ドラマ好きは「脚本家」に注目する
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今回の座談会は吉田潮さんの連載が始まった2022年秋から現在までのドラマ作品、脚本家、俳優をテーマに始まりました。
まずさっそく話題に出たのが脚本家について。2025年秋クールは三谷幸喜さん(『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』<フジ系>)、野木亜紀子さん(『ちょっとだけエスパー』<テレ朝系>)、岡田惠和さん(『小さい頃は、神様がいて』<フジ系>)の3人が新作ドラマを書いています。
サトウ:『もしもこの世が舞台なら~』は、もったいないなあ……って感じがしますね。
吉田:あれだけ若手の人気者をたくさん投入しているのに……。何か空回りしちゃっているんでしょうね。
サトウ:三谷さんは『鎌倉殿の13人』(NHK)が良かったから、もう3年に1回くらい、大河の脚本を書いていたらいいんだと思う。
吉田:岡田さんはどうですか? 私はどうも苦手。どの作品でもやたらとホムパが開催されて登場人物が瞬時にうちとける。憂いとリアリティがないから。
サトウ:私はもともと『最後から二番目の恋』(岡田惠和脚本・フジ系)がすごく好きなので。でも、もうドラマ全盛期の頃のフジテレビじゃないんですよね。
吉田:サトウさんはフジテレビっ子ですか?
サトウ:フジテレビのドラマは昔はよく見ていました。でも1990年代に「WOWOW」が登場して、2010年代に「Netflix」が登場して、配信の流れがきて、作品をワールドワイドに配信できるようになった。地上波ドラマをリアルタイムで見なくても「TVer」で見られるようになって……と、ドラマをめぐる環境も変わってきたように思います。
吉田:そうですね、「テレビはもうダメだ」って言われてから、もう10年以上経ってる感じもするんですけど。私は坂元裕二さんの脚本が好きで、『カルテット』(TBS)が大好きなんですよ。そんな坂元さんが「Netflix」で映画を作ったんですが、ファンの私たちは沈黙してしまったという……。やっぱり坂元さんは、地上波テレビの理不尽な制限の中で作るほうが良かったのではないか?と思ってしまいました。
--お2人が基本的に「この人の脚本なら必ず見る!」という脚本家はいるのでしょうか?
吉田:坂元さんとクドカン(宮藤官九郎)ですね。
サトウ:それと野木亜紀子さん。
吉田:あ、あと大石静さん。
--大石静さんといえば、昨年は大河ドラマ『光る君へ』(NHK)が女性を中心に大ヒットしていたのが記憶に新しいところです。
サトウ:現在の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK)の脚本の森下佳子さんもチェックしています。
吉田:森下佳子さんはいつも大作を背負わされていて、あまり小さなドラマはやらなくなったのですが、今の『べらぼう』はとてもいい。大河ドラマで庶民の話って、これまでなかったんですよね。私はずっと絵師の話が見たいって思ってたから、すごく嬉しい。もう武士はもう飽きちゃったんです(笑)。
サトウ:そういう意味では大石さんの『光る君へ』も、いわゆる武士が全然出てこなかった。よく大河を武士抜きで作れましたよね、でも来年はまた武士です。『豊臣兄弟!』(NHK)が控えています(笑)。
吉田:NHKつながりでいくと朝ドラ『虎に翼』(NHK)の脚本を書かれた吉田恵里香さんも注目しています。
岡部たかしは大出世したんじゃないか?
null--この2~3年でめきめきと頭角を現した俳優に岡部たかしさんがいます。この連載の初期に『エルピス』(フジ)を取り上げたのですが、その際に印象的な上司役を演じ、以後切れ目なくドラマ作品に登場しています。つい最近朝ドラ『虎に翼』(NHK)に主人公のお父さん役で出ていたと思ったら、今の朝ドラ『ばけばけ』(NHK)でも主人公のお父さん役です。
サトウ:岡部さんといえば『エルピス-希望、あるいは災い』(カンテレ)ですね、あれで視聴者の目に留まった。
吉田:今まで情けないお父さんとか、犯人役とかをずっと演じてきて、もうちょうどいいんですよ。あの迫力もなくて、いるかいないか、ちょっと頼りない空気感。『ばけばけ』での小日向文世さんもコメディリリーフなんだけど、悪役やらせたら凄みがある。
サトウ:そういう意味では野呂佳代さんもスゴイ。『アンメット』(カンテレ)、『ブラッシュアップライフ』『ホットスポット』(ともに日テレ)とずーっと出続けていて自然なキャラ。主役じゃないんだけど、あの人一人置いとくとリアリティが出るという。
吉田:主人公の友だち役メインかと思ったら、今放送中の『フェイクマミー』(TBS系)では因習を強要する保護者会のボス役なんですよ。
--クドカンのドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS・略して『ふてほど』)で不良の娘役を演じた河合優実さんも、注目の女優さんになりました。現在『ユニクロ』のCMに起用されるなど、このまま国民的女優ポジションになりそう?
