解説して頂いたのは、『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「ご足労いただき」の意味とは?
null“足労”は足が疲れること。尊敬の接頭語の“ご”をつけた“ご足労”は、相手にわざわざ来てもらったり、指定の場所に行ってもらったりすることを意味します。
“ご足労いただき”は、相手がこちらのためにわざわざ出向いてくれたことに対する感謝と恐縮を含めた表現です。
“ご足労”を用いた表現には他にも“ご足労を賜り”“ご足労をおかけする”“ご足労をわずらわす”といったものがあります。
「ご足労いただき」はどんなときに使うといい?目上の相手にも使える?
nullビジネスシーンにおいて“ご足労いただき”は目上の相手や取引先の相手に対して使う表現です。よく使われているのは以下の2つの場面です。
(1) お礼
相手に来社してもらったとき、集まりの会場まで出向いてもらったときなど、わざわざ足を運んでもらったことに対するお礼の文章の中で使います。「ご足労いただきありがとうございます」という表現がよく使われています。
(2) 依頼
“ご足労”という言葉を用いて相手に来社・外出を依頼する場合もあります。
私生活においては、冠婚葬祭のようなあらたまった場面に集まってもらったことへのお礼の中で使われています。
「ご足労いただき」の例文は?
nullそれでは、“ご足労いただき”の例文を通じて使い方をイメージしていきましょう。
・本日はあいにくの天気の中、ご足労いただきましてありがとうございました。
・遠方にもかかわらず、ご足労いただきまして誠にありがとうございました。
・ご足労いただくことになりますが、次回の打ち合わせも弊社で開催予定ですのでよろしくお願い致します。
・来週、〇〇様の都合のよい日時にご足労いただくことは可能でしょうか。
「ご足労いただき」の使い方の注意点は?
null“ご足労いただき”は、相手を敬って使う表現ですので、自分が出向くときに使うことはありません。
【NG例】
・来週、御社にご足労させていただいてもよろしいでしょうか。
→自分を主語としては使わない。この場合は「御社にうかがってもよろしいでしょうか」など。
「ご足労いただき」を言い換えると?
null続いて“ご足労いただき”の言い換え表現をご紹介します。
(1)「お越しいただき」
“お越し”は“来ること”“行くこと”の尊敬語。“はるばる”“わざわざ”という副詞をつけることで、“ご足労”と同様に使うことができます。
【例文】
・本日はわざわざお越しいただき、まことにありがとうございます。
(2)「お運びいただき」
“運ぶ”という言葉は、“お運びいただく”“お運びになる”という形で、“行く”“来る”の尊敬語として使うことができます。
【例文】
・遠方よりお運びいただき、感謝いたします
(3)「ご来訪いただき」
“来訪”は、人が訪問してくること。“遠路はるばる”という表現をつけると、遠くから出張で訪問した相手の労をねぎらう気持ちを込めることができます。
【例文】
・本日は、弊社まで遠路はるばるご来訪いただき、ありがとうございました。
(4)「お手間」
“手間”は、あることのために費やす時間や労力のこと。取引先にお願いして来社してもらったときなどに使うことができます。
【例文】
・本日はわざわざ来ていただき、お手間をおかけしました。
今回は“ご足労いただき”の使い方について国語講師の吉田裕子さんに解説していただきました。
約束の時間に合わせて相手が準備をして移動をするまでのプロセスを想像しながら、使ってみてはいかがでしょうか。
【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。