(1)『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』河合隼雄・村上春樹/岩波書店(1998年)
null小説家の村上春樹さんと心理学者の故・河合隼雄さん(2007年没)の豪華な対談本です。
夫婦関係に関する章では「愛し合っているふたりが結婚したら幸福になるという、そんなばかな話はない」と河合さんが直言するところから、2人の対談がどんどん深まっていきます。
対談の中で、夫婦関係は苦しさを伴う“井戸掘り”のようなものという点で2人の見解が一致します。苦しいけど“おもろい”。井戸掘りを拒否して、別の人と一緒になっても、結局、井戸掘りからは逃げられない……という指摘は身につまされます。
私たち日本人は、さまざまデータに基づいて「欧米の夫婦に比べて日本の夫婦はここがダメ」という情報で自信を失いやすいのですが、欧米の“ロマンチック・ラブ”の上澄みだけを見ているがゆえに、夫婦関係の悩みが増えているという1990年代の指摘は示唆に満ちています。
結局、どんな関係においても、“いいとこどり”は難しい。コントロール不能な相手から世界を広げていこう。そんな提言にも聞こえます。
(2)『岸辺のアルバム』山田太一/光文社文庫(2006年)
null同著は、1970年代に新聞で連載され、1980年代にドラマ化されて大きな反響を巻き起こした小説です。
物語の主要な登場人物は、互いを理解するための“井戸掘り”をやめてしまった夫婦と、2人の子ども。
夫は“企業戦士”として勤めることが父親の役目だと考え、家庭からは目を背けています。かたや、子どもが巣立ちの時期を迎えた専業主婦の妻は、えも言われぬ空虚感を持て余す日々を送り、2人の子どももそれぞれ親に言えない悩みを抱えています。
同じ家に暮らす4人が家庭を起点に見えている景色は全く異なっているのですが、息子以外、その事実を見て見ぬふりをして日常を過ごしています。物語の後半、家族の痛みを突きつけられ思考停止状態に陥った夫の心の声と、『岸辺のアルバム』というタイトルの意味を知ったとき、胸をえぐられたような気持ちになります。
読後は、家族とは何か、夫婦とは何かといった正解のないテーマで誰かとダラダラと話し合いたくなります。
小説で心理描写をじっくりと楽しんだ後は、配信プラットフォーム『Paravi』で配信中のドラマ版を視聴するのもいいかもしれません。
(3)『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』ジャンシー・ダン著・村井理子訳/太田出版(2017年)
nullこの本、ものすごく扇動的なタイトルですよね。「この本、読んでみて」と夫に手渡したら、後ずさりしてしまいそう。でも、決して“夫ヘイト”の本ではありません。
読後感としては、実践的なメソッドを学べて、ホロっと泣けるヒューマン・ノンフィクションといった感じです。
仲がよかった著者のジャンシー・ダンと彼女の夫の関係は、子どもが生まれてから激変。彼女が子どもの幸せのために奔走すればするほど、夫は自分の殻に閉じこもり、激しい口論で子どもをこわばらせるような関係に陥ってしまいます。
壊れかけた夫婦関係を再生すべく、著者はカップル・セラピスト、FBI(連邦捜査局)の人質解放交渉人、ファインナンシャル・セラピストなど、多方面のエキスパートに話を聞き、入手したメソッドを家庭内で実践していきます。
「言ってくれればよかったのに」
「言わなくてもわかってくれると思ってた」
こうしたすれちがいの積み重ねで、こじれにこじれた関係が1つ1つ解きほぐされていく様子に思わず涙腺を刺激される場面も……。
1日1章ずつ、夫婦で交換日記のように読んでみては?
今回は晩秋の夜に夫婦でシェアしたい3冊の本をご紹介しました。
夫婦関係を指南する記事の内容は、“こうあるべき”と急き立てるような記事や、憎しみに突き動かされた夫婦のドラマティックな顛末などが目立ちます。
代り映えのない日常とどう向き合っていくかという問いのヒントを探すべく、1冊の本と夫婦の対話を通じて、“私たちの正解”をじっくりと掘り下げてみてはいかがでしょうか。
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