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子育て中のパパ・ママに聞いた!現代日本で「子育てしにくいな」と思うこと。お金だけが理由じゃない?

治安がよく、食事はおいしく、社会インフラが整っていて、教育水準も比較的高い。日本の暮らしにはいいところがたくさんあります。しかし、子育てのしやすさに関して自国民の評価は低めです。

「自分の国は、子どもを生み育てやすい国だと思うか」という質問を、日本、フランス、ドイツ、スウェーデンの4カ国の男女に対して投げかけた内閣府の調査があります。「(生み育てやすい国だと)とても思う」「どちらかといえばそう思う」という回答の割合はフランスでは82.0%、ドイツは77.0%、スウェーデンは97.1%と、肯定的な意見が多数を占めています。

一方、日本では肯定的な回答が38.2%と4カ国中では最も低い水準で、「全くそう思わない」「どちらかといえばそう思わない」という否定的な意見が61.1%と過半数を超えていました。

では、どんなことがきっかけとなって「日本では子育てをしにくい」という実感が形成されていくのでしょうか。子どもを持つ233人の男女に「現代の日本社会で“子育てしにくいな”と思うことと、その理由を教えてください」と質問したところ、おもに10項目の理由があがってきました。

一見、バラバラの10の回答を網羅すると、見えてくることとは?

1:冷ややかに感じる、子連れへの「他者からの眼差し」

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まず、他者からの眼差しを“冷たい”“寛容でない”と感じた経験をつづった回答です。

「公共交通機関内で子どもが泣くと、視線を感じる。ベビーカーで朝の通勤時間帯に移動しなくてはいけないときに、迷惑そうな顔をされる」(37歳・営業・販売/女性)

「東京に帰省したときに、満員電車の中、抱っこひもで赤ちゃんを抱っこし、ベビーカーを畳んで片手で持ち、もう片手で2歳の子どもの手をつないでるのに、誰も席を譲ってくれなかった時に、赤ちゃんが泣いてしまい、そのときの周りの人の冷たさに、肩身が狭かったです」(45歳・営業・販売/女性)

見知らぬ人と同じ空間を共有する公共の場。多くの親は周囲の人の視線を敏感に察知しています。心無い言葉や視線を浴びると、“その場の総意”と受け止めてしまうこともあるかもしれません。

とはいえ、ちょっと複雑なのが、全ての親が「公共の場所で声をかけてほしい」と思っているわけではない可能性がある、ということです。以前、子育て中の母親にアンケートを取って「電車の中で赤ちゃんが泣いたら、周囲の人にどんな対応を望むか」という質問をしたところ、2割の母親は周囲の無関心を望んでいました。おそらく、公共空間にいる人の中には「声をかけて助けていいものか、わからない」という心境の人もいると思います。

助けてほしいけど、助けてもらえない。困っている親にどう声をかけたらいいかわからない。そのすれ違いはどうして生まれるのか。以下に続くような事柄が積み重なり、子育て中の親の不安感が高まっている様子が少しずつ浮かび上がっていきます。

2:子どもがのびのびと遊べる場がない

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「子どもが遊べる場所が少ない。公園が減り、遊具も少ないので、遊ぶ所が限られてくる」(33歳・その他/男性)

「公園で子どもの声がうるさいといった苦情で公園が使えなくなったというニュースを見たとき」(41歳・主婦/女性)

「公園がなくなったり、遊具がなくなったりしている。新たにできるのもあるが、昔からの公園がどんどん特色のない“ただの公園”になってしまう」(42歳・営業・販売/女性)

「幼児が遊ぶ広場はあっても、元気な小学生が遊ぶ場所が地域にない。放課後、校庭にも行けない」(41歳・主婦)

学童期までの子どもにとっては半径1キロ圏内の居場所と友人関係の重要度が高まりますが、子どもが遊べる場所がない、という声がありました。高度経済成長期以降、教育・雇用の機会を求めて都市に人口が集中し、市街地からは小川が消え、野原が消え、空き地が消え、子どもが遊ぶ場所が公園に集約されていきました。

しかし、その公園にも少しずつ変化が訪れていきます。

3:子どもの周りで増えていく禁止事項

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「公園での禁止事項が多い」(44歳・コンピュータ関連技術職者/男性)

「過剰なコンプライアンス」(56歳・金融関係/男性)

「学童保育などでルールが厳しくのびのび生活できていない感じがする」(47歳・コンピュータ関連以外の技術職/男性)

最近、東京都内の0.3ヘクタールの公園に24枚もの禁止看板が設置されている事例が報じられていました。多くの場合、自治体が住民の苦情に対応しているという“ポーズ”のために設置しているのかもしれませんが、利用者同士がコミュニケーションを取りながら“その場のルール”を作るのが難しくなっていることがうかがえます。

