作ること、食べることを通じて生まれる「絆」を描きたかった
null亡き母の夫だという伊吹と、諸事情から一緒に暮らすことになった槇生。2人の関係は、はじめは少しギクシャクしています。
それが、槇生の作る、ぬか漬けとご飯と味噌汁の朝食が「美味しいから」と、伊吹も早起きして食卓を囲むようになります。
そしてある夜、ふと台所をのぞくと、きゅうりの古漬けを使って伊吹がチャーハンを作っていて……それが、まるで中華料理店のように美味しいことに、槇生はびっくり。
ぬか漬けと、それをアレンジした料理が美味しそうに描かれるシーンについて、古矢永さんは次のようにお話してくれました。
「作った料理をお互いに食べ合うことで、絆が生まれるのではないかと思っています。
やっぱり相手のことを信用していないと、その人の作ったものを美味しく食べられないと思うんです。
だから、まだあまり仲良くない段階で、お互いの料理を食べ合うことで、ちょっとずつ“私は敵じゃないよ”と受け入れ態勢を見せ合う、そんなシーンになったのではないかと」
(「」内、古矢永さん。以下同)
小説の中では、ぬか漬けをアレンジした料理が数々登場します。なかでも看板ママだった槇生の母が亡くなり、客足の戻らないスナックで、残りがちなぬか漬けを使った、伊吹特製のたまごサンドがお見事。
さらに、たまごサンドの具の残りに、レモン汁を搾ってタルタルソースを作り、地元惣菜店の名物・海鮮クリームコロッケにたっぷり添えるシーンが、とっても美味しそう。
小説を読むと、作って食べてみたくなる、ぬか漬けのアレンジレシピを古矢永さんにお聞きしました。
1:きゅうりの古漬けがアクセント!たまごサンドイッチ
null<材料>作りやすい分量
卵 2個
きゅうりのぬか漬け 約1/4本
マヨネーズ 大さじ1
塩・こしょう お好みで
食パン 4枚
バター 適量
マスタード お好みで
<作り方>
(1)卵を固ゆでにし、粗みじん切りにする。
(2)ボウルに1を入れ、細かく刻んだきゅうりのぬか漬け、マヨネーズ、塩・こしょうを混ぜ合わせる。
(3)バターとお好みでマスタードを塗った食パンに2を挟む。
<ポイント>
・きゅうりは2日程度漬けた、しっかりと酸味のあるものを使うのがおすすめ。
・季節には、新たまねぎのぬか漬け(約1/8個)をみじん切りにして加えても。
2:サンドにしても絶品!コロッケにタルタルソース
null<材料>作りやすい分量
市販のコロッケ 2個
卵 2個
きゅうりのぬか漬け 約1/4本
りんごのぬか漬け 約1/16個
マヨネーズ 大さじ2
塩・こしょう お好みで
ウスターソース お好みで
コッペパン 2個
<作り方>
(1)卵を固ゆでにし、粗みじん切りにする。
(2)ボウルに1を入れ、きゅうり、りんごのぬか漬けをそれぞれ刻んだもの、マヨネーズ、塩・こしょうを加え、混ぜ合わせる。
(3)コロッケにお好みでウスターソースをかけて、半分に切ったコロッケを、切り込みを入れたコッペパンに挟み、2のタルタルソースをかける。
<ポイント>
・コロッケは海鮮系がおすすめ。キャベツの千切りを一緒に挟んでも。
・きゅうりは粗めに刻んで食感を残すのもおすすめ。
・りんごの代わりに新たまねぎのぬか漬け(約1/8個)を使う場合は、レモン汁(適量)も加える。
季節の食材で、さらなるアレンジも可能
nullぬか漬けがアクセントになった2品は、ササっと作れて、お昼ご飯にもぴったりですね。
「そうなんです。たまごサンドはコッペパンで作っても美味しいので手軽にできます。
どちらも、小説では新たまねぎのぬか漬けも加えています。シャキシャキの食感と風味が絶妙なので、新たまねぎの季節にはぜひ。今回は、この時期らしいりんごのぬか漬けで、ほどよい酸味をプラスしました。
きゅうりは2日程度漬けたもののほうが、酸味と塩気がちょうどよくなり、存在感が出ます。味付けの塩は省いてもOKです。
ぬか漬けも、ご家庭によって味わいが違うので、使う量はお好みで調整してみてください」
タルタルソースは、いろいろなアレンジができそうですね。
「海鮮系と相性抜群なので、エビフライに添えてサンドにしたり、白身魚のソテーにも。鶏の唐揚げや、南蛮のような甘酢だれの味付けにプラスしても、美味しいですよ」
これから作ってみたい、ぬか漬けアレンジレシピは?
