1:「仕事をしたかった祖母」と「もっと子どもといたい母」
null祖父母世代の女性からは「子育て中は仕事を持つことができなかった」という声がある反面、子育て世代からは「子育てにもっと時間をかけたいのに、働かなければならない」という声が聞かれました。
【祖父母世代の声】
「今は保育園に入れて働きながら育児ができるが、以前はその選択肢ができなかった」(68歳・女性・主婦/子43歳・40歳)
【現役子育て世代の声】
「共働きでなければ生活しにくいのが現状だが、保育園が足りない。子どもに目をかけられる時間が限られている」(28歳・女性・デザイン関係/子0歳)
厚生労働省の統計によれば、共働き世帯と専業主婦がいる世帯の割合は、1990年代に逆転し、2019年には共働き世帯が専業主婦世帯の2倍以上となっています。
「子どもを産んでも働き続ける」という選択がしやすくなったように見えますが、実際には各家庭の事情はバラバラです。
職場環境、仕事のやりがい、賃金額、夫の育児参加、祖父母のサポートの有無によって、日々の満足度は大きく左右されているようです。子育て中の女性からは「仕事を続けられてよかった」という声がある一方で、「育児も仕事もどちらも不完全燃焼」といった声が多く聞かれました。
2:経済停滞による「平均賃金」 の低下
nullバブル崩壊から約30年。以降、日本経済が停滞していることを祖父母世代も子育て世代も実感しています。
【祖父母世代の声】
「30年ほど前までの平均的な家庭は、夫の稼ぎで一家の生活費を賄うことができ、妻は子育てと家事に専念できる時代でした。今は、実質賃金の低下から共働きしないと生活が成り立たなくなってきている結果、手元での子育ての道が閉ざされ、子どもとの触れ合いが希薄になってきていると思う」(73歳・男性・その他/子42歳・39歳)
【現役子育て世代の声】
「今は、ボーナスに税金がかかったり、物価上昇に比べて給料は昔と変わっていない」(41歳・男性・営業・販売/子12歳・9歳)
日本は「失われた30年」と呼ばれる経済の低迷期にあり、平均賃金はほとんど伸びていません。OECDの2020年度のデータによれば、日本の収入はOECDの加盟国の平均を下回っています。特に子どもの教育費や養育費で出費がかさむ子育て世代の負担感は深刻です。
3:子育て家庭を支援する制度の充実
null賃金が上がらないという声が多くありましたが、子育て中の家庭を支援する制度が昔より充実しているという声もありました。
【祖父母世代の声】
「昔は子育てに関する行政からの援助金がなかったので、負担が大きかった」(66歳・女性・主婦/子42歳・40歳・32歳)
【現役子育て世代の声】
「昔は今より国の補助制度が手厚くなかった(医療費や学費)」(39歳・男性・総務・人事・事務/子8歳・4歳)
児童手当、幼稚園・保育園の無償化、自治体による子どもの医療費の補助など、育児をめぐる制度が時代とともに拡充しているという声がシニア世代からも子育て世代からも寄せられました。
待機児童問題や保育士の不足、保育の質の確保など、今もなお問題は山積していますが、以前は家庭で過ごすことの多かった0~2歳児を預ける保育枠は増加しました。
職場制度に目を向けると、母親のみならず、父親の育児休業の制度も整い始めています。
一方、「所得控除から手当へ」(財務省HPより)という方針によって年少扶養親族の控除が廃止され、税負担の増加を実感している家庭も少なくありませんでした。
4:育児に役立つ便利グッズ・サービスの増加
null子育てを終えた世代からは「昔もこんなに便利なものがあったらよかったのに」という声が多くありました。
【祖父母世代の声】
「現在のほうが育児に関するもの全てが、どんどん開発されておりずいぶんと簡略化された育児が出来ていると思う」(61歳・女性・その他/子40歳)
「自分の頃は布おむつで、日々洗って干して、乾かないときはアイロン。紙おむつも販売されかけていたが、保育園でも布おむつ、プラスおむつカバー」(73歳・女性・主婦/子42歳・37歳)
【現役子育て世代の声】
「今は育児グッズもデリバリーやネットスーパーなども便利なものがあふれていてすごく助かっているけど、昔の人はどうしていたんだろうと思うことが多い」(35歳・女性・主婦/子2歳)
シニア世代のアンケートで多く集まったキーワードが“紙おむつ”に関すること。使い捨ておむつの低価格化と品質向上が進んだことをうらやむ声が多くありました。全自動洗濯乾燥機、食器洗い機、ロボット掃除機など、共働き家庭の生活をサポートするような電化製品も増えています。
また、現在はインターネット通販が普及し、スマートフォンで簡単に情報にアクセスできるようになっています。
5:「自由だけど孤独」「面倒だけど助けてくれる人がいる」どちらがいい?
