地元系ドラマ「ブラッシュアップライフ」に続く「ホットスポット」
nullタイムリープで人生を何度もやり直す、奇想天外のアイデアと女たちの会話劇が秀逸だった『ブラッシュアップライフ』(日テレ)。バカリズムの脚本は、定番と既視感で視聴者離れした令和のテレビドラマ界で、固定客をがっつり獲得。待望の地元系シリーズ第二弾は、宇宙人が登場するという。『ホットスポット』の話をしよう。
巷では常識をこえる発想や発言を口にする人を「宇宙人」と呼んだりする。たいていが揶揄する意味で使われるのだが、これまでのドラマに出てくる宇宙人は見目麗しいのがお決まりだった。『スターマン・この星の恋』(2013年・フジ系)では、夫が失踪し、三人の子供を育てるシングルマザー(広末涼子)の前に現れたイケメン(福士蒼汰)が宇宙人。『なぞの転校生』(2014年・テレ東)では、主人公の隣の家に引っ越して来た転校生(本郷奏多)が浮世離れした美少年で、宇宙というか、別次元のパラレルワールドから来たという設定。さて、ではバカリズムはどんな宇宙人を描くのかと思ったら!
猫背で知覚過敏、日本に5,000人くらいいそうな外見の宇宙人
null主人公・遠藤清美(市川実日子)は山梨県の富士山のふもとにある町に、中学生の娘(住田萌乃)と住んでいるシングルマザーだ。勤務先は湖畔のビジネスホテル「レイクホテル浅ノ湖」。ある日、買い物帰りに自転車でバランスを崩し、トラックに轢かれそうになったところを、ホテルで働く同僚のおじさん・高橋に助けられる。普段はパッとしない、ほとんどしゃべらない、清美にとっては正直どうでもいい、職場のおじさんが、目にもとまらぬ速さで清美を助けてくれたのだった。
不思議な体験をした清美は礼を言うと、「あのことは誰にも言わないで」「実は俺、宇宙人なのね」と告白してくる高橋。たとえか何かと勘違いするも、高橋は目の前で10円玉をぐにゃりと曲げて見せてくれる。つまり、そもそもの身体能力を一気に高めることができるのが宇宙人の証だというのだ。ただし、能力を拡張した後は、副作用のような症状が出る。鼻水や耳詰まり、かゆみに発熱など。なんか、やけに親近感のある宇宙人である。
その宇宙人・高橋を演じるのが、東京03の角田晃広。見目麗しいイケメンでも謎の美少年でもない、普通の、どこにでもいそうな(劇中では「同じ見た目のおじさん、日本に5,000人くらいいる」と表現)、しかもちょっと話が長くて恩着せがましいおじさんというところが、いい。いや、すごい能力を発揮するんだよ。嗅覚を拡張して窃盗犯を突きとめたり、跳躍力を拡張して、体育館の天井に挟まったバレーボールを取ったり、舐めていた黒飴を吹き飛ばして愉快犯を捕まえたり、SOS表示で走るタクシーを追いかけて、運転手の無事を確認したり。それこそスーパーマンのようなヒーローなのだが、いかんせん、何の変哲もないおじさん。そこがバカリズムのリアリズムであり、作り手の矜持であり、良心でもあると思っている。
清美はこの不思議な体験を、地元の親友で看護師をしているみなぷー(平岩紙)や後輩で小学校教員のはっち(鈴木杏)に話してしまう。過剰な期待をしたふたりは高橋に会いたがり、根掘り葉掘り宇宙人の実情を聞き出す。高橋自身に興味があるというよりは、拡張した能力を直に見てみたいだけ。
ちなみに、高橋が宇宙人の特徴を説明するのだが、「骨格が微妙に違う。背骨が丸まっている」「冷たいもので歯がキーンとなる」というのだが、3人はただの「猫背」「知覚過敏」と認識。キャッキャ騒いでもてはやすのではなく、鼻で笑って軽くあしらう感じが絶妙。この3人組がなんだかんだいって、高橋の能力を図々しく使い倒すようになっていく。リスペクトよりもユースフル。スマホ画面のフィルムを貼らせたりしてね。
