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「ハッシュドビーフ」と「ビーフシチュー」の違いとは?牛肉入り煮込み料理だけど…具材のサイズと作り方に大きな違いが!

【食べ物の違い豆知識】を紹介するこちらのシリーズ。49回目は、「ハッシュドビーフ」「ビーフシチュー」について。どちらも牛肉を使った王道の洋食メニューですが、その違いとは? 2つの違いを料理研究家・時吉真由美さんに聞きました。

まずは「ハッシュドビーフ」と「ビーフシチュー」について調べてみると…

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ハッシュドビーフ

ハッシュとは細かく切ることである。タマネギ、牛肉の薄切りを炒め、褐色ソースでしばらく煮込み、塩、こしょう、クローブなどで調味して仕上げる。これをご飯にかけるとハヤシライスになる。

【出典】日本大百科全書(ニッポニカ) 小学館

ビーフシチュー

牛肉・タマネギ・ニンジンなどをブラウンソースで長時間煮込んだ料理。

【出典】デジタル大辞泉 小学館

つまり「ハッシュドビーフ」と「ビーフシチュー」の違いって?

2つの共通点は「牛肉」ですが、この牛肉の形状に大きな違いがあります。

ハッシュドビーフは、「hashed=細かく切る」という意味の通り、細かくカットした牛肉を炒めてから煮込みます。そのため、比較的短時間で作ることができます。

一方、ビーフシチューはゴロッと大きめにカットした牛肉を贅沢に使います。そのため、牛肉が柔らかくなるまでじっくり煮込む必要があり、調理時間が長時間かかります。

牛肉の形状が異なることで、調理時間や調理法にも差が出てくるのがポイントです。

「ハッシュドビーフ」に似た「ハヤシライス」って?

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前述の通り、ハッシュドビーフの語源は、英語の「hashed beef」。本来のハッシュドビーフはイギリス発祥で、細かく刻んだ牛肉と野菜を炒めて煮込む素朴な料理だったそうです。それが日本に伝わった後、デミグラスソースなどで煮込み、日本独自の料理へと進化していきます。

さらに似たものに「ハヤシライス」を思い浮かべる人も多いと思います。

ハヤシライスは、「hashed beef with rice」がなまってハヤシライスになった説や、書店『丸善』の創業者である医師の早矢仕有的(はやしゆうてき)氏が、患者さんや従業員の方々に栄養をつけるために考案したという説、『上野精養軒』の林という名前のシェフが作ったまかない料理だった説など、諸説あるようです。

日本では、ハッシュドビーフもハヤシライスも白米にのせて食べることが多く、両者に明確な違いはないようです。

家庭でお手軽「ハッシュドビーフ」の作り方

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ハッシュドビーフは料理学校で習ったという時吉さん。その作り方を伺うと……。

「ビーフシチューに比べて、ハッシュドビーフの材料は牛肉と玉ねぎだけ。調理時間も短いので、家庭でも気軽に作れます。明治時代以降、洋食文化が花開いた当時、お母さんたちが家庭でも作りやすいように進化した料理なのかもしれませんね。

私が料理学校で習った時は、牛薄切り肉を炒めて一度取り出し、さらに薄切りにした玉ねぎを炒めてから、牛肉を戻し入れ、小麦粉を振り、ケチャップやウスターソース、コンソメやブイヨンを加えて煮込みました。デミグラスソースやトマトソースも使わずにスピーディーに作る、まさに昭和の家庭料理です」(以下「」内、時吉さん)

ただし、唯一の野菜である玉ねぎの切り方にはこだわりがあったそう。

「玉ねぎの切り方がポイントで、輪切りにして繊維を断つと繊維が残ってしまうので、トロトロになるように、繊維に沿って切るよう教わりました。

最近、自分で作るときは、牛薄切り肉を何枚か重ねたまま切って、あえてそのままほぐさずに全面を焼いて取り出します。玉ねぎを炒めた後に牛肉を戻し、そこで牛肉をバラバラにしてから小麦粉を振ります。バターを入れ、ケチャップやトマト缶、ウスターソース、コンソメかブイヨンを入れ、ワインを少量加えて5〜6分煮るだけ。とっても簡単です。ハッシュドビーフとカレーライスは別物ではありますが、その手軽さや親しみやすさは、ルーを使って作る家庭的なカレーに似ている気がします」

