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一人でも多くの命を救う。レスキューナースが見てきた災害現場のリアル【防災のプロに聞く#1】

お正月に発生した、能登半島地震。今後もし大きな災害に直面したらどうすればいいのか、備蓄品の見直しなど、改めて災害対策について考えている人も多いのではないでしょうか。しかし一般の人がぼんやりとイメージしている「災害」と現実の災害とは、もちろん全くの別物。
国際災害レスキューナースとして活動する辻 直美さんに、災害現場のリアルや家族の命を護るための防災について、お話を聞きました。

災害発生後、48時間以内に現地入りするDMAT

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東日本大震災、熊本地震、海外では四川大震災など、国内外36箇所の被災地で、災害レスキュー専門のナースとして活動されてきた辻 直美さん。阪神・淡路大震災では、ご自身も被災され実家が全壊した経験をもちます。

大きな地震などの大規模災害が起きた際、それから48時間以内に現地に入り、医療支援を行うのが災害派遣医療チーム「DMAT」です。

「大きな災害が起きると、各都道府県の知事からDMATの出動要請がかかります。DMATは災害発生直後の現場で活動するための専門的なトレーニングを受けた、医師、看護師、臨床検査技師、事務員などがチームを組んだものです。

以前『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)という救命医療ドラマが放送されていましたよね。あれは架空の組織ですが、実際はあのドラマよりも少し人数の多いチームで現地に向かう、といったイメージです。

災害が起きれば当然、その地域の病院や、医療関係者も被災します。人がどんどん搬送されてくるにもかかわらず、災害発生直後は十分な医療を提供できなくなることも多いです。私たちの活動は、まずその病院に入って医療支援を行う場合と、救出活動を行っている現場に直接行って救命活動を行う場合があります」(以下「」内、辻さん)

東日本大震災のときには、14時46分の地震発生から約3時間後の18時頃には辻さんのところへ出動要請がかかり、22時には現地入りしたのだそうです(辻さんは大阪在住)。

「被災地に入ると、まず重機などを使ってがれきを撤去し、道を復旧させる作業を行うのですが……。東日本大震災のときは津波による被害が大きく、どこにご遺体があるかわからないという凄惨な状況でした。一つひとつ、がれきを手で除けていく、気の遠くなるような作業を行なったのを鮮明に覚えています」

避難所に救援物資があるのに配れない?

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報道されるニュース映像にはなかなか映らない、被災地のリアルな現場をたくさん見てきた辻さん。たとえば、地震が発生したら避難所に行けば大丈夫、と思っている人も多いと思いますが、辻さんによると「行ったとしても、必ず受け入れてもらえるとは限らない」のだそう。

「避難所にも定員があります。近年は感染対策もあって、避難所で受け入れられる人数はさらに減っているんです。ただ、多くの場合、定員を超えて人が避難してくるのを止められないのが実態です。

そうなると、その避難所に回ってくる食べ物などの救援物資が不足します。全員に行き渡らない数のものを配るとトラブルになるので、救援物資は届いているのに配れない、という事態が起きることも結構あるのです」

避難所に行っても入れない、救援物資をもらえないことがあるとあらかじめ想定して、避難先の候補を複数見つけておく必要がありそうです。

日常生活から、スマホがなくても過ごせる工夫を

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避難生活では大きなストレスがかかります。トイレ事情など不便は多く、日常生活とは異なるイレギュラーの連続に、なかなか適応できないことも。

「避難所には人数分のコンセントが用意されているわけではないので、自由に充電するのは難しい場合がほとんどです。でも、最近ではスマホが使えないとなると大きなストレスを感じる人が多いですよね。

たとえば、小さなお子さんの中には習慣的に見ている動画などが見られない状況に耐えられなくなり、騒ぎ出してしまう子も多いんです。充電をめぐって避難所で親子げんかを繰り広げている様子なども、よく見かける光景です。もちろん子どもだけではなく、大人同士で争いだすことも……」

だからこそ、辻さんは「日々の生活で生じる小さなトラブルを乗り越える経験をしたり、心にダメージを受けたときの切り替え方法を見つけておいたりすることが、災害時に必ず活きる」と語ります。

「困難な状況に対して、うまく適応できる力を日頃から高めておくのも大きな災害対策になります。動画やゲームなど充電が必要な遊びができないときに、アナログな環境だけで乗り切る方法や、メンタルダウンしない対策を持っておくのも、災害に向けた備えになります。

災害のニュースが多く報道され、怖い気持ちばかりが募ってしまう人もいるかもしれません。でも、今のうちから、日常生活で起きる小さなトラブルに対して『あるものだけで、対処できないかな?』と考える習慣を、ぜひ身につけてみてください。防災になるだけでなく、日常生活を豊かにすることにもつながるはずですから」

取材・文/塚田智恵美

辻 直美
辻 直美

国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。

帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。

現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。

「地震・台風時に動けるガイド: 大事な人を護る災害対策」(発行:メディカル・ケア・サービス/発売:Gakken)、「レスキューナースが教えるプチプラ防災」「プチプラで『地震に強い部屋づくり』」(ともに扶桑社)など著書多数。

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