コロナ禍もあいまって、公園を離れてオンライン上のゲーム空間で“待ち合わせ”をして遊ぶことを選択する小中学生も。

4:「習いごと」「塾」「高等教育」「有意義な体験」の費用

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家計に占める子育て費用に頭を悩ませる声です。

「教育の実質無償化は学校教育に限られており、それ以上のことは結局、親の所得に依存すること」(45歳・公務員/男性)

「教育費がめちゃくちゃかかる。小さいうちは習い事、学校に入ったら塾、大きくなったら大学と、費用を考えると、とても何人も産めないなと思う」(51歳・主婦/女性)

「収入が少ないのに、物価、塾代、授業料などが上がり、頭を抱えてしまう」(32歳・主婦/女性)

「給与格差があまりにも大きいと感じます。子育てにもお金がかけられず、子どもの教育格差にも多大な影響があると思います」(41歳・その他/男性)

「とにかく何でもお金がかかる。外で遊ばせるところも少なければお金を払ってどこかへ連れていくことも難しいのではないかと思う」(50歳・コンピュータ関連技術職 /女性)

「子どもを育てる上で生活費がとてもかかるのに、年少扶養控除がなく生活が苦しい(編集部注:子ども手当の導入をきっかけに年少扶養親族に対する扶養控除は廃止)。そしてそれを上の世代は知らず“今の母親はいいよね、うらやましい”などと言う。こちらは言われ損」(32歳・主婦/女性)

文部科学省の調査を参照すると、無償化が進んだ幼稚園以外で学習費総額(習いごと、塾などの学校外活動費を含む)の増加傾向が進んでいます。

例えば、2010年度から2021年度の11年間で公立小学校の学習費総額(※保護者が支出した1年間・子ども1人当たりの経費〔学校教育費、学校給食費、学校外活動費〕)は約3万円増加し(32万1,281円から35万2,566円)、公立中学校の学習総額費は約5万円増加(48万8,397円から53万8,799円)しています。私立の小中学校に関しては、さらに増加額が大きくなっており、親が望む教育環境は“ぜいたく品”となりつつあることがうかがえます。

さらに、社会保険料の負担増、物価高など、家計がひっ迫する条件が重なっており、共働き家庭の増加の一因となっています。

5:子どもの預け先の確保

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子どもを育てるにはお金が必要。だから、働かなければならない。でも、子どもの預け先がない。俗に“ホカツ”と呼ばれる保育園探しに関する回答です。

「保育園に全落ちして待機児童になった時に強く思いました」(29歳・総務・人事・事務/女性)

「子どもが保育園に入れず仕事ができない」(28歳・主婦/女性)

子どもの生まれた時期や、住んでいる自治体、就労形態によって保育園や学童保育の“入りやすさ”は大きく左右されます。入園・入所できなかった人たちからは「子育てしにくい」という実感につながっているようです。

6:職場の雰囲気

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無事に子どもの預け先が見つかった後には、母親の職場復帰、育児と仕事の両立の困難を感じるケースが寄せられました。

「仕事で早く帰りにくい。私たちはがんばってきたという先輩お母さんたちが怖い」(41歳・その他/女性)

「子どもが体調を崩して急に仕事を続けて休まなくてはならないときに、嫌な反応をされたり、夫が仕事を休めなくて自分が全部面倒を見なくてはいけなくなり、子育てしづらいと感じました」(38歳・デザイン関係/女性)

「子どもが熱を出したときに休みにくいのが嫌です。病児保育も、私の1日の日給分くらいの金額するので、なんのために預けて仕事へ行くのか謎です」(32歳・企画・マーケティング/女性)

定時に帰宅しにくい、子どもの体調不良時に看病するために休みにくいという声がありました。都度サポートしてくれる同僚に忍びない気持ちを募らせている人も。

以前『kufura』が共働きの家庭にアンケートを取った際には、子どもの体調不良時の看病担当は9割弱が「おもに母親」と回答していました。仕事復帰後の充実度は職場の雰囲気、業務量、サポート体制、人材の充足度などの要因にも左右されるようです。

7:配偶者の就業スタイルによっては「常態的ワンオペ育児」状態に…

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「やっぱり女の人が子育てをメインでしないといけない世の中になっている」(30歳・その他/女性)

「ワンオペ育児。母親にばかり負担がかかる」(44歳・その他/女性)

5年に1度公表されている「第6回全国家庭動向調査」によれば、フルタイム勤務の妻の平日の育児時間の平均は378分。対して夫の平日の育児時間は86分。夫が多くの家事を担う家庭もありますが、データからは母親の“ワンオペ育児”が常態化している共働き家庭の存在がうかがえます。

8:情報の取捨選択の難しさ

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育児は“選択”の連続。選択をするためには情報が必要ですが、あふれる情報が選択を難しくしているケースも見受けられました。

「情報があふれ過ぎている。それぞれの家庭環境や事情がある中、世の中の情報がありすぎて踊らされることがある」(38歳・主婦/女性)