実日子・紙・杏の息ぴったり、さらに加わる女優陣の妙技
nullとにかく、女友達3人の会話劇が自然体で、セリフ感ゼロ。『ブラッシュアップライフ』の安藤サクラ・木南晴夏・夏帆のトリオも素晴らしかったけれど、今回もナイスキャスティングだ。ホテルフロント、看護師、小学校教員の仕事の愚痴も、絶妙なツッコミと合いの手が入って、明るく朗らかに聞こえる。根の深い怨恨や呪いになりがちな愚痴が、こうも昇華されるのは、3人の息が合っているからこそ。それぞれの業界の微妙なモヤモヤを掬いあげる脚本には現実味もあるし、ちゃんとオチもある。セリフ量で言えば、今期の中でも一・二を争うドラマかもしれないが、無粋な説明ゼリフでもないし、3人の性格もちゃんと滲み出てくるよう計算されている。観終わった後、1時間とは思えない充実感を味わえるドラマって、そう多くはないのよね。
この3人組の他にも、清美の職場にいる3人の女性もスパイスが効いている。勘が鋭いのか、逆に鈍いのか、よくわからないのが同僚の磯村由美。演じるのは夏帆。高橋宇宙人説を唱えるも、ただの都市伝説好きなだけなのか。もうひとり、フロント業務を担うのはパートの沢田えり。坂井真紀がちゃっかり&しっかりを演じていて、このホテル、安心だわと思わせてくれる。ちょっと不穏なのは清掃スタッフの中本こずえ。手癖が悪くて、平気で嘘をつく(独身なのにシングルマザーと言ったり)あたりがかなりスパイシーなのだが、演じるのが野呂佳代なので、憎めなくなっている。華美ではないが実力派、地味に豪華な面々で固めているので、コメディーがちゃんと成立する布陣といえよう。第3話では、木南晴夏が同級生・あやにゃんとして、5歳の娘・りつ(原春奈)を連れて登場。りつちゃん、どうやら高橋の能力に気づいてしまった様子……。
宇宙人・高橋を使い倒すだけでは終わらないであろう、今後の展開も気になる。高橋いわく、レイクホテル浅ノ湖の温泉に浸かると、能力を拡張した後の副作用も治って、免疫力も高まるという。宇宙人の湯治場と考えると、常連客のみなさんももしかしたら宇宙人!?と疑い始めてしまう。
長逗留でそれこそ住んでいるかのようなふるまいの村上(小日向文世)、毎回連れてくる女性が違う宮本(勢登健雄)あたりは怪しい。ちなみに勢登は『ブラッシュアップライフ』で不倫していた玲奈ちゃん父、『光る君へ』(NHK)では福丸を演じた役者だ。アメニティーやらタオルを持ち帰る常連客・丸山(清水伸)は地球人っぽいけれど。他にも、ホテルで働く同僚・小野寺(白石隼也)も着替えと退勤が異様に早いというので、疑わしいところだ。
というか、他の星の生き物からすれば地球人だって宇宙人だ。霊験あらたかなパワースポットとしても有名な富士山をバックに、繰り広げられる脱力系SFコメディーの読めない展開を大いに楽しんでいる。
『ホットスポット』
日本テレビ 毎週日曜 夜10時30~
脚本:バカリズム 音楽:fox capture plan 演出:水野格、山田信義、松田健斗 プロデューサー:小田玲奈、小田井雄介、野田健太 チーフプロデューサー:道坂忠久
出演: 市川実日子、角田晃広、鈴木杏、平岩紙、木南晴夏、夏帆、坂井真紀、田中直樹、小日向文世 ほか
イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。