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「他山の石」の正しい意味は?「他山の石とせず」は間違い?【間違いやすい日本語#28】

“他山の石”を間違って使っているケースが見受けられます。

“他山の石”について解説していただいたのは『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「他山の石」の意味とは?

「他山の石」の意味とは?

他山の石”(読み方:たざんのいし)とは、他人のよくない言動や、つまらない出来事でも、自分の品性や知性を磨くために役立つ、という意味。

他人の誤った言行や失敗に言及し、自らの反省や修養に役立てる際に使われることが多い言葉です。

“他山の石”は、中国の詩集『詩経』の中の故事「他山の石以て玉を攻むべし」を由来としています。「他の山のつまらない石ころでも、宝石を磨く程度には役立つ」という意味から転じて、「人のつまらない言行でも、自分の人格を育てる助けとなる」という意味で使われるようになりました。

「他山の石」の使い方の注意点は?よくある間違った使い方は?

「他山の石」の使い方の注意点は?よくある間違った使い方は?

“他山の石”の使い方の注意点は3つ。

(1)「お手本にする」の意味ではない

他山の石は、「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」の意。

過去に行われた文化庁の「国語にまつわる世論調査」では、22.6%が「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」と回答していますが、“他山の石”は手本になるような優れた行いを指して使うことはありません。

以下のような使い方は間違いなので、注意しましょう。

【NG例文】

・彼の素晴らしい成功例を他山の石としたいですね。

“他山の石”は、人のよくない言行から学ぶことなので、例文は間違い。

(2)目上の相手の言行に対しては使わない

“他山の石”は、よその山の石ころを他人のつまらない行いに例える慣用句。目上の相手の言行に対しては使いません。

【NG例文】

・課長の失敗談を他山の石とさせていただきます。

→目上の相手の言行に対しては使わない。

(3)「他山の石とせず」とは言わない

他者の失敗からも学ぶために「他山の石とする」という言い方が一般的です。「他山の石とせず」という使い方をすることはほとんどありません。

しばしば“他山の石”と“対岸の火事”を混同しているケースが見受けられます。“対岸の火事”は、他人にとっては大きなできごとでも、自分には関係のないできごと。「対岸の火事とせず」という言い方をするので、混同しないように注意しましょう。

【NG例文】

・他社の失敗を他山の石とせず、自分ごととして取り組んでください。

→「他社の失敗を他山の石として」が正解。他社の失敗を通じて自社を省みるため。「他社の失敗を対岸の火事とせず……」ならOK。

「他山の石」の例文は?

「他山の石」の例文は?

“他山の石”を使った例文をご紹介します。

・他社の失敗事例は他山の石として教訓にしましょう。

他山の石に学ぶ姿勢は、社会人として大切なことです。

・私の失敗がメンバーにとって他山の石となるように次に生かしてほしい。

「他山の石」を言い換えると?類語は?

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“他山の石”と類似の表現をご紹介します。

(1)「反面教師」

反省のきっかけとなるような、悪いお手本となる物事や人のこと。

【例文】

・威圧的な態度で後輩を委縮させるA先輩は、私にとって反面教師のような存在だ。

(2)「人のふり見て我がふり直せ」

他人の善い行い・悪い行いを見て、自分の行いを反省して欠点をあらためること。

【例文】

人のふり見て我がふり直せというから、彼の失敗を笑ってはいけない。

「他山の石」の対義語は?

「他山の石」の対義語は?

続いて“他山の石”と対の意味を含む言葉をご紹介します。

(1)「模範」

“模範”(読み方:もはん)は、見習うべきもの。手本のこと。

【例文】

・彼女は、後輩の模範となっている。

(2)「手本」

“手本”は、見習うべき人や物事のこと。

【例文】

・先輩をお手本にして、私もチャレンジしてみます。

(3)「鑑」

“鑑”(読み方:かがみ)は、規範とするもの。

【例文】

・彼の丁寧な仕事ぶりは、職人のだ。

 

以上、国語講師の吉田裕子さんに“他山の石”の意味や注意点について解説していただきました。

“石”という言葉はいくつかのイメージを含んでいますが、“他山の石”は“つまらないもの”のこと。言葉の由来とともに正しい意味を覚えておきましょう。

 

取材・文/北川和子

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【参考】

平成25年度「国語に関する世論調査」の結果の概要

吉田裕子
吉田裕子

国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。

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