、口の中に入れちゃえば、ご飯のお代わり必至のコロッケパラダイスよ! カツサンドも同じ発想で、とんかつもパンもひと口大に切って、キャベツのせん切りと一緒にサラダボウルでトスしてね。小さい子どもにはかえってこの方が食べやすいと思います」

このほか、鮭をひと口フライにしてサラダに混ぜたり、ロールキャベツは包まないで段々に重ねる、スープがお楽しみの小籠包は皮で挟んで蒸す。焼肉はレタスをお皿代わりに、クルッと包んで食べる……。

「これがおいしい! ウチはこれで上等!と自信を持ってさ、手間は省いて“愛”を込めるのよ。さあ、おいしいのできたよ! 食べるよー!と、笑顔でいてほしいな」

料理愛好家としてデビューしてまもなく、料理番組『きょうの料理』(NHK)に出演することに。メニューは「牛トマ」。薄切り牛肉とトマトを炒めるだけの簡単料理でした。「いつも通り、トマトを手でぐしゃぐしゃっとつぶしたの。そしたら放送のあと、NHKに抗議の電話がいっぱいかかってきたんですって。“あの下品なやり方はなんだ”って。私みたいに早口でべらべら言いながら、手でトマトをぐちゃっと潰すお料理の先生なんかいなかったから、見てる人はびっくりしちゃったのね(笑)」

レミさんは家族の絆を固め、深めるのはいまも昔も「おふくろの味」だと言い切ります。

ただし、食べてる最中は、子どもに成績や宿題がどうとか、旦那にアレしてないコレがだめ……と、ダメ出しお小言は禁止。

せっかくのご飯がまずくなって食べたくなくなるし、食卓にもつきたくなくなっちゃうから。ごちそうさまをしてから“ちょっと待って!”が正解。お茶を飲みながらじっくりと話をつけましょうね(笑)

 

次回は、47年連れ添った最愛の夫・和田誠さんとのエピソードと、思い出の料理を紹介します。

【レミさんのとっておき】その1:平野家伝来の味「にらもち」

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料理上手だった母からレミさんが受け継いだ平野家のおもちレシピで、旬のニラ、にんにく風味のバターじょうゆがクセになる絶品。これならおもちを食べきるのもあっという間かも!

(材料)2人分

◎ニラ 1束◎切りもち 4個◎バター 大さじ2◎にんにく 1片◎しょうゆ 小さじ12

(作り方)

(1)にらをさっとゆでて冷水に取り、水気を絞って包丁で細かく刻む。(2)切り餅に軽く水をふり、1個ずつラップし、600wのレンジで130秒加熱する。(3)もちが熱いうちににらを混ぜ込み、手に水をつけながら食べやすい大きさに手早く丸めて器に盛る。(4)バターとにんにくをフライパンに入れて弱火にかけ、バターが溶け、にんにくの香りが立ったらしょうゆを加えて火を切る。もちに回しかけてできあがり。

【レミさんのとっておき】その2 家族一同、大歓声の「ごっくんコロッケ」

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まだ息子さんが幼いころ、夜遅くに帰宅したレミさんに「コロッケが食べたい!」とリクエストが。「いまから作るのは大変だな」と思ったレミさん、ふと「食べた時の味がコロッケならいいんじゃない!?」と閃いたのがこれ。所要時間約15分!

(材料)4人分

◎じゃがいも 中4個◎塩・こしょう 各少量◎バター 20g◎サラダ油 大さじ1◎玉ねぎ 1/2個◎合いびき肉 200g◎酒 大さじ1◎ナツメグ(粉末) 少量◎キャベツのせん切り 4枚分◎コーンフレーク(粗く砕く) 1/2カップ◎中濃ソース 適量◎パセリのみじん切り(あれば) 適量

(作り方)

(1)じゃがいもは皮ごと洗って水気をつけたまま1個ずつラップで包み、600wのレンジで12分間加熱する。途中、上下を一度返す。(2)じゃがいもが熱いうちに皮を剥き、ボウルに入れてフォークで粗く潰し、塩、こしょう、バターを加えて混ぜる。(3)フライパンを中火にかけてサラダ油を熱し、みじん切りにした玉ねぎを炒め、玉ねぎが透き通ったらひき肉を加えて炒める。(4)酒を加え、ひき肉がパラパラになるまで火が通ったら塩、こしょうナツメグを入れ、味を調えて火を切る。(5)皿に、キャベツ→じゃがいも→ひき肉の順に高さを出しながら盛りつける。コーンフレークとパセリをちらし、中濃ソースをかけて食べる。

レミさんおなじみ、すっぴん時のお面姿!

ひらのれみ◎料理愛好家・シャンソン歌手。

1972年にイラストレーターの和田誠さんと結婚後、主婦として家庭料理を作り続けた経験を生かし、「料理愛好家」として活躍。数々のアイディア料理を発信中。また、「レミパン」やエプロン、調味料などの開発も手がける。https://remy.jp/

「食べる人が元気になれば、 きっと野菜だって喜んでくれると思うんです」 最新刊『野菜の恩返し』

「食べれば○○〜」シリーズをはじめ、野菜調理の時短レンチンワザ、「牛トマ」「バカのアホ炒め」の伝説的レシピなど、野菜をおいしく楽しく食べられるレシピ103品を収録。
『野菜の恩返し』主婦の友社刊 1,400円(本体価格)
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