解説して頂いたのは、『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。
「僭越ながら」の意味とは?
“僭越ながら”の“僭越”(せんえつ)は、自分の地位や立場をこえた失礼な態度、でしゃばった態度を表す言葉です。
難読漢字の“僭”(せん)
“僭越ながら”は、“僭越”に逆接の接続助詞“ながら”をつけた表現。「出過ぎた真似をしますが」「生意気ではあるけれど」という意味で使われています。
「僭越ながら」はどんなシーンで使う?目上の相手に使える?
“僭越ながら”は、ビジネスシーンにおいては2種類の使い方があります。
(1) スピーチ・司会進行を務めるときの挨拶
“僭越ながら”は、かしこまった場面でのスピーチ、会議の司会進行を務めるときの自己紹介や挨拶の中で用います。分不相応な大役を務めているという謙遜の気持ちを込めて使います。
【例文】
・僭越ながら、本日の議長を務めます鈴木と申します。
(2)目上の相手に指摘をするときの「クッション言葉」として
目上の相手に対して指摘や反論をするとき、“僭越ながら”と前置きして、少々言いにくいことを伝えるときのクッション言葉として使われています。
【例文】
・僭越ながら、ひと言申し上げます。
私生活においては、来賓としてかしこまった場面でスピーチをするとき、パーティーの司会進行を務めるときなどに使われています。
乾杯のシーンで「僭越ながら」はどう使ったらいい?
“僭越ながら”という表現がよく聞かれるのがパーティや結婚式における乾杯のシーンです。
“僭越ながら”の一言に「本来なら、もっと他にふさわしい人がいるかもしれないのですが」という謙遜のニュアンスが込められています。
【例文】
・僭越ながら、私が乾杯の音頭を取らせていただきます。それでは皆さん、ご唱和ください。(その後乾杯へ)
「僭越ながら」の例文は?
“僭越ながら”の例文を通じて、使い方をマスターしていきましょう。
・欠席の部長にかわり、僭越ながら私がご挨拶させていただきます。
・僭越ながら、本日の議長を務めます鈴木と申します。
・僭越ながら、率直な意見を申し上げます。
「僭越ながら」の使い方の注意点は?
“僭越”の意味を踏まえると、自分の役職に不相応な重要な役を務めるときに使うのが一般的です。例えば、毎月開かれる定例会議で、いつも通りの役割を務めるときの挨拶では“僭越ながら”という表現を使うことはありません。
【NG例文】
僭越ながら、今月も私が書記を務めさせていただきます。
→普段から担当している“やって当たり前”の仕事に対しては使わない。
また、過去には第三者のふるまいを指して“僭越”と形容する言い方もありましたが、現代の日本語においては自分の行為に対して使う場合がほとんどです。
「僭越ながら」を言い換えると?
続いて“僭越ながら”の言い換え表現をご紹介します。
(1)「恐縮ながら」
“恐縮”は、ビジネスシーンにおいて感謝、謝罪、依頼の言葉の際に使われている頻出単語。“恐縮ながら”は、申し訳なさをにじませながら断ったり、依頼をしたりするときに用います。
【例文】
・恐縮ながら、今回は辞退させていただきます。
(2)「分不相応ではありますが」
“分不相応”(ぶんふそうおう)は、自分の地位や能力にふさわしくないこと。“僭越ながら”と同様に使うことができます。
【例文】
・分不相応ではありますが、急遽この場で挨拶の機会を頂くことになりました。
(3)「身に余る大役ではありますが」
“身に余る大役”は、自分の現状の地位・能力をこえるような大きな役を指します。そのような仕事をもらえたことに対する光栄な気持ちを表現するときに使うことがあります。
【例文】
・身に余る大役ではありますが、このようなチャンスを頂けたことを光栄に感じております。
(4)「憚りながら」
“憚りながら”(はばかりながら)は、遠慮をにじませながらお願いするときに使います。
【例文】
・憚りながらもお願い申し上げます。
(5)「お言葉ですが」「お言葉を返すようですが」
相手に指摘をするときに使います。唐突に指摘をするよりも、“お言葉ですが”と一言クッション言葉を置くことで、印象が少し和らぎます。
【例文】
・せっかくのお言葉ですが、弊社としては賛成しかねます。
今回は、国語講師の吉田裕子さんに“僭越ながら”の意味や使い方を解説して頂きました。
乾杯やスピーチだけでなく、意見を述べるときにも使うことができるので、使い方を覚えておきましょう。

【取材協力・監修】
吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで教える。NHK Eテレ「ニューベンゼミ」に国語の専門家として出演するなど、日本語・言葉遣いに関わる仕事多数。著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)は10万部を突破。他に『正しい日本語の使い方』『大人の文章術』(枻出版社)、『英語にできない日本の美しい言葉』(青春出版社)など。東京大学教養学部卒。