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「もう着ない服」が子どもたちのポリオワクチンに!洋服の新たな活用法「古着deワクチン」体験レポ

年末が近づき、家の中の大掃除を進めている人も多いと思います。不要になった衣類が大量に出たとき、皆さんはどうしていますか?

多くの人は、ゴミに捨てたり、リサイクルショップに売ったり……。その一方で、不要となった衣類を手放しつつ、かつ誰かの役に立てる“新たな選択肢”として「古着deワクチン」という試みが話題になっています。実際に体験した様子をレポートします。

3,300円を払って古着を活かす!有料でも利用者が増える理由

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袋が大きいので、“着ない服”がたくさんあっても……
すっぽり収まります! 詰めたら、あとは送るだけ。

「古着deワクチン」は、ざっくり説明すると、不要となった衣類を送ることで開発途上国の子どもたちにポリオワクチンを贈ることができるという仕組み。ですが、従来のような寄付とはちょっと異なります。

まず大きく異なるのは、利用者自身が、衣類を回収する専用キットを3,300円(税込)で購入するという点。従来の寄付であれば基本お金はかかりませんし、リサイクルショップで売るのであれば、無料どころかお金をもらうこともできる。

にもかかわらず、有料の「古着deワクチン」の利用者は毎年、右肩上がりなんだそう。一体なぜ、そこまで支持されているのでしょうか?

専用キット1つで、5人+αにポリオワクチンが届く

そこで、古着deワクチンを運営する、『日本リユースシステム株式会社』の辻本真子さんにその理由をうかがいました。

「古着deワクチンは2010年に誕生し、今年で13年目になりますが、

『お客様自身が3,300円で専用の回収キットを購入し、同封されている専用の衣類回収袋に不要になった衣類を入れ、発送していただく』

という仕組みは、当時から変わっていません。

回収キットが1つ購入されるごとに、5人分のポリオワクチンを寄付することができます。また、回収された衣類はカンボジアなどの直営店で販売され、そこで1枚売れるごとに、さらにポリオワクチン1人分が寄付される仕組みとなっています」(以下「」内、辻本さん)

カンボジアにオープンした直営店「Japan Newsed & Outlet Center 仁義」
各国に輸出するための仕分け拠点でありつつ、店舗として販売も行っています。

回収された衣類が輸出される先は、主にカンボジアを中心とした世界30カ国。その衣類をそのまま寄付するのではなく、現地で“販売”しているのが「古着deワクチン」の大きな特徴で、カンボジアには衣類を販売するための直営店もオープンしています。

なお、この直営店で働くスタッフは、ポリオの後遺症がある方や貧困地区で育った若者たち。彼ら・彼女らの自立を支援することができるのも、「古着deワクチン」の特徴の1つです。

「お支払いいただいた3,300円は、ワクチン代のほか、輸出費用や現地スタッフの給料などに充てられます。

弊社は、この事業を長く継続していくためにも株式会社の形をとっており、“ポリオワクチンを受ける子どもたち”、“現地・国内で働く(その多くがさまざまな困難を持った)スタッフ”、そして“参加してくださるお客様”、それぞれにとって無理がないようなビジネスモデルを目指しています」

働くスタッフは、ポリオによる後遺症や障がいのある人が中心。支援を受けていた側が支援する側に回れるようサポートしている。

「もう着ない服」を有効活用!家も綺麗になって、心もスッキリ

創業当初は、“お金を払って寄付をする”という概念がまだまだ一般的ではなかったそう。

しかし近年のSDGsの実現に向けた社会的な流れを受け、古着deワクチンの仕組みや、その理念に共感する人も増加。そして2019年には「ジャパンSDGsアワード」特別賞も受賞しました。

「最近では、女性のお客さまはもちろん、男性の利用や企業単位での利用なども増えています。

ただ衣類を手放したいだけなら、燃えるゴミに出すこともできますし、リサイクルショップやアプリで売ることもできます。

でも、一口に不要な衣類といってもいろいろな想い入れがあり、なかなか手放せないこともありますよね。そういった衣類をリサイクルショップに持っていっても、“100円”と言われてなんだか悲しい気持ちになったり……。

その代わりの、“衣類を手放す新しい選択肢”として、古着deワクチンがあります。活動に参加することで、想い入れのある衣類が世界で活かされ、ポリオワクチンの寄付や、自立支援に繋がる。そんな“お部屋と心がスッキリ!”するという主旨にご賛同いただけているからこそ、お金を払ってでも参加したい、という方が増えているんだと思います」

