世代間の意識の差はなぜ生じるのか、そのギャップをどう埋めていったらいいのか、そのヒントを探るため、今回は世代間の意識の差を調査。
30歳以上の子どもがいる男女(祖父母世代)469人と、10歳以下の子どもがいる男女(現役子育て世代)211人に、今と30年前、どちらの子育ての負担感が大きいと感じているか聞いてみました。
その回答内容は2回に分けてお届けします。お互いの世代の育児に対してどのような印象を持っているのでしょうか。
今回は、祖父母世代469人の回答をご紹介します。
男女で真逆の結果に…「シニア女性」は「昔の方が大変」が多数派
nullまず、男女469人(子どもが30歳以上/男性381人・女性88人)に「約30年前の子育て世代(現在の祖父母世代)と、現在の子育て世代、どちらの育児のほうが負担が大きいと思いますか?」と質問しました。
その回答結果の割合は以下の通り。
【子どもが30歳以上の男性】
現代の育児のほうが負担が大きい・・・60.6%
昔(30年前)の育児のほうが負担が大きい・・・39.4%
【子どもが30歳以上の女性】
現代の育児のほうが負担が大きい・・・39.8%
昔(30年前)の育児のほうが負担が大きい・・・60.2%
男女で正反対の結果となっています。
じつは、現役の子育て世代に同じ質問をしたところ、男女ともに「現在の方が負担が大きい」と答えています。つまり、祖父母世代の女性だけが「昔のほうが大変」と感じている割合が多いという結果になっています。
このギャップには、根深い理由が見られました。
「30年前の負担のほうが大きい」と感じる理由は?
null「30年前(祖父母世代)の育児のほうが負担が大きい」理由としては、以下の理由が寄せられました。
回答を通じてなぜ女性と男性で感じ方が違うのか、その理由がボンヤリと見えてくると思います。
(1)「女性は専業主婦になって子育てに専念」が当たり前だった
「自分たちの世代は、昼間子どもと2人きりで自分1人で子育てをしているような閉塞感があった。現在では、育児グッズが豊富にあり、SNSによって、同じの子育て世代の方との情報の共有ができる」(57歳・女性・主婦/子36歳)
「男性の育児は期待できない時代だったので」(65歳・女性・技術職/子34歳)
「近くに親がいないので夫婦2人で面倒を見たが、今は私達夫婦が近くに居るので度々預かってと言われ孫の面倒を見ている」(68歳・女性・主婦/子43歳・36歳)
「今は父親も育児に参加しやすい環境が整備されてきているから」(59歳・男性・コンピュータ関連技術職/子33歳・27歳・24歳・21歳)
(2)今ほど便利な電化製品・グッズがなかった
「まずおむつが布おむつでお洗濯が大変でした。離乳食もすべて手作り」(69歳・女性・主婦/40歳・38歳)
「子どもをあずけるところがなかった」(59歳・女性・総務・人事・事務/子30歳)
「今は電化製品が増えてるし、ぐんと便利になった。昔はおんぶひもしかなく、胃が圧迫されて苦しくおんぶすることができず、子どもを片手で抱えながら、家事をしたり移動したりしたが、今はリュックのように両ひもで背中に背負ったり、前向きに抱っこしたりしても両手があく」(70歳・女性・営業・販売/子46歳・44歳)
(3)福祉・職場の制度が充実していなかった
「子育てに関する行政からの援助金がなかったので、負担が大きかった」(66歳・女性・主婦/子42歳・40歳・32歳)
「以前は保育所も充実していなかったし、男性の育児休暇もなかった」(66歳・男性・営業・販売/子35歳)
「今は男も女も育休も取れるし、色々な公的機関の補助金や治療費無料もあり、子育て環境はよくなっていると思うから」(66歳・男性・その他/子36歳・30歳)
「祖父母世代のほうが大変」と回答した多くの女性は、夫の長時間勤務により、“ワンオペ育児”が常態化していた自分の環境を振り返っています。また、夫が家事・育児に参加していないという記述もかなりありました。
中には娘や息子の子どもを預かり、共働き家庭をサポートしている女性も見受けられ、“子育て”のみならず“孫育て”を主体的に担う女性も見受けられます。もし「子育ても孫育ても」となれば、「大変」と感じるのも無理はありません。
「現代の育児のほうが負担が大きい」と感じる理由は?
