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「デカフェ」って何の略?「ノンカフェイン」「カフェインレス」とは違うのか、コーヒーのプロに聞きました

夜のリラックスタイムや妊婦さん・授乳中など、「コーヒーは飲みたいけれど、カフェインは摂りなくない」ときに「デカフェ」を選ぶ人が増えています。ここ数年スタバなどのコーヒーショップや、カフェの定番メニューにもなっており、デカフェのコーヒー豆も販売されています。

一方で「デカフェは味が薄くておいしくない」というイメージも。デカフェがどのようにできるのか、デカフェとノンカフェイン・カフェインレスとの違い、おいしくないというウワサは本当なの?など、デカフェにまつわる様々な疑問を、スペシャルティコーヒーを提供する『堀口珈琲』代表取締役社長 若林恭史さんに聞きました。

「デカフェ」とはカフェインゼロのコーヒー?

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コーヒー豆からカフェインを除去したものが「デカフェ」と呼ばれていますが、実は国によってデカフェの基準はまちまち。日本ではカフェインを90%以上除去したコーヒーを「カフェインレスコーヒー」、「ディカフェナイテッド(デカフェ)コーヒー」と呼んでいます(「レギュラーコーヒー及びインスタントコーヒーの表示に関する公正競争規約」より)。

つまりデカフェは、カフェインがゼロというわけではありません。

また「ノンカフェイン」という言い方もありますが、これはコーヒーではなく、麦茶、ルイボスティー、黒豆茶、コーン茶、タンポポコーヒーなど、もともとカフェインを含んでいない原料に由来する飲み物についてよく使われます。

日本では、いずれの呼び名も法令で定義されているものではなく、2010年代ごろから、カフェのメニューにデカフェが普及し、一般的にカフェインの含有率が低いコーヒーをデカフェと呼ぶことが多いようです。

 「レギュラーコーヒーはアラビカ種がメインで、アラビカ種のコーヒー豆に含まれているカフェインの量は重量の1%台と微量です。インスタントコーヒーに使われるカネフォラ種と比べるとアラビカ種のカフェインの含有量はもともと少ないのです。

カフェインをどれだけ除去するかは国ごとで基準が変わります。日本では90%以上と定めており、もともと1%台の微量なカフェインを90%以上抜くので、ゼロではないですが、限りなくゼロに近いのがデカフェになります。堀口珈琲では97%以上除去を指定し、証明書も発行してもらっています」(以下「」内、若林さん)

妊娠中でもコーヒーを飲みたい人はカフェインレスを選ぶことが多い。

デカフェはどうやって作られるの?

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カフェインはコーヒーの生豆から既に含まれており、焙煎によってカフェインの量が変化することはほとんどなく、人工的にカフェインを抜く作業が必要となります。

生豆からカフェインを除去する方法は、水による抽出、二酸化炭素による抽出、有機溶媒による抽出の3つの方法があります。欧米では豆へのダメージが少ない酢酸エチル等を使う有機溶媒が主流ですが、日本では規制があり有機溶媒でデカフェ処理したものは輸入できないことから、水を使ってカフェイン除去したコーヒー豆が使われています。

 「現在、日本国内で水を使ったデカフェ処理をできる場所がなく、世界でもカナダとメキシコの2カ所だけです。海外でデカフェ処理された生豆を、ロースタリーが取り寄せて焙煎し提供します。

再利用できる二酸化炭素を使った『超臨界技術』が私たちとしてはベストだと考え、一時期ドイツの工場にお願いしていたことがありましたが、そこは採算が合わす閉鎖されてしまいました。

2020年には三重県で超臨界技術を利用した日本初のデカフェ工場ができましたが、残念ながら閉鎖されています。莫大な設備投資とランニングコストが必要となる二酸化炭素のデカフェ処理は、コストが合わないことからなかなか普及できないのが現状です」

生豆を水に漬けてカフェインを抽出する方法は、ただ単に水に漬けるだけではカフェイン以外も溶け出してしまい、コーヒーの風味を形成する成分が損なわれてしまいます。そこで、カフェイン以外のコーヒー成分を溶かしきった飽和水溶液に浸し、カフェインだけ水に溶け出させて生豆からカフェインを抜き取ります。

加工処理では、水に浸す前にカフェインを出やすくするために水蒸気を当てて豆を膨張させたり、水に浸したあとの生豆をしっかり乾燥させる工程もあり、生豆にとって悪条件を繰り返す作業により、豆にダメージを与えてしまいます。

こういった豆へのダメージが「デカフェはおいしくない」と思わせる原因につながるのでしょうか?

