落ちてきた本やスニーカーで、亡くなる方もいる
null阪神・淡路大震災で亡くなった方の77%が、家屋の倒壊や家具の転倒などを原因とする窒息・圧死だといわれています。さまざまな被災地で家の中に入りレスキュー活動をしてきた辻さんは、物に埋もれて動けずにいる方、またそのまま亡くなってしまった方をたくさん見てきたといいます。
「大きな地震が起きると背の高い家具が倒れてくるのは、想像しやすい光景だと思います。ただそれだけではなく、ひとつひとつは軽くても、大量に落ちてくると凶器になってしまうものがあるんです。
たとえば本。被災地では、大量の本に埋もれて動けなくなり、そのまま亡くなっている方をたくさん見ました。それから洋服、カバンなどもそうです。
コレクションをして、飾り棚にたくさんスニーカーを飾っている家もあるかもしれません。棚を少し揺らしてみて、ものが動くような状態だとしたら、震度6以上の地震ではその棚に飾ってあるものがすべて落ちてくる、もしくは飛んでくると考えたほうがいいです。
ものを飾るな、というわけではないのですが、落ちてこないための対策は必要です」
吊るした照明器具が、他の部屋まで飛んでいく
null大きな地震の場合、ものが予想もしないような移動の仕方をすることがあります。腰より高い位置にあるものは、落下するだけでなく、真横に飛ぶような動きをする可能性があると考えたほうがいいそう。
「大きな地震が起きたら、家具や家電も“飛んで”きます。特に照明など吊るして使うものは、勢いよく揺れて吊るしている部分がぶちんと切れ、違う部屋まで飛んでいくこともあるんです」
2018年、震度6弱を記録した大阪府北部地震で被災した辻さん。そのときにも事前の備えでどれだけ差が出るのかを実感したのだそう。
「私の部屋は、キッチンで瓶が4本倒れただけでした。一方、同じ間取りと強度のはずの隣の部屋では、棚から飛び出した食器がほとんど割れてしまい、歩けない状態に。ご主人に助けを求められて駆けつけたのですが、リビングでは背の高いラックが倒れており、奥さんはラックの下に埋もれて足を骨折してしまいました」
部屋の中の一角だけでも「スーパー安全地帯」を作る
nullさらに辻さんは「いつ来るのかわからない災害のために、防災のことだけを考えて部屋をつくるのは現実的ではないと思うかもしれない。そういう人は、一部屋、または“ある一角”だけでもいいから、ここは安全という場所をつくってほしい」と語ります。
「たとえば“テレビボードはもしかしたら倒れてくるかもしれない。だからテレビボードから離れた場所にダイニングテーブルを置いて、地震が起きたらとにかくそこに逃げ込むようにしよう”などと決めておく。
ここにさえ逃げれば大丈夫という“スーパー安全地帯”を用意して、その近くに水や食料を置いておけば、家から出られなくなっても数日は何とかなります」
また、大前提として地震の後は、どれだけぐちゃぐちゃに散らかったとしても、その家の中で何日か暮らさなければいけない状態になりかねません。
「どの部屋も足の踏み場がない、という状態だとつらい。たとえば寝室だけでも、ものを少なくする、寝る前に片づける習慣をつくるといったことも非常に大事です。シャーペンひとつ、外に出ているものを収納ボックスに入れるだけでケガ防止になります」
ちょっとした対策が、もしものときに自分を護ってくれる。できるところから少しずつ始めてみるのが良さそうです。
【参照】
内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/hanshin_awaji/index.html
取材・文/塚田智恵美
国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。
帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。
現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
「地震・台風時に動けるガイド: 大事な人を護る災害対策」(発行:メディカル・ケア・サービス/発売:Gakken)、「レスキューナースが教えるプチプラ防災」「プチプラで『地震に強い部屋づくり』」(ともに扶桑社)など著書多数。