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小学校入学3週間で不登校になった息子。“繊細さん”な彼に届いたのは「怖かったよね」「よくがんばったね」と気持ちに寄り添う言葉だった

「小学校入学」といえば、家族にとって一大イベント。子どもも大人も緊張しつつ、期待で胸を膨らませ、新たな生活に飛び込んでゆきます。ところがその一方で、小学校になじめず、小1から不登校になる子どももいるのだとか。

その実情をリアルに描いたのが、ノンフィクションライター・沢木ラクダさんの『せんさいなぼくは小学生になれないの?』。入学後3週間で小学校に行かなくなったHSC(Highly Sensitive Child=ひといちばい敏感な子ども)の“むすこ”とのやりとりを、入学式当日から元気を取り戻すまで、ありありと綴っています。

HSC(Highly Sensitive Child)って?

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“むすこ”さんは、塗り絵を塗るのも字を書くのも丁寧でキレイ。ただ、丁寧がゆえに、小学校の授業スピードが速すぎた。(写真提供:沢木ラクダさん)

沢木さん一家は4人家族です。本づくりや取材執筆活動を行い、取材や打ち合わせがなければ自宅で働く沢木さん。教育関係者で、9〜17時のフルタイムで職場に出勤することが多い奥さま。小学1年生(6歳)の長男(=“むすこ”さん)。そして、保育園児(3歳)の次男。

この長男が、5人に1人いるといわれるHSC=繊細さんです。HSCとは心理的特性の一つで、外交性、協調性などと同じパーソナリティとされ、近ごろ話題になることが増えています。

HSCのよくある傾向に、

  • 大人の心をよく察する
  • においや音に敏感
  • シャツの首元についているタグがチクチクするのを嫌う
  • 新しいことをはじめる前に、とても時間をかけて観察する
  • 人前で話すのがとても苦手

などがあり、沢木さんのむすこさんにも当てはまるといいます。

ただ、HSCは病気や障がいではなく、あくまでも気質や性格の特性。わかりやすく言えば、発達の凸凹だと考えられています。

もしかしたら、うちの子も?と、思い当たるご家庭もあるかもしれませんね。

入学式に入れない

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むすこさんが小1のときに直面した「行きしぶり」と「不登校」について、登校付き添いをしながら克明に綴った『せんさいなぼくは小学生になれないの?』(小学館)。

事のはじまりは、よろこびに満ちているはずの入学式。3月まで幼稚園の園庭で元気に駆け回っていたむすこさんは、緊張のあまり会場に入場できませんでした。

その後、なんとか入場するものの自分の席に座れない、母親と一緒にいたがるなど。ともすれば幼い子どもには起こりそうなことが、入学式で繰り広げられます。それを見ていた沢木さんは、やきもきしつつ、6年間でどれだけ成長できるかな?と、このときはまだ気楽に考えていたそう。

しかしこれらは、初登校日からの「行きしぶり」と「不登校」への序章だったのです。

いちばん身近なはずの子どものことがよくわからず、どういうかたちであれば学校に通えるのか? あるいは、学校以外の選択は可能なのか? “学校に行ってほしい親”と“学校に行きたいけど行けないぼく”との間で繰り広げられるやりとりは胸を締め付けられ、働くひとりの親として、筆者も人ごととは思えません。

“ちゃんとやらせよう”という大人の意識が子どもを萎縮させる

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不安だらけの日々に一筋の光をさしたのは、臨床心理士であるP先生との出会いです。P先生は元教師で、スクールカウンセラーなどもしている50代くらいの女性。不登校支援のNPO代表です。

P先生は、開口一番「先生がしっかりし過ぎていませんか?」と、沢木さんに言いました。いわく、しつけが厳しい先生のもとで不登校は生まれやすいとのこと。思い起こすと、学校で見かけた担任の先生の指導はかなり厳しく、人前でクラスの子どもたちを面罵する一面もあったとか。

次にP先生から聞かれたのが、「親がしっかりし過ぎていませんか?」。親が子どものしつけにきびし過ぎる場合も、子どもが追い詰められがちなんだそう。沢木さん夫婦の場合、しつけにきびしいというよりも、登校を促す中で「ちゃんとしなさい」「早くしなさい」「なんで行かないの?」などと、命令したり、せきたてたり、詰問したりするかたちになりがち。学校という新環境に不安を抱くむすこさんを追い詰めていました。

