医療費控除の基礎知識 対象期間や控除額の計算方法を教えて!
null対象になるのはいつからいつまでの医療費?
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に、自分または自分と生計を同一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費の合計が一定額を超えたとき、その医療費の額を基に計算される金額の「所得控除」を受けられる制度です。
つまり、自分だけでなく一緒に生活する家族にかかった医療費も合わせて所得控除の対象になる、というわけです。
そもそも所得控除って何?「収入」と「所得」の違い
ここで、まず「所得控除とは何か」について簡単に解説します。
会社からもらった給与や賞与、パートやアルバイトで得た給与を「収入(給与収入)」と言います。店などを経営し、そこから得た売上げも「収入(事業収入)」となります。一方「所得」とは、「収入」から必要経費を引いて残った金額を差します。
所得税や住民税の計算は、この「所得」(課税所得ともいう)をもとに算出します。
例えば、店などを経営する個人事業主の場合、品物を売って得た金額が事業の「収入」となります。品物を売るためにかかった、仕入代金などの必要経費を、この「収入」から引いた額が「所得」となります。ですから、「所得」と「収入」を比べると、収入の金額の方が大きくなります。
会社勤めや年金受給者の場合は、上記の個人事業主などと違って必要経費を計算せず、一定の式にあてはめて、「収入」から「所得」を計算します。
給与である「収入」から引く必要経費に当たるものを「給与所得控除」といい、年金である「収入」から引く必要経費に当たるものを「公的年金等控除額」といいます。
「所得控除」とは、所得から一定の金額(医療費控除の場合は、一定額を超えた医療費)を差し引く制度のことです。所得税は所得金額にかかるため、所得金額が大きいほど税金も多くかかります。逆に所得金額が減れば所得税の金額も低くなる、というわけです。
つまり医療費控除とは、所得からかかりすぎた医療費分を引くことで所得金額を低くし、所得税をおさえる制度を言います。
サラリーマンなど、給与をもらう時点ですでに税金が差し引かれている場合、払い過ぎた税金の一部が「還付金」というかたちで戻ってきます。自営業者などは、確定申告をして税金の過不足を精算します( 青色申告の場合、赤字なら翌年以降3年間繰り越すことができます)。
医療費控除で税金はいくら安くなる?控除額の計算方法
医療費控除額は、以下の式で計算できます。
実際に支払った医療費の合計額-Aの金額-Bの金額=医療費控除額
Aの金額は、保険金などで補てんされる金額を指します。例えば、生命保険契約などで支給される入院費給付金や、健康保険などで支給される高額療養費、家族療養費、出産育児一時金などです。
保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても、他の医療費から差し引けませんので、注意しましょう。
Bの金額とは10万円を指します。ただし、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額となります。
サラリーマンなど、給与をもらっている方の場合、実際に手元に戻ってくる「還付金」は、上記で計算した「医療費控除額」に「所得税率」をかけた額になります。
「所得税率」は、所得に応じて決められています。以下を参考にしてください。
所得税の速算表(平成27年分以降)
還付金の金額を計算する手順としては、以下の3つのステップを踏むことになります。
- 医療費控除額を計算する(医療費控除額は最高で200万円)
- 所得をもとに所得税率を上記「所得税の速算表」で確認する
- 医療費控除額と所得税率を掛け合わせる
例えば、所得が200万円、医療費控除額が20万円だった場合
医療費控除額(20万円)×所得200万円の税率(10%)=2万円
手元に戻ってくるお金は2万円になります。
医療費があまりかからなかったら所得控除されない?知っておくべき「特例」
null医療費控除は、1年間の医療費が10万円以上と、かなりお金がかかった場合に適用されます。ですから、手術や入院などをしていない場合にはあまり関係ないと思われがちです。しかし実は2017年1月1日以後、医療費控除の特例制度が新たに設けられました。
それが、「セルフメディケーション税制」です。
「セルフメディケーション税制」は、健康の保持増進及び疾病の予防への取組として「一定の取組」を行っている方が、2017(平成29)年1月1日から2021(令和3)年12月31日までの間に、自分または自分と生計を同一にする配偶者やその他の親族のために、「特定一般用医薬品等購入費」を支払った場合に、一定額の所得控除が受けられる制度です。
この特例を活用すれば、10万円以上など、高額な医療費を支払わなくても控除が受けられる可能性がある、というわけです。ですから、今年はあまり医療費がかからなかったからと申告するのをあきらめよう、などと考える前に、「セルフメディケーション税制」に該当していないか、必ず確認をしましょう。
2017年から始まった特例「セルフメディケーション税制」とは?
「セルフメディケーション税制」を活用するには、以下の2つの条件をクリアする必要があります。
- 【条件1】健康の保持増進及び疾病の予防への取組として「一定の取組」を行う
- 【条件2】「特定一般用医薬品等購入費」を支払う
「一定の取組」とは、セルフメディケーション税制の適用を受けようとする年分に、以下のいずれかに取り組み、その証明書をもらった場合をいいます。
- 保険者(健康保険組合、市区町村国保等)が実施する健康診査(人間ドック、各種健(検)診等)を受けた
- 市区町村が健康増進事業として行う健康診査(生活保護受給者等を対象とする健康診査)を受けた
- 予防接種(定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種)を受けた
- 勤務先で実施する定期健康診断(事業主検診)を受けた
- 特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導を受けた
- 市町村が健康増進事業として実施するがん検診を受けた
これらの取組を行い、さらに、「特定一般用医薬品等購入費」を支払った場合に、特例が受けられます。
「特定一般用医薬品等購入費」とは、主にドラッグストアなどで購入できる「スイッチOTC医薬品」の購入費を指します。
「スイッチOTC医薬品」とは、パッケージなどにこのマークがついている医薬品で、医師によって処方される医療用医薬品から、ドラッグストアなどで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品のことをいいます。
「セルフメディケーション税制」は、あくまで医療費控除の特例のため、通常の医療費控除と併用はできません。通常の医療費控除か、特例のセルフメディケーション税制か、どちらかを選んで、確定申告で申請することになります。
「セルフメディケーション税制」で税金はいくら安くなる?控除額の計算方法
「セルフメディケーション税制」による医療費控除額の計算式は、以下の通りです。
実際に支払った特定一般用医薬品等購入費の合計額-1万2,000円=医療費控除額(最高8万8,000円)
一定の取組(人間ドックなど)で使った費用自体は、「セルフメディケーション税制」による医療費控除の対象とならないので、注意しましょう。
「セルフメディケーション税制」の申請方法などの詳細は、3回目(近日公開予定)で解説します。次回の2回目では、医療費控除の申請対象になる医療費とならない医療費などについて詳しくご紹介いたします。
【1】基本の仕組みや対象期間、控除金額などを詳しく解説
【2】何が控除の対象になるの?妊娠・出産関連の費用は?介護費用は?詳しく解説します!
【3】医療費控除の特例「セルフメディケーション税制」って何ですか?
【4】医療費控除を受けるための手続き方法・必要書類を知ろう
文・構成/嶋田久美子
【取材協力・監修】
井戸美枝
CFP(R)、社会保険労務士、社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。
講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。経済エッセイストとしても活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞に連載をもつ。
近著に『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!』(日経BP社)など。