以前『kufura』編集部が祖父母世代にアンケートをとったところ、冒頭で紹介したような声が寄せられました。
詳しい内容は「【祖父母世代編】“今と昔、どちらの子育てが大変?”約30年前に子育てをしていた世代にズバリ聞いた!多かった回答は…」でお届けしていますが、シニア世代の意見は、まっぷたつに分かれていました。
育児には、自分の経験を一般論に落と込みたくなるような不思議な引力があります。自分が経験しているがゆえに、相手の経験を“わかっているつもり”になってしまうことも、食い違いの原因かもしれません。
世代間の意識の差はどんなところで生じるのか、そしてそのギャップをどう埋めていったらいいのか、そのヒントを探るため、今回は世代間の意識の差を調査。
30歳以上の子どもがいる男女(祖父母世代)469人と、10歳以下の子どもがいる男女(現役子育て世代)211人に、ズバリ「今と30年前、どちらの子育ての負担が大きいと思いますか?」と質問しました。
今回は10歳以下の子どもを育てている男女の声をご紹介します。
現役子育て世代は「現在の方が大変」と感じている人が多数…どこで食い違っている?
null10歳以下の子どもがいる男女211人(男性112人・女性100人)に「約30年前の子育て世代(現在の祖父母世代)と、現在の子育て世代、どちらのほうが育児の負担が大きいと思いますか?」と質問しました。
その回答割合は以下の通りでした。
【10歳以下の子どもがいる男性】
現代の育児のほうが負担が大きい・・・77.7%
昔(30年前)の育児のほうが負担が大きい・・・22.3%
【10歳以下の子どもがいる女性】
現代の育児のほうが負担が大きい・・・65.0%
昔(30年前)の育児のほうが負担が大きい・・・35.0%
男女ともに「現代の育児のほうが負担が大きい」と回答する人が多くなっており、祖父母世代よりもその割合は大きくなっています。特に子育て世代の父親の「現代の育児のほうが大変」と感じる割合は、突出して高くなっています。
世代別、男女別の4グループに分類すると、30歳以上の子どもがいる女性だけは「30年前の負担のほうが大きい」と回答していました。
子育て世代が「今の方がラクになった」と感じる理由は?
null現役子育て世代が「祖父母世代の育児のほうが負担が大きい」と感じた理由としては、以下のような回答がありました。
(1)今ほど便利な電化製品やサービスがなかったから
「洗濯も掃除も食器洗いも自動でやってくれるので、今の方が楽」(38歳・女性・デザイン関係/子8歳・6歳)
「子育てに便利なサービスや商品が昔より増えていると思うから」(39歳・女性・主婦/子16歳・10歳)
「今は育児グッズもデリバリーやネットスーパーなども便利なものが溢れていてすごく助かっているけど、昔の人はどうしていたんだろうと思うことが多い」(35歳・女性・主婦/子2歳)
「情報を今みたいに携帯で簡単に調べることもできず、便利なおもちゃもなく、おむつも布おむつでひとつひとつ洗わないといけないとか本当に大変だったと思う」(23歳・女性・主婦/子4歳)
「昔の方が、不便なことが多かったと思う。今は紙おむつが普通だけど、昔は布だったのかなーとか」(38歳・女性・主婦/子7歳・5歳)
(2)母親に育児負担が偏っていたから
「男尊女卑の時代は女性はこき使われた」(49歳・女性・主婦/子8歳)
「昔は亭主関白が多いから」(38歳・男性・その他/子13歳・9歳)
「どう考えても、昔の人の方が大変だと思う。育児休暇取得制度がなく、補助金もなかったので、厳しい状況だと思うから」(47歳・男性・総務・人事・事務/子14歳・10歳)
「女性が子育てを一手に引き受ける風潮だったから」(44歳・女性・その他/子10歳・8歳・6歳)
「保育園に入りやすく、入っていることに後ろめたさもない」(42歳・女性・主婦/子8歳・7歳)
(3)人間関係が大変だったと思うから
「昔の方があれこれ口うるさく言う人が多かったと思うし、同居も多かったから姑のいる生活の中での子育ては辛いと思う」(33歳・女性・主婦/子4歳・1歳)
「私の親は社宅に入っていて子どもを通じた人間関係が大変そうだと思った。今だったら借り上げ社宅か住宅手当が出ると思うのでそこまでの負担がない。あと、共働きが多いので働きに出るのもそんなにハードルが高くない。保育園と学童問題はあるが」(49歳・女性・主婦/子10歳)
「夫は仕事をして、妻は育児も家事も地域活動も」という価値観が今より強固だった30年前。昔の母親が感じていたであろう息苦しさや、便利な家電やサービスがない暮らしに思いを巡らせる声が多く聞かれました。
現役子育て世代が「現代のほうが大変」だと感じている理由は?