回収された衣類はていねいに選別され、各国へ輸出されます。衣類と一緒に、スタッフに向けた手紙が入っていることも珍しくありません。

ちなみに現在、古着deワクチンのユーザーは、1カ月あたりのべ2万人ほど。その中の8割は、複数回利用している“リピーター”だというから驚きです。

千葉県にある選別センターには1日平均800袋もの衣類が届きますが、辻本さん曰く「届く衣類のうち、破棄するものはほとんどない」んだそう。

「お金を払って参加していただいているということもあり、“捨てずに活かしてほしい”という想いのこもった、状態のいい衣類を送ってくださることが多いです。

有り難いことに、到着する衣服はほぼ全部キレイに畳んであるし、クリーニング済みのものも珍しくありません(もちろん、そこまでしていただかず、ポンポン袋に入れていただいてもまったく問題ございません!)。

輸出された衣類は、現地でも大変人気があり、販売店では赤ちゃん服からカバンや靴まで、日々ありとあらゆるものが売れていきます」

なお、古着deワクチンに送ることができるものは、“次に誰かが着るor使うことができる”衣類や帽子、カバン、靴など。そのため、肌に直接触れる下着類やパジャマなどを送ることはできません。詳細は古着deワクチンの公式サイトをご確認ください。

実際に、着ない服を「古着deワクチン」で手放してみました

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注文後、回収専用キットが届く目安は通常2~3営業日ほどだそう。筆者は注文した翌日に届きました。

さっそく、筆者・タカヤマも不要になった衣類を送ってみることにしました。まずは古着deワクチンの公式サイト内にある「購入ページ」にアクセスをして、税込み3,300円の「【通常版】古着deワクチン専用回収キット」を購入。

こちらは目安として薄手の衣類が約120枚入るそうですが、そこまで不用品がない場合は税込み2,500円の「【ミニ版】古着deワクチン専用回収キット」もあります。

捨てられずに眠っていた子ども服。

家のクローゼットの奥から取り出したのは、着れなくなった子ども服。もう大きくなってとっくの昔にサイズアウトしていましたが、捨てるのも忍びなくてなんとなく保管したままでした。

この方法なら手放すのに悔いなし!ということで、回収袋にポンポンと収納! 数えながら入れたところ、これだけで73枚もありました。

もう袋の容量は限界……。一杯になると重くなるので、玄関の近くで詰めるのがおすすめだそうです。

それからいよいよ大人ものに着手。出産と加齢によって順調に体重が増加していたにもかかわらず、「痩せたら着よう」と思って保管していたスーツやパーティドレスなどを、思い切って手放すことにしました。

もうあの頃のように痩せる日はおそらくこない。この先痩せるとしたら、ダイエットよりも病気を心配すべき年齢に突入している……という現実を、ようやく受け入れることができたような気がします。

さらに、私同様に年齢を重ねるごとに太っていく夫の服も、本人の同意のもと手放すことに。

正直、はちきれそうなほど詰めましたが、袋は頑丈でビクともせず。

この時点で115枚、袋もパンパンになりました。正直、その気になればまだまだ入れることができそうな衣類はありましたが、容量的にもう限界。

ようやくガムテープで梱包し、回収専用キットに同封されていた「専用回収キット集荷方法のご案内」通りに手続き。伝票の手配や記入も不要で、あっという間に集荷されていきました。

あれだけあった洋服がぐっと減って、クローゼットやタンスが見違えるほど身軽に!

これによってポリオワクチンが寄付されて、助かる命があるかもしれない。そう考えると、とてもすがすがしい気持ちになりました。

ちなみにポリオは、日本ではワクチンによって根絶されていますが、現在でも南西アジアやアフリカ等では大きな脅威となっている病気。古着deワクチンでは、これまでの活動で、なんと約586万人分(!)のポリオワクチンを寄付することができたそうです。

ポリオワクチンは、医療従事者ではなくても与えやすい生ワクチンが寄付されています。

大掃除シーズン、不要となった服をどう手放すか? その一つの選択肢としてぜひ古着deワクチンも加えてみてください。きっと“お部屋も心もスッキリ”しますよ!


 

【教えてくれた人】

辻本 真子(つじもと まこ)

日本リユースシステム株式会社 ゼネラルマネージャー。

「モノを捨てずに活かす過程で救える命がある」ことをモットーに、古着deワクチンの運営責任者として海外(主に開発途上国)と日本を行き来しながら活動を行う。また、広報や講演を通しての普及活動にも取り組んでいる。

好きなものは、犬と音楽とお寿司。

高山恵
高山恵

東京都出身、千葉県在住。短大の春休みより某編集部のライター見習いになり、気が付いたら2022年にフリーライター歴25年を迎えていた。現在は雑誌『DIME』(小学館)、『LDK』(晋遊舎)などで取材・執筆を行うほか、『kufura』などWEB媒体にも携わる。

執筆ジャンルは、アウトドアや子育てなどさまざま。フードコーディネーターの資格も持つ。

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