「昔はよかった」と言われる昭和。どんな時代?
nullまず、本題に入る前に、“昭和”という時代について振り返ってみます。
おそらく「昭和はよかった」と言う人の多くは敗戦後、日本が右肩上がりに成長した1950年以降の昭和中後期を思い浮かべていると思われます。
当時の雰囲気について『昭和史』の半藤一利さんの言葉を借りれば、「経済中心、産業中心、会社中心の会社封建時代」。資本家と労働者、組織と個人、上司と部下などの上下関係が重視され、多くの男性が“将来にわたる経済の安定”を見返りに“モーレツ社員”“企業戦士”として仕事に身をささげていた時代です。
昭和後期に多国籍企業の従業員を対象に行われた国際調査において、日本では「大規模な組織が好ましい」「金銭と物質中心主義」「働くために生きる」といった傾向が強く表れていたのは、この時代の様子をよく表しています。
そうした企業風土の中で私生活を大切にしながら働き続けることは難しく、“小さな組織”である“家庭”の運営をまかせる人が必要となります。その役割は女性が担うことになり、そのため、当時の女性の就業率は低迷しています。
その後、1990年代には現在まで続く“失われた30年”と呼ばれる経済の停滞期に突入。「夫婦共働きでなければ、経済的に家庭がまわらない」という状況が訪れ、共働き世帯が増加し続けていきます。
ところが、社会がめくるめくスピードで変化しても、社会の仕組みや意識は急に変わることはできません。結果的にさまざまなところに“きしみ”や制度疲労が起きているのが現在の状況ではないでしょうか。
その影響を受けている1つの領域が、“家庭”です。
「昭和はよかった」と昔を懐かしむ声がある反面、最近では“昭和夫”“昭和妻”という言葉がSNS上で皮肉的なニュアンスを込めて使われるケースが見られるようになっています。
既婚女性が自分の夫を「昭和的」「令和的」と感じる理由は?
nullここまで昭和から現在にかけての流れをざっと振り返ってきましたが、視点を家庭内に移してみましょう。
『kufura』編集部は既婚女性153人に「自分の配偶者は“昭和的”か“令和的”か」という質問を投げかけてみました。
まず自分の夫が“昭和的”だと感じている女性の回答をご紹介します。個々の回答から“昭和的な夫像”が浮かび上がってきます。
【自分の夫が“昭和的な夫”だと感じる理由】
- 女は家事、みたいなところがある(40歳・事務職)
- 夫は「家事は一切やらない」と断言している(41歳・その他)
- 「俺のおかげで……」という考え方をしている。共働きで働き、家事はすべて私がやっているのに(52歳・総務・人事)
- 育児も家事もやらない。自分はやってると思っているらしいですが、進んでやることはないし、やっても言った通りにやってくれないので私の手間がかかる(42歳・研究・開発・技術者)
- 夫の稼ぎで家族を養うことに誇りを持っている(38歳・主婦)
- 家事を自ら進んでやらないし、土日は昼過ぎまで寝ている(45歳・主婦)
- 稼ぐのは男、家のことは女と思っている(50歳・総務・人事)
ずいぶん手厳しい声が寄せられています。夫が無自覚に”家の外の仕事“と“家の中の仕事”の序列をつけて家事や育児を軽視・放棄している場合、妻の目から“昭和な夫”と映る傾向が見られました。
夫に家事・育児をする意欲があっても、“昭和的な企業”で“モーレツ社員”であることを求められている場合には、私生活を妻に任せざるを得ないケースもあるかもしれません。
続いて、“令和的な夫像”に迫っていきます。アンケートの回答者が自分の夫が“令和的”だと感じる理由については、以下のような回答が寄せられています。
【自分の夫が“令和的な夫”だと感じる理由】
- 共働きが普通になっている今、育児家事は2人でやるもの、という考え方でないとやっていけない(37歳・営業・販売)
- 夫はよくしゃべるし、子育てにも積極的。考え方も柔軟だと思うので、「昭和的な男」ではないと思います(38歳・パート・アルバイト)
- 旦那は育児も家事もやってくれます。結婚した当初は昭和的な男でしたが、徐々に家事を手伝ってくれるようになりました。今では子どものお風呂、寝かしつけは旦那の仕事です(31歳・営業・販売)
- 子どもと一緒に遊んだり、妻に任せずに一緒に子育てをしている感覚がある(41歳・主婦)
- 家事もこなせるし、フレンドリーって感じで良い(49歳・総務・人事)
- 家事も手伝ってくれるし肩を揉んでくれたりと昭和男では無いと思う(56歳・総務・人事)
夫と妻が“主体的”に家事や育児を担う、対等にさまざまなことを話し合える、考え方が柔軟、といった回答が寄せられています。
「夫は昭和的」との回答割合は若年層ほど低下している
null先に紹介した回答内容を見ると“昭和の名残”がとどまっている家庭は少なくないと思われますが、変化は確実に訪れているようです。
「夫は“昭和的”か“令和的”か」という回答に対して、年代が若くなればなるほど“令和的”な割合が高くなる傾向が見られました。
50代・・・夫は昭和的(77.5%):夫は令和的(22.5%)
40代・・・夫は昭和的(61.7%):夫は令和的(38.3%)
30代・・・夫は昭和的(40.5%):夫は令和的(59.5%)
20代・・・夫は昭和的(14.3%):夫は令和的(85.7%)
50代の女性は「夫は昭和的」の回答が多くなっており、20代は「夫は令和的」が多数派です。
特筆すべきは30~40代。“昭和”と“令和”がせめぎ合う結果となっています。
筆者は、夫婦関係をテーマとした記事を多く手掛けておりますが、特にこの年代からは、自分が育った“昭和的な家庭”と“自分の家庭”とのギャップに悩む声や、「働きながらスキルアップを目指して、さらに育児も家事も主体的になんて無理」という声が男女問わず聞かれるようになっています。
また、男女の働き方や不安定な賃金形態、家事・育児の分担をめぐる夫婦の問題は、少子化や賃金格差などと地続きの問題として語られています。
今回は妻の視点からの“昭和的な夫像”について取り上げましたが、彼らの特徴をすべて裏返した、“昭和的な妻”も一定数存在していることでしょう。「女性の野心は、夫の成功を通じて達成される」「育児と家事は、妻の領域だから一切口出しをしないで欲しい」「女性の人生は夫の稼ぎで決まる」というような価値観を持っている人もいると思われます。
さて、余談ではありますが、今年発表された出生動向基本調査では、結婚するつもりのない独身男女の割合が過去最高に上っています。
独身を選ぶ理由として多かった3つの理由は“生き方の自由” “家族扶養の責任からの自由” “金銭的な自由”。
昭和世代の親の背中を見ながら「結婚したら、“昭和夫”に育児を丸投げされてキャリアが途絶えるかもしれない。“昭和妻”に経済的に依存されて家庭をコントロールされるかもしれない。ひょっとしたら、相手の親が“昭和的”かもしれない。結婚してみないと相手の“真の姿”はわからない」という、そこはかとない不安を抱えている独身者がいたとしたら、それは昭和時代の“後遺症”の1つと言えるのかもしれません。
【参考】
半藤一利『昭和史 1926-1945』2009年(平凡社ライブラリー)
G.ホフステード『多文化世界 違いを学び未来への道を探る 原書第3版』2013年(有斐閣)
『現代のエスプリ 広報の時代』1991年(至文堂)
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