子どもが“実際なにを感じているか”に寄り添うのが重要

P先生はむすこさんに「怖かったよね」「よくがんばったね」などと声をかけ、一緒に遊びます。すると、わずか30分ほどで、いつもは人見知りなむすこさんが饒舌にしゃべりはじめたそうです。

これを機に、沢木さんは子どもとの信頼関係のつくり方を反省。たとえ子どもの口をつくのがネガティブな感情であっても、“実際なにを感じているか”に寄り添うのが重要であること。学校が不安なら、まずは「不安だよね」と気持ちを受け止めてあげればよかったこと。そして、一緒に遊ぶことで子どもは安心して心を開くこと。

目の前の子どもに寄り添うという、当たり前のようで忘れがちなことを、沢木さんは再認識。“ちゃんとやらせよう”という大人の意識が子どもを萎縮させている、と気がついたのです。

ぐさり!ときたのは、筆者だけではないはず。大人の都合や、よかれと思って、子どもの気持ちを度外視した言葉をかけているかもしれない……。

Be Patient(忍耐)!

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一日の予定が見通せる予定表。(写真提供:沢木ラクダさん)

紆余曲折あり、“せんさいなぼく”がすっかり元気を取り戻すのは、およそ1年後。P先生以外にも、数々の出会いもありました。その中で、筆者がとりわけ印象的だったのがO先生です。

「学校も自分で選びたかったんだ。いま考えてるから、ちょっと待って」というむすこさんが選んだ、デイスクールを運営するガーナ人のO先生。あの手この手でスクールに通う楽しみをつくってくれたO先生から、沢木さんがよく言われたのが「Be Patient(忍耐)!」という言葉だったといいます。

子育ては、まさに忍耐の連続です。できないことができるようになるまで、ただ待ち、見守る。それのなんと難しいこと! でも、できるようになる日は、いつかきっとくる。それが今はまだなのなら「Be Patient(忍耐)!」と、O先生は伝えてくれたのです。

「隣の芝生は青い」などといいますが、よその子どもと我が子を比べ、不安に思うことは親なら誰しもあるでしょう。筆者もその一人。しあわせを願うあまり、目の前の子ども自身ではなく、理想の子ども像を追い求めてしまうんですよね。

『せんさいなぼくは小学生になれないの?』は、HSCであるかどうかに限らず、子どもとの向き合い方で大切なことを一つひとつ気づかせてくれました。これから小学校入学を控えているご家族はもちろん、さまざまな世代のお子さんをもつ親御さん、そしていつか親になるかもしれないあなたにも、手にとっていただきたい一冊です。

『せんさいなぼくは小学生になれないの?』

『せんさいなぼくは小学生になれないの?』(小学館)
著/沢木ラクダ 定価:1,760円(税込)

入学後3週間で小学校に行かなくなったHSC(ひといちばい敏感な子ども)のむすこと親の葛藤を綴る日記ドキュメント。5人に1人いるといわれるHSC=繊細さん。不登校の89割はHSCではないか、ともいわれています。学校に行きたくても行けない子どもの心情、共働きの親が抱える葛藤、時代に合わない学校の教育環境……。付き添い登校のなかでみえてきた、学校のいまをノンフィクションライターがリアルに描く潜入記。夫婦が試行錯誤しながら情報収集した、専門家からのアドバイス、不登校支援制度なども掲載。

■【目次】(抜粋)
・親は教室で付き添いをするべきか
・HSCってなに?
・通いつづければ、慣れるの?
・子どもとの信頼関係、どうつくる?
・放課後の居場所を求めてさまよう
・学校に行きたいのに、行く場所がない
・「大人の正しさ」が持つ凶器性
・1年遅れの学校探し
・「学校行かない宣言」の真相
・安心すれば、子どもは自ら離れていく

沢木ラクダさん。

沢木ラクダ
異文化理解を主なテーマとする、ノンフィクションライター、編集者、絵本作家。出版社勤務を経て独立。小さな出版社を仲間と営む。ラクダ似の本好き&酒呑み。子どもの小学校入学時に付き添いを行い、不登校になる過程を克明に綴った日記ドキュメント(「毎日新聞ソーシャルアクションラボ コマロン編」連載)が反響を呼ぶ。
https://x.com/sawaki_rakuda

 

ニイミユカ
ニイミユカ

朝ランが日課の編集者・ライター、女児の母。目標は「走れるおばあちゃん」。料理・暮らし・アウトドアなどの企画を編集・執筆しています。インスタグラム→@yuknote

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