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日曜ドラマ「ブラッシュアップライフ」の女子トークあるある感!「徳を積む」着地点が楽しみすぎる

「日曜の夜なのに憂鬱にならない!」「このドラマを見るのが日曜の夜の楽しみになった」と話題のドラマ『ブラッシュアップライフ』(日テレ 夜10時30分~ )。独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんに、その見どころを教えていただきました。

初回で死んでしまう主人公

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「人生をやり直すとしたら、どの時点に戻りたい?」と聞かれて真剣に考えたことがある人も多いだろう。どの時点どころか、生まれた瞬間からやり直す、しかも過去の記憶をもったまま、何度もやり直すハメに陥るのが、『ブラッシュアップライフ』。

初めは「わー、いいなぁ、私もやり直したい!」と思うかもしれない。ところが、やり直しを重ねて3周目に入ると、それはそれで、結構大変な展開になりつつある。

主人公の近藤麻美(安藤サクラ)は33歳。関東近県の地方都市で市役所勤務の地方公務員だ。実家暮らしで親元&地元ライフをそれなりに満喫。小・中学校の同級生・みーぽん(木南晴夏)となっち(夏帆)とは長い付き合いで仲良し3人組。同じく同級生の福ちゃん(染谷将太)がバイトをするカラオケに行った帰り、コンビニの前で車に轢かれてしまう。麻美、享年33。なんと、初回に主人公が死ぬのだ。

人間に生まれ変わるには徳を積むべし

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気づくと真っ白い世界。窓口に案内係(バカリズム)がいる。自分が死んだことを自覚した麻美は、生まれ変わりの手続きをするも、来世はオオアリクイという。できれば人間に生まれ変わりたい麻美は、もう一度初めから人生をやり直す道を選ぶ。徳を積めば、人間になれるかもしれないという希望を胸に、人生2周目へ。

2周目で徳を積むべく、同級生の父親と保育園の先生の不倫を未然に防ぎ、同じ大学の薬学部へ進んで薬剤師になる麻美。1周目でギャンブルにハマって身を滅ぼした彼氏(松坂桃李)とは距離をおくことに。嫌いだった中学校の教師(鈴木浩介)が痴漢の罪を着せられそうになるのをうっかり助け、薬の飲み合わせが悪かったことで亡くなった祖父(綾田俊樹)を救い、八面六臂の活躍で徳を積んでいく麻美だが、彼氏はなぜか年商10億の投資家になるという計算違いも。

同級生の玲奈ちゃん(黒木華)が気づいていなかった不倫関係を阻止したものの、33歳のときにまたしても車に轢かれる(よりによって、ドラマのロケで地元に来ていた俳優・前野朋哉を見ていたら前方不注意で……)。ところが、来世はニジョウサバと言われ、納得がいかずに人生3周目へ突入。

面白すぎる。タイムリープ系の使命感や悲愴感はまったくなく、麻美の人生やり直しをわくわくしながら観ている。主演の安藤サクラは、20代の頃はやさぐれた役やちょっと社会からはみ出た役、クセの強い役が多かった(筆者オススメの安藤サクラ出演作品、ドラマは『ママゴト』、映画は『その夜の侍』『百円の恋』)。今回は、キラキラもギラギラもしていない、気負いのない地元系無欲なヒロインがぴったりなのよね。

見どころのひとつは「女子特有の縦横無尽な会話」

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33年の人生をまるっと辿るうえで、今30代の女性には懐かしい映像や歌が随所に挿入されている。シール帳、「ゲームボーイアドバンス」、プリクラに当時人気のアイドルやドラマ、カラオケソング……。ちょいとお姉さん世代の人でも「あー、あの頃ね……」と思い出せる要素がぎっしり。

なによりも、3人組の会話が自然体、かつテンポがいい。話しているネタがコロコロ変わっても説明不要、縦横無尽に話題が転換していく。あだ名がどんどん変わる同級生の話(あるある!)、美人で性格のいい完璧な同級生の話、サービスされたポテトへの小さな不満、情報量が少なすぎるクイズでも瞬時に回答……そうそう、長年の付き合いの女友達ってまさにこういう感じ。

遠慮なし、気遣い不要、変な“間”もなければ、ためらうこともない。「ドラクエ派? FF派?」「犬派」「醤油派」と単語だけで心地よくつながる会話で、気の置けなさを表現。バカリズム脚本の妙技であり、最大の特長でもある。

やり直しも重ねていくうちに、無理が生じる

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そして3周目では、初めて地元を出て東京にひとり暮らしする麻美。テレビ局に勤務し、大好きなドラマ制作に関わる。2周目で投資家になる彼とはしれっと付き合うものの、逆にフラれる結果に(ただし、彼の年収は1億ダウン)。

思い通りにならないところも、いとおかし。公務員、薬剤師と経験を重ねた麻美は、クレーム対応も無茶ぶり対処もお手のもの。テレビ局ではめきめきと頭角を現し、プロデューサーにまで昇格。さまざまな職業体験というのが面白いし、“女のお仕事ドラマ”詰め合わせというお得感もあるよね。

ところが、1周目と2周目を過ごしたのは地元。徳を積むために、家族や友達、地元の人々を救ってきた麻美だが、3周目では激務かつ東京在住が仇になる。時間的にも物理的にも厳しく、しかも職業も変わっているため、矛盾も生じてくる。2周目で救った人々をすべて同様に救えるのか? さあ、どうする麻美!?

やり直すことで成熟を増すメリットだけではない。思い通りにならないジレンマも抱え始め、物語がどこへ着地するのか想像もつかない。どうやら他にもタイムリープしている人間がいるようで。奔走する麻美に伴走する気持ちで見守っている。

『ブラッシュアップライフ』
日本テレビ系毎週日曜夜22時30分~
脚本:バカリズム 演出:水野格、狩山俊輔 チーフプロデュース:三上絵里子 プロデュース:小田玲奈、榊原真由子、柴田裕基(AX-ON)、鈴木香織(AX-ON)
出演:安藤サクラ、夏帆、木南晴夏、松坂桃李、染谷将太、黒木華、臼田あさ美、鈴木浩介、田中直樹、志田未来、市川由衣、野呂佳代、三浦透子、バカリズム

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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