null続いて「現代の子育て世代のほうが負担が大きい」と感じている子育て世代の声をご紹介します。
(1)共働きが大変
「共働きが当たり前の世界になってるから」(32歳・女性・営業・販売/子5歳・0歳)
「共働き夫婦が当たり前になったし、習い事が豊富で付き添いや送迎等も大変だから」(36歳・女性・主婦/子7歳・5歳)
「女性の活躍は推進されているけど、価値観は昔のままなので女性の負担がものすごく多い。また階級社会が進み、気軽に悩み事など話したり相談できるところが少なくなっている」(43歳・女性・総務・人事・事務/子13歳・8歳)
「保育園が見つからない」(33歳・男性・その他/子1歳)
「共働きのケースもあり、子育てに専念できないケースがあるため」(44歳・男性・営業・販売/子11歳・9歳)
若年層の給与が上がらず、夫も妻も“稼ぎ続けなければならない”ことへのつらさも聞こえてきました。「家事と子育てにたっぷりと時間をかける」という選択肢をとりづらくなっていることへの不安や不満も聞かれました。
(2)子ども・親への周囲の眼差しが厳しい
子育て中の父母は、周囲の厳しい眼差しにとても敏感でした。あき地が消え、野原が消え、公園しか遊び場がないけれど、その公園は禁止事項ばかり……。そんなやるせのない思いも寄せられました。
「子どもがいるだけで口うるさい人もいるので生きづらい世の中だな、と思うこともある」(35歳・女性・主婦/子5歳・3歳)
「少子化になり、子どもの世話をする人に向ける目が厳しすぎる。特に母親に対する視線が厳しい。子育て世代が少数になり、社会的弱者ではないかと思うほど、高齢者の幅のきかせかたがすごい」(47歳・女性・主婦/子9歳)
「子どもに危険なことが多く1人で外で遊ばせる、子どもだけで遊ばせるなどが絶対できない時代になっているので」(45歳・女性・主婦/子6歳)
(3)助け合える人がいない
シニア世代の女性もまた孤立感や“ワンオペ”を経験していますが、コロナ禍により“孤育て”はさらに拍車がかかっています。自分からつながりを求めていかなければ孤立しやすくなることを実感していました。
「隣人との繋がりが希薄だから」(49歳・男性・金融関係/子8歳)
「昔は祖父母と同居が多く、子育ての手が多かったと思うので。その代わり他の家事や姑や親戚との関わりなど、子育て以外の負担は大きかったかもしれないが、子育ての比重は今より小さかったと思う」(48歳・女性・主婦/子10歳)
「子どもにかけられる大人の手が、近隣に親類などがいたり、近所のおばさんなどが手伝ってくれたりするわけではないので、夫婦が孤立しやすい」(44歳・女性・総務・人事・事務/子10歳・6歳)
(4)日本経済の停滞・雇用の悪化
シニア世代が「現代の子育てのほうが大変」と感じる一番の理由が日本経済の停滞でしたが、子育て世代も今まさに家計の厳しさや雇用環境の悪化を肌で感じていました。
「給料が上がらない。物価は徐々に上がってきている」(51歳・男性・営業・販売/子8歳・4歳)
「給料は中々増えないのに必要経費はどんどん増えている。年金、退職金も期待出来ず老後の生活が心配で子どもの教育に全力が出せない」(42歳・男性・公務員/子9歳・7歳)
「いろんな場面で人手不足を感じます」(43歳・男性・その他/子9歳・5歳・4歳)
「消費税の逆進性が高く、社会保険料が実質重税と化している。受益者負担という思想が庶民を苦しめている」(47歳・男性・研究・開発/子15歳・10歳)
「ボーナスに税金がかかったり、物価上昇に比べて給料は昔と変わっていないから」(41歳・男性・営業・販売/子12歳・9歳)
「世界経済の先行きは悪い、多様性の時代の今はひとくくりにした教育も出来ない、超個人主義の社会では一致協力もできない」(45歳・男性・その他/子7歳)
2回にわたり祖父母世代と子育て世代の声をご紹介しました。
どちらの時代にも大変さはありますが、社会の動きが子育て世帯に与える影響は甚大です。停滞する経済は、子育て世代の働き方、お金の使い方に変化をもたらしているようです。
昔と比べて「働く自由」「義実家と暮らすか暮らさないか選ぶ自由」「近所づきあいから距離を置く自由」「便利グッズを使う自由」を得ているようでいて、「自分たちで選び取った生き方の責任を自分たちでとらなければならない負担」が重くのしかかっているようにも感じました。
また、同じ世代同士でも家庭環境が多様化し、負担に感じていることが多様化しているようです。
次回は、「子育て世代が30年間で『得たもの』『失ったもの』」についてお届けします。