null一方、「現代の子育て世代のほうが負担が大きい」と感じている人たちの多くは、30年間に起こった社会の急激な変化を実感していました。
(1)日本経済の停滞による雇用不安・手取り収入減少
アンケート対象者が子どもを育てた時期は、「失われた30年」と呼ばれる日本の経済停滞期と重なります。若年層の雇用環境が不安定化し、子育て世代の所得が伸びていないことを実感していました。
「家庭の総所得が減り共働きが増えたので、子育てにかける時間のやりくりが大変そうだから」(63歳・女性・その他/子30歳)
「給料の推移に対して物価の上昇が大きく、生活するだけで大きな負担となり共稼ぎが当たり前。その中での子育ての時間を割くのはかなりの困難があるように思われる」(65歳・男性・その他/子37歳・31歳)
「以前はサラリーマンの働く環境が安定していた」(69歳・男性・コンピュータ関連技術職/子38歳)
「新型コロナでいろんな面で負荷があるので」(62歳・男性・その他/子32歳・30歳)
「コロナの中で子育てが大変」(63歳・男性・技術職/子33歳・32歳)
(2) 「共働きでないと家計が維持できない」家庭の増加
所得が減った結果、「共働き家庭」が一般的になったことを案ずる声もありました。夫も妻も働きに出ることで、「外の仕事」と「家の仕事」の総量が増えたことを「大変」だと感じていました。
「昔は、専業主婦が普通だったけど今は共働き。家事分担して夫婦共々たいへんだ」(66歳・男性・企画・マーケティング/子30歳)
「1950年生まれです。我々の子育て時代は男が働き、女は家事を取り仕切るという形が残っており、少なくとも妻は専業主婦の形で子育てをしました。共稼ぎが多い今よりも恵まれていたと思っています」(70歳・男性・技術職/子45歳・40歳)
「専業主婦が今は少ないので大変だと思う。共働きで子供を育てるのは大変だと思う」(53歳・女性・主婦/子31歳)
(3) 教育費の高騰・競争激化
雇用の不安定化の先にやってくるのが、「子どもを安定した職につけたい」という親の思いです。結果、他の家庭に先んじて学びの機会を与えようという風潮も見られます。
「塾などの経費が掛かる。学校の授業料が高い」(71歳・男性・その他/子43歳・41歳)
「自然な感じで子供を自由に育てていた。今の子供は、英語やパソコンなど大変だと思う」(66歳・女性・その他/子36歳・34歳)
「お金のかかる選択肢が多く、つい上を見て、経済面で苦労すると思うから」(64歳・女性・主婦/子39歳・37歳)
「とにかく教育にお金のかかる時代になった」(65歳・男性・コンサルタント/子31歳・29歳)
「競争意識が強くなっているから」(77歳・男性・その他/子48歳・46歳・36歳)
(4) 子育て家庭の孤立
30年前の時点でも、孤独を感じたという回答は女性を中心に多くありました。当時と比べて地縁と血縁はさらに薄れ、「子育てが家庭のもの」になっています。それについて、以下のような声がありました。
「昔は皆で育てるという感じがあった」(65歳・女性・ 主婦 /子39歳)
「むかしは周りの人が少しは、面倒を見てくれるとか温かみがあったような」(57歳・女性・主婦/子34歳・31歳)
「今は大変ですよ。核家族で助けてもらえないので」(74歳・男性・その他/子43歳・39歳)
「昔のようにおおらかに子どもを育てることができない」(61歳・女性・主婦/子34歳・24歳)
(5)選択肢が多すぎる
一見、昔よりも選択肢が増えたように見えますが、若年層が「自分でその道を選んだつらさ」を抱えていることを、シニア世代も感じ取っていました。
「今は多様化しすぎて選択肢が多すぎる」(71歳・女性・その他/子43歳)
「今の世の中はあらゆる点において選択肢が多い」(79歳・男性・その他/子52歳・50歳)
祖父母世代の女性が「30年前のほうが負担感が大きい」と感じている人の割合が多かった理由として、電化製品や育児のグッズ、「女性が仕事を持つ」という選択肢が一般的になったこと、昔よりも父親が育児参加をしているなどの声が聞かれました。
一方で、若年層の雇用環境が昔に比べてじりじりと悪化し、子育て費用が高騰していることを実感している人もいました。
子育て世代は、30年前の育児との現代の子育て事情をどのように見つめているのでしょうか。
次回、詳しくお届けします。