nullぬか漬けは、置いておくと味が変化してしまうので、食べきれないときには料理に活用するのも、一つの工夫です。
「この前は、チャーハンに小松菜のぬか漬けを入れました。小松菜のほろ苦さとお醤油の焦げた味わいがマッチして、とても美味しかったです。
ぬか漬けの料理は、ちょっと冒険してみても、大きな失敗はしないのがいいところかなと思います」
これから作ってみたい料理は……。
「白菜のぬか漬けでギョウザを作ってみたいです。テレビで白菜の浅漬けを使っているのを見て、ぬか漬けでも、タレいらずで美味しいギョウザができるかな、と。
ほかには、ぬか漬けキャベツでロールキャベツを作って、薄味のお出汁っぽいスープで煮たら美味しいかな、なんて考えています」
次々とアイディアが生まれるご様子……料理が本当にお好きなんですね。
「もともと食べることが好きで、料理は結婚してから本格的に始めました。子どもが小さいうちは、なかなか外食に行けないので、それなら自分でいろいろ調べて作ってみようかなと思ったのがきっかけです」
「ぬか漬けについては、実家では食べるほうの専門でした。祖母も母も独自のぬか床を持っていて、自分でもいつか始めたいなと思っていたんです」
ふだんは、中学生の娘さんと小学生の息子さんが学校へ行っているあいだに、ご自宅で執筆されているそう。忙しいときには、前日に夕食を作り置くこともあるそうです。
また、ぬか漬けさえ漬けておけば、子どもでも作りやすい簡単なレシピもあり、そちらも教えていただきました。
「ぬか漬けとご飯をシンプルなお茶漬けにするだけでも、とっても美味しいので、私が忙しいときには、そうやってお腹を満たしてくれたら助かるなぁ、なぁんて……」
家族のために美味しいご飯を作ることを、いつも考え、楽しんでいるのが、お話の端々からうかがわれました。
古矢永さんにとって、多忙な毎日のなかで、ぬか床に美味しいぬか漬けがスタンバイしていることが心強く、日々の献立のアイディアの源にもなっているようです。
作品に登場する、ぬか漬けアレンジレシピを、小説の世界観とあわせて、ぜひお楽しみください。
<著者>
古矢永塔子(こやながとうこ)
1982年青森県生まれ。弘前大学人文学部卒業。2017年より小説を書き始め、2018年、『あの日から君と、クラゲの骨を探している。』(宝島社)でデビュー。2020年、『七度笑えば、恋の味』(小学館)で小学館主催の第1回「日本おいしい小説大賞」を受賞。2022年10月21日に『今夜、ぬか漬けスナックで』(小学館)が発売。
ライター、J.S.A.ワインエキスパート。札幌の編集プロダクションに勤務し、北海道の食・旅・人を取材。夫の転勤で上京後、フリーでライティングや書籍の編集補助に携わる。小学生のころから料理、生活、インテリアの本が好きで、少ない小遣いで「憧れに近づく」ために工夫し、大学では芸術学を専攻。等身大の衣食住をいかに美しく快適に楽しむか、ずっと大切にしてきたテーマを執筆に生かしたいです。小学生のひとり息子は鉄道と歴史の大ファン。