「余りの情報の多さです。大人だけでなく、子どもにとっても便利ではある反面、恐怖でもあると思いますし、ネットでのつながりは面倒くさいと思います。それを踏まえて、どう子どもに教育していかないとならないのか、難しいです」(49歳・主婦/女性)

学校選び、病院選び、食べるもの、教育メソッド、お金の使い方など、常にたくさんの選択に追われる中で「何を選択したか」は“自己責任”とされます。選択を巡る価値観の違いは、しばしば家族や友人との関係を揺るがせることも。

9:「子ども中心」「安心安全」は大切だけど…

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「家の前や庭でさえ小学生低学年までは親が付き添っている。自分が子どものときは、庭程度は1人で遊んでいた」(35歳・主婦/女性)

「社会全体が子どもを“お荷物”のように扱うのに、子どもを扱う機関からは“何よりも子ども優先。親はしっかりとそれに従うべき”という感じで、どうにもちぐはぐなので、子どもを育てていることが負担に感じてしまう」(43歳・主婦/女性)

「博物館とかに子連れで行きやすい政策を始めているようですが、そもそも静かにできないので、集中して見られず誰も得しないのでは」(43歳・総務・人事・事務/女性)

子どもの安全が重要なことは言うまでもありませんが、子どもがある程度成長した後でも「目を放すべきではない」という“世間”や“社会”からの圧力を感じている親の声がありました。育児現場や子どものケアに関わる現場では、気が休まる時間を持ちにくいケースもあると推測されます。

10:コロナ禍が育児現場に与えた影響

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3年間のコロナ禍を振り返った声です。

「公園などで遊んでいても、コロナ禍ということもあって同じくらいの歳の子がいても近くで遊ばせるのをためらうこと」(30歳・主婦/女性)

「コロナ禍だったからということが大きいかもしれませんが、風邪気味程度でも園に行くことをためらう心理状態になる。けれど仕事があるから預けないといけないし。という葛藤がいつでもつらいです」(38歳・その他/女性)

コロナ禍の子育てや保育の現場では、コミュニケーションの方法、遊び方、欠席の基準、マスクの着脱など、常に手探りの日々が続いていたと思います。育児書には「子どもにたくさんの体験を」と書いてありますが、“ステイホーム”しなければならない時期が続きました。

まとめ

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以上、子どもを持つ男女が「子育てがしづらい」と感じている理由についてお届けしました。

寄せられた皆さんの回答を、ちょっと荒っぽく総括してみるとこんな感じになります。

都市化で街の風景が変わって子どもの遊び場が消える。住人が互いに見知らぬ人となり、信頼と思いやりを基盤としたコミュニケーションが減り、たくさんのルールに依存する。安全な子どもの居場所を求めて親の見守りの時間や習いごとの時間が増える。将来の不安から子どもの教育にかけるお金が増加する。しかし、仕事と育児を両立しながら生活費を“十分に”稼げる環境はまだ整っておらず、税負担と物価は上昇を続けている……。

地域の空気や経済、日々のニュースなど、さまざまなことが入り組んで“子育てのしづらさ”“不安”につながっているように思います。

2023年4月にはこども家庭庁が発足し「こどもまんなか社会」 の実現をキャッチコピーとした少子化対策・子育て支援の検討がスタートしました。政策を起点として「子どもを育てやすい」という実感をどれだけ高めることができるのかは、まだ未知数です。

ちなみに、日本だけでなく、韓国、中国、タイでは軒並み日本以上に急速な少子化が進んでいます。

いずれにせよ、合理性と競争を好む大人に最適化した社会において、思い通りにならない子どもは“合理的”とは真逆の存在です。そして、現代社会で子どもを合理的で競争に勝てるような大人に育てるためにはたくさんのお金を必要とします。その反面、子どもが親が十分に稼ぐ機会を“奪う”存在となり得ることもある、という矛盾も横たわっています。

『kufura』では、夫婦関係にまつわる記事を多数配信していますが、その矛盾はしばしば夫婦関係にも影響をきたしているように思います。

日本に限ったことではありませんが、“育てること”の喜びが、“投機”(リスクを伴うが、うまくいけば大きい利益がねらえる)と化した社会には、さらなる少子化が待ち受けているかもしれません。

【参考】

令和2年度「少子化社会に関する国際意識調査」報告書 – 内閣府

令和3年度 学習費調査の結果について – 文部科学省

第6回全国家庭動向調査の概要 − 国立社会保障人口問題研究所

北川和子
北川和子

自治体HP、プレスリリース、コラム、広告制作などWEBを中心に幅広いジャンルで執筆中。『kufura』では夫婦・親子のアンケート記事やビジネスマナーの取材記事を担当している。3児の母で、子ども乗せ自転車の累計走行距離は約2万キロ。地域の末端から家族と社会について日々考察を重ねている。

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