吉田:河合優実さんはもう別格になってしまいますね。演技うまいし、踊れるし。もう主演の人。
サトウ:次に彼女が演じるのは朝ドラじゃなくて、大河の主役でいい。
吉田:Amazon Originalドラマで『龍が如く~Beyond the Game~』っていう作品に出ていたんですけど、それがちょっと……。まだ若いから、いろんな駄作にも出ちゃうかもしれない。事務所の人にしっかり作品をコントロールしてもらったらいいと思います。
サトウ:『ふてほど』と言えば、阿部サダヲさんもいますね。阿部サダヲさんは作品ごとに上手いなあ、と思ってしまいます。今や主演俳優だし。この前のクールの、松たか子さんと共演した『しあわせな結婚』(テレ朝)、あれも良かった。決して良い人ではない、なんならイカレてる、けどかっこいい。なかなかいない主演俳優の人の形。
吉田:阿部サダヲさんって、引き出しが多すぎて。私は、この人はなんて生き生きと舞台を走り回る人なんだろうっていう、ところから始まっているので、三の線でコメディー的に見ていたんです。
それが、映画『死刑にいたる病』で演じた連続殺人鬼とか、ドラマ『空白を満たしなさい』(NHK) で演じた不穏な男とか、突き抜けた狂気の人を演じたらすごいんですよ。観る者が生理的に受けつけがたい役でね。
それぞれの推し俳優・推し作品
null吉田:私、なんだかんだ言って俳優では尾野真千子さんが一番好きなんです。朝ドラ『カーネーション』(NHK)も素晴らしかったけれど、尾野真千子さんの涙にはね、もう絶対的にこう、そそられるっていうか。
『阿修羅のごとく』(Netflix)で編み物をする女性の役を演じていた時に、その手つきが完璧だったんです。編み物をやってる人の手なんですよ。糸を手繰る手つきや、目数を数えているときに邪魔されたときのいら立ちとか。もちろん脚本にあったんだと思うけれど、すごく動きが自然で。大した秒数じゃないシーンなんだけど、そこに魂を宿らせる棒針の使い方というか。
サトウ:私も『カーネーション』は大好き。再放送を全部見ました。脚本の渡辺あやさんは『エルピス』も書かれていますよね。彼女が書いたドラマなら、まず見てみます。
ここ2~3年で放送されたドラマだと、個人的なナンバーワンは『アンメット ある脳外科医の日記』(関テレ)。俳優さんたちが「声を張らず」に、小さな声で普通に会話をしていたじゃないですか。あれは、すごく見てる方が安心しますね。
吉田:やっぱりテレビドラマって、聞き取りやすさが求められるんですよね。わりと俳優さんたちが滑舌よく喋らなきゃいけない暗黙のルールみたいなのがあるじゃないですか。でもリアルじゃなくなるんですよね。
サトウ:そういう意味で、『アンメット』はすごくリアルでしたよね。監督さんが取材記事で話していたけれど、あの音量での会話のトーンやテンポを可能にするために、音声さんが相当頑張ったそうです。だから演技が自然で、あの表現になった。もちろん音声技術の向上もあると思うけど。
声を張るとどうしても「演技」っていう感じになってしまうけど、自然な音声がすごく良かった。俳優さんたちも皆さん演技力がある方だったし。

これからどんなドラマが見たい?
null--テレビドラマを取り巻く環境はどんどん変化しています。かつてはトレンディ―ドラマが一世風靡しましたが、今や恋愛ドラマはかつてほどの数はなく、刑事・医者ものばかりのクールの時も。ドラマ好きのお2人は、今後どんなドラマを希望しているのでしょうか?
吉田:私はやっぱり、みっともない人が見たいんですよ。優越感に浸るとかではなくて、みっともない人間だからこそ美しいみたいな。何があってもくじけない、強い人もかっこいいし素敵ですけど、みっともなくて地べた這いずり回っているような人間こそ見てみたいなと。ある意味汚いドラマを見せてほしいなと。
私、多分ドラマから教訓はいらないんだと思う。教訓とか憧憬とかはいらなくて、こういう気持ちになる時あるよねっていうような。なんだろうな……苦い思いをしたい。なんか口の中がこう、血の味がするみたいな。
サトウ:私は学びがあるものと、社会派ドラマが見たいです。『鎌倉殿の13人』を見ていて、“あんな風に北条政子が出来上がっていったのか”と、今までのイメージとは全く違う印象を得ました。それってドラマのだいご味ですよね。お仕事ドラマにも通じるところがあるかもしれません。
『続・続・最後から二番目の恋』(フジ)も社会派な部分があったんですよ。主人公の仲良し三人組のやりとりなんて、リアルな50代子ども無しの人生これからどうしていこう、というところがすごく興味深かった。中井貴一との恋より、そっちが気になった(笑)。
--2人の望む形のテレビドラマが来年以降に登場するか!? テレビ局の皆さんに届きますように!

