null「嫁だから」という理由で理不尽なことを押し付けられる風潮が時代遅れになりつつある反面、家庭で子育てを完結させなければならないプレッシャーを背負う人もいます。
【祖父母世代の声】
「現在のほうが核家族が多い感じがするので自分たちだけで頑張っている感じがする」(65歳・女性・会社経営・役員/子42歳・40歳)
【現役子育て世代の声】
「今は色々多様性が認められつつあるところも多いけど、昔はそうじゃない。周りの人だったり親戚だったり合わない人ばかりだと本当に大変だと思う」(23歳・女性・主婦/子4歳)
「子どもにかけられる大人の手が近隣に親類などがいたり、近所のおばさんなどが手伝ってくれたりするわけではないので、夫婦が孤立しやすい」(44歳・女性・総務・人事・事務/子10歳・6歳)
30年前の時点では既に核家族が主流でしたが、現在はさらに核家族の割合が増加しています。土地によっては近所づきあいが希薄な場所もあります。人間関係のしがらみから自由になった反面、“孤育て”“カプセル育児”という言葉が生まれ、さらにコロナ禍が追い打ちをかけています。
6:家庭の教育負担が増加傾向に
null今回のアンケートでは、子どもの教育に関する回答が複数寄せられています。
【祖父母世代の声】
「子どもの塾や習いごとに掛かる費用が多すぎる」(74歳・男性・その他/子44歳・43歳)
「塾やスポーツ、ネットでの外国語塾など、塾関係の誘惑が多い」(73歳・男性・その他/子40歳・34歳)
「昔はみんなほったらかしだった」(64歳・男性・その他/子35歳・30歳)
【現役子育て世代の声】
「今は、習いごとが豊富で付き添いや送迎等も大変」(36歳・女性・主婦/子7歳・5歳)
今も昔も、手のかかる乳幼児期育児が過ぎてからは、“教育”“進路”という問題が押し寄せてくることに変わりはありません。昭和~平成時代にも、子どもを良い高校・大学に合格させるために奮闘する「教育ママ」という言葉が使われていました。しかし、現在は受験対策の早期化傾向が強まっています。より良い教育環境、安定した将来に子どもを導くためには塾や習い事に通わせるような“経済力”が不可欠だという声もありました。
以上、子育てを終えた世代と、子育て中の世代の回答を比べながら、世の中の変化をまとめました。
どんな時代でも子育てにエネルギーを要することに変わりはありませんが、経済の停滞や職場環境、家族関係の変化が各家庭の育児に色濃く影響しています。誰もが少しずつ違った悩みを抱え、“家庭”という空間の心理的な門戸が閉じられているようにも感じられました。
このほかにも、皆さんが感じているジェネレーションギャップや時代の変化は多くあると思います。身近な人とこうしたトピックについて“マウント”や“否定”を抜きに話し合ってみると、それぞれが経験した苦労や、今直面している悩みが見えてくるのではないでしょうか。
【参考】