かつては「デカフェ=まずい」というイメージもありました。

デカフェはおいしくないというのは本当?

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「産地で乾燥させて完璧に仕上げた生豆をデカフェ処理することで、風味を損なうような変化が発生するのは否めません。どうしたらおいしいデカフェを作れるか、私たちも最初にデカフェに挑戦したときは、試行錯誤を繰り返しました。

最初は、デカフェ処理する前と処理後の生豆のサンプルを取り寄せて、ひたすら飲み比べをしていきました。産地、処理のタイミング、デカフェ処理してからどれぐらい日にちが経っているのか、もともとの品質は高いのか、様々な条件を確認していきました。

高地で採れるアラビカ種のコーヒーはもともと豆が壊れにくい構造で、ダメージに強くて劣化しにくく、風味がしっかりしていることから、有意性があると推察しましたが、やはりおいしいコーヒーが生まれる標高の高い産地のものが、デカフェにしてもおいしいとわかりました。

コロンビアのナリーニョ、エチオピアのイルガチェフェ地域、ケニア、グアテマラのアンティグア周辺といった、標高が高くて豆の構造ががっしりしている産地のものをデカフェ処理したところ、風味の損なわれていないおいしいデカフェができました。デカフェ処理をすると風味は落ちるしかないので、元の風味がしっかりしている原材料選びが重要だったのです」

エチオピア・イルガチェフェの「ウォテ」の比較写真。左側がデカフェ処理をしていない豆、右側がデカフェ処理された豆。画像提供:堀口珈琲

豆を選ぶのも非常に大事ですが、もともと壊れかかった豆を焙煎するので、火の入れ方を工夫するロースターの技術も必要で、現在も研究を重ねているところです」

産地で採れたコーヒー豆をデカフェ処理施設へ送り、さらにそこから船で日本に送られてくるため手間も時間もコストもかかり、豆の品質も低下するという悪条件が重なります。もともと不利な条件のデカフェをおいしく飲めるようにするため、ロースター独自の研究や技術が必要だということですね。

現在、堀口珈琲で販売している、エチオピアの優良産地イルガチェフェの「ウォテ」を使ったフレンチロースト(深煎り)のデカフェを飲んでみました。デカフェと言われなければ、まったくわからないくらいの華やかな香りと深みのある味わいでした。

ハンドドリップで「ウォテ」のデカフェを淹れていただきました。

「私たちはおいしさにこだわる『スペシャルティコーヒー』を提供しています。おいしいコーヒーを飲みたいけれどカフェインは摂りたくない、また、摂ることを制限されている方に向けて、単なるカフェインが少ないコーヒーを作るのではなく、いかにおいしいデカフェを提供できるかに主眼を置いています。

これからデカフェ市場も拡大していくと思いますが、私たち堀口珈琲らしい妥協しないおいしさをデカフェでも追求していきたいと思っています」

次回は、「どんなときにデカフェを飲むといいの?」「デカフェのいろいろな楽しみ方」をご紹介します。

若林恭史さん

【教えてくれた人】

若林恭史さん

株式会社堀口珈琲 代表取締役社長。1980年埼玉県秩父市生まれ。2005年堀口珈琲に入社し、焙煎・ブレンディング・生豆調達の担当者として経験を積む。生豆事業と焙煎豆製造・流通の各部門の統括者を経て、20207月より現職。

堀口珈琲

 

取材・文/阿部純子

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