まずは「煮しめ」と「煮つけ」について調べてみると…
null煮しめ
濃いめの味で、野菜・干物・こんにゃくなどをじっくり煮上げたもの。
【出典】デジタル大辞泉 小学館
煮つけ
野菜や魚肉などを、調味した汁が十分しみ込むまでよく煮る。
【出典】デジタル大辞泉 小学館
つまり「煮しめ」と「煮つけ」の違いって?
「煮物」とは、出汁や調味液などに食材を入れて熱し、味をしみ込ませたもののことで、「煮しめ」も「煮つけ」も、煮物料理の一種です。
どちらも食材にしっかり味をしみ込ませる調理法ですが、辞書によると「煮しめ」は「濃いめの味」で、と言及されていることから、一般的にしっかりした味付けの煮物料理と言えそうです。
食材について見てみると、おせち料理に欠かせない「煮しめ」は、たしかに野菜やこんにゃくなどが定番なイメージ。一方の「煮つけ」は、カレイやキンキといった魚を連想される方が多いのではないでしょうか。
名は体を表す!知っておきたい煮物の種類
null「煮しめ」と「煮つけ」には厳密な違いが!
正直、辞書の内容だと違いがぼんやりとしか分からなかったのですが……。
「わたしがお料理を習った時の教えでは、“煮しめ”と“煮つけ”は作り方において明確な違いがありましたよ」と料理研究家の時吉さん。
「まずは“煮しめ”。おせちに欠かせない料理の一つですね。手綱こんにゃく・花れんこん・梅花にんじん・里芋の亀甲煮のほか、しいたけやごぼうといった食材を、煮汁がなくなるまで煮込んで作る煮物のことです。お重に詰めても汁気が出にくく保存が利くという利点があります。なおかつ、味を十分に含ませているので日持ちがするのも特徴です」(以下「」内、時吉さん)
以前、お正月におせちを食べる理由をお聞きした時のことを思い出しました!(お正月に「おせち」を食べるのはなぜ?その由来と意味って…【知っておきたい食の歳時記】)
正月の間は、かまどの神様もお休みいただくために煮炊きを控えるのでしたよね。だから日持ちを考えた料理が必要で、「煮しめ」はぴったりな調理法というわけなんですね。
「ちなみに、おせちの“煮しめ”は、食材をいっしょくたにして煮るのではなく、それぞれを煮ていきます。こんにゃくはお醤油でしっかり味付けしますが、れんこんや里芋は白い色が残るくらいにします。本来とても手間暇かけて作られる煮物料理なんですよ」
すべて茶色く染まってしまわないよう、見栄えも意識していたんですね。
「“煮つけ”は、少なめの煮汁の中で味をつけながら食材を煮ていく調理法です。魚の煮つけがなじみ深いですよね。
盛り付けられたものを思い起こしてみてください。煮汁も一緒に盛り付けてあることが多くありませんか? “煮つけ”は“煮しめ”とは違い、煮汁を残して仕上げます。もともと少量の煮汁で煮ていくため、中までしっかり味がしみ込むといったことはありません。そのため、煮汁も一緒に盛り付けて、食材を煮汁につけながらいただけるのが“煮つけ”の特徴と言えます」
言われてみると、たしかに……。
「魚の煮つけを盛り付けるときなどは、大さじ1程度の煮汁とともに盛ることが基本なんて言われているんですよ」
分量の目安まであったとは! 知りませんでした。
含め煮・筑前煮・甘露煮…煮物の種類はこんなにたくさん!
null「煮物の種類はまだまだありますよ。拙い説明ではありますが、それぞれ見ていきましょう。
- 煮込み:たっぷりの煮汁で、長時間、弱火で煮るもの。
- 煮転がし:材料を焦がさないよう、転がしながら煮汁がなくなるまで煮たもの。複数の食材を使うのではなく、例えば“里芋の煮転がし”のように、1種類である場合が多い。
- 煮浸し:薄い味で煮て冷ましながら味を含ませたもの。食材の色が活きるものに向く。ホウレン草や小松菜は茹でたものを汁に浸けると色が変わりにくい。ナスは揚げると色がきれいに出るため、揚げ浸しにすることが多い。
- 旨煮:甘さが主体の濃いめの味付けで煮たもの。
- 含め煮:たっぷりの出汁などで煮た後、食材を煮汁に入れて味を含ませる。薄味仕上げで食材の色や味わいを大切にする料理向き。
- 佃煮:主に醤油と砂糖で小魚やアサリなどを煮たもの。江戸の佃島で作られていたことからこの呼び名に。もともとは塩で煮ていたとか。保存を目的とした加工品。
- 甘露煮:やや甘辛い味付けで煮つめたもので、照りがある。
- 時雨煮:しょうがを加えて佃煮風に煮たもの。
- 有馬煮:山椒を加えて煮たもの。兵庫県の有馬が山椒の産地だったことにちなむ。
- 煮こごり:煮魚の煮汁が冷えてゼリー状に固まったもの。魚がもっているゼラチン質で自然と固まったものの他、ゼラチンや寒天などで人工的に固めて作られるものもある。
- 角煮:豚肉やカツオなどを四角く切って、長時間とろ火で煮たもの。
- 兜煮:魚の頭を煮たもの。鯛を使うことが多い。
- じぶ煮:金沢地方の郷土料理。鶏肉やすだれ麩、生麩などを使う。肉に小麦粉をまぶしたり、くず粉を入れたりするため、とろみがあるのが特徴。
- 筑前煮:筑前地方(福岡県北西部)の郷土料理で、炒り鶏、筑前炊きとも呼ばれる。骨なしの鶏肉と野菜を油で炒めてから煮たもの。
- がめ煮:筑前煮と材料は同じだが、骨付き肉を使い、炒めずに煮ていく。寄せ集めるという意味の方言「がめくりこむ」が名の由来。
- 従兄弟煮:かぼちゃや大根といった野菜と小豆を煮たもの。名の由来は、堅いものから順に、追い追い(甥甥)、あるいはめいめい(姪姪)に入れて煮ていくことから、転じて従兄弟煮と呼ばれた説などがある。
とても多様ですね」
普段、気にしたことはなかったのですが、煮物といっても、こんなにも種類があったとは……。
「使う食材や食材の形、はたまた調理法が名前に表れているのがおもしろいですよね。こうも細かく呼び名が生まれたのは、素材をいかして美味しくいただくことを大切にしているからなんだと思います」
それだけ昔から、煮物料理がとても身近なものであったことを物語っているようですね。「煮しめ」「煮つけ」以外の種類もしっかり覚えておきたいなと思いました!
構成/kufura編集部
料理研究家。(株)Clocca代表取締役 cooking Clocca代表
土井勝料理学校をはじめ各地の料理教室講師のほか、「ZIP!MOCO’Sキッチン」(放送終了)「有吉ゼミ」などTV・出版物等のフードコーディネートや、料理、レシピ制作などで幅広く活躍。
Instagram(@cooking_clocca)では、日々のお料理や季節の和菓子といったレシピを中心に、オススメの調理器具やロケ先で出合った食材などを発信中。