贅沢すぎるごちそう!「ビーフシチュー」の作り方

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一方、ビーフシチューは牛肉も野菜もゴロゴロ。そのため、こちらは長時間かけて煮込む必要があります。高級感があり、味わいも濃厚で、まさにシチューの最高峰です。

香草を束ねたブーケガルニのイメージ

「私が作る時は、大きな鍋で大きく切った牛肉を先に焼き、そこに大きめに切ったにんじんと玉ねぎを入れて、ワインを1リットルほど入れ、材料がかぶるくらいの水を加えます。さらに、ブーケガルニ(香草の束)を加えて、2〜3時間コトコト煮込みます。じゃがいもは溶けてしまうので、後から入れるのが私は好きです」

牛肉を煮込んでいる間に、フライパンでブロンドルー(小麦粉が茶色くなるまで炒めたもの。トマトの水煮缶やケチャップ、ウスターソースなどを入れて深い色にして、牛肉を煮ているスープを少量加えて伸ばしたら完成)を作ります。

ブロンドルーができたら鍋に入れ、さらにじゃがいもを加えて10〜15分煮込んだらできあがり。じゃがいもはあえて入れず、マッシュポテトにして添えても美味しいとのこと。

ミルポワ

「子どもが食べ盛りの頃は、牛タンを買ってきてゴロゴロ切って焼き、赤ワインで3〜4時間じっくり煮て、手作りしたデミグラスソースを加えて煮込んでいました。デミグラスソースの中にはミルポワ(玉ねぎやにんじん、セロリなどをみじん切りにしたもの)も入れて、昔は頑張って作っていましたね。ビーフシチューは手間がかかるものですが、それも愛情です。

鍋にシチューが残ったら、カレールーを追加してカレーにしても美味しいですよ!」

ビーフシチューは作り方を聞くだけで、ちょっと気が遠くなるほど(笑)。筆者は市販のデミグラスソースを使って作ってしまいますが、正式に作ると、想像以上に手間がかかる料理でした。ホテルやお店で食べる理由にも納得です。それに比べてハッシュドビーフの手軽さは、まさに家庭的。お腹を空かせた家族のために、パパッと作るのに最適ですね。

最終回!これまでありがとうございました

今回で、時吉さんの【食べ物の違い豆知識】の連載は最後です。食べ物の違いに関する素朴な疑問をお伺いする中で、料理の基本をたくさん教えていただきました。まさに、料理は知識。作り方の基本を知っているか知らないかで、その美味しさは大きく左右されます。

今の時代、共働きの家庭が増え、手軽なレシピが増えました。簡単なのは決して悪いことではありません。でも、基本を知っていて省くのと、基本を知らずに手を抜くのでは、大きな違いがある気がします。

料理の基本がわかるので、時吉さんの他の記事もぜひチェックしてみてください。きっと、あなたの料理の世界をますます深めてくるはずです。

最後に、時吉さんから読者の方へのコメントをお届けします。

「これまで記事をお読みいただきありがとうございました。この連載を通し、私自身、改めて食材と向き合い再勉強することができました。

食材の違いを知ると“使い分け”ができるようになります。この連載でお伝えしてきた“使い分けのコツ”が、料理をより美味しくいただく一助になりましたら幸いです。(時吉真由美)」

いまだにロケ先などで、これまで知らなかった食材やお料理に出合うことがあるという時吉さん。その感動を時吉さんが代表を務めるcooking Clocca」のInstagramで見ることができるので、ぜひのぞいてみてくださいね!

 

取材・文/岸綾香

時吉真由美
時吉真由美

料理研究家。(株)Clocca代表取締役 cooking Clocca代表

土井勝料理学校をはじめ各地の料理教室講師のほか、「ZIP!MOCO’Sキッチン」(放送終了)「有吉ゼミ」金のワンスプーン!などTV・出版物等のフードコーディネートや、料理、レシピ制作などで幅広く活躍。

Instagram(@cooking_clocca)では、日々のお料理や季節の和菓子といったレシピを中心に、オススメの調理器具やロケ先で出合った食材などを発信中。

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