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保育園に預ける朝、泣きすがる我が子を見るのが辛い…どうすれば納得してくれる?【井桁容子先生に聞く 保育園との付き合い方】#6

保育園に預けるうえで辛いことといえば、“子どもに泣かれること”ではないでしょうか。しがみつく我が子を先生になんとか引き渡したものの、泣き止むのを待てず仕事に行かなければならないことも……。

そんな保育園との付き合い方を、保育士歴42年・乳幼児教育実践研究家の井桁容子さんに聞く本連載。前回(「保育園に預けるってかわいそう!? 仕事と育児の両立のために」)は、子どもを預ける罪悪感を拭うには、子どもの思いに共感して徹底的に向き合う時間を作る、と教わりました。それでも涙、涙の切ない朝を乗り切るには、どうすればいいのでしょうか?

Q.保育園に行きたがらず、朝からずーっと泣きっぱなし。このままでいいのか心配です。

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A.子どもが不安そうにしていたり、お父さん・お母さんと一緒にいたがる時は、潔く休暇を取ることも考えてみてください。

「私が保育士をしていた時にも経験したのですが、子どもがどうしても泣き止まない時があるんですよね。そういう日は、“今日は休暇取れませんか?”と聞いていました。そうすると、もちろんお仕事によっては無理という方もいましたが、“もしかして、なんとかなるかもしれない”という保護者の方もいました。

上の子は泣かないで大丈夫ならお預かりして、下の子はお母さん(お父さん)と公園や遊園地に遊びに行く。

仕事を休んで全部を自分に費やしてくれた!という体験をすると、子どもに余裕が生まれます。だから、“ごめん! 今日はどうしても休めないの”という効き目が出てくるんですよ。思いきって休んであげることは、実はすごく大事なことです!」

筆者自身、保育園に通い始めたころは、子どもを預けて仕事をするからには休まず頑張らなくちゃ!と意気込んでいたので、泣こうがわめこうが無理やり抱っこして連れて行っていました。そのまま保育園の先生にパスしたことも幾度となくあったけれど、振り返れば半日くらいなら休める日はあったかも……。

「泣けば仕事を休んでくれる」という体験をさせたら、毎日求めてくるのでは?

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「私が勤めていた保育園のお母さん達にも同じことを言われました(笑い)。“お仕事休めそうなら、休んでください”と言うと、“ずーっと欲しがりませんか?”と心配するんです。

保育園を休んだ翌朝、預ける時に一瞬泣いたとしても“昨日はお仕事の人にお話しして、〇〇ちゃんと一緒にいることを許してもらったけど、今日は無理なんだ”とちゃんと話す。

もしくは、“今日はお昼までは仕事をするから、その後一緒に過ごそう”とか。そういう譲り方をメリハリをつけてやっていくと、子どもは、大丈夫な日と大丈夫じゃない日があるということがわかるので、もっと、もっと!と欲張りにはなりません。

 子どもというのを勘違いしている大人がたくさんいると思うのですが、人間の子どもはそんなに欲張りではなく、自分の気持ちを分かってくれたら、相手の気持ちも分かろうとするものなんですよ。

“不安になっている時に安心したい”。それが子どもがいちばん求めていることなので、安心できれば“もう大丈夫”と言える人たちなんです

休暇を嬉しいサプライズにして豊かな経験を与えることもできる!

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「急に仕事を休まなくてもいいやり方もありますよ。前もってお休みが取れた時に子どもには仕事があるフリをしておいて、泣いてしまう朝になって“今日はやっぱり〇〇ちゃんと遊ぼうかな”と言ってあげる。

騙すということではなく、いい意味で大人の知恵を使って、わくわくした体験をさせてあげる、ということです。

生きることには波があって平坦なものではないですよね。怒っちゃうときもあれば、笑っちゃうときも、突然の嬉しい出来事も起こるのが人生です。いつも同じこと=必ず保育園に行く、ということをしないと子どもがダメになってしまうと思い込むのは、子どもを知らないからなんです。

私は長い間子どもを見てきましたが、決して子ども達はそんなことでダメにはなりません。むしろ柔軟に物事を受け止める力が育っていきます。それこそが、21世紀に求められる人材です」

涙を流すこともある保育園生活も、平坦ではない人生を親子で歩んでいるからこそ!と深く考えされられました。連載の最後に、保育園に子どもを預ける親に向けて、こんなお話もしてくれました。

「親が子どもを愛するのは当たり前。親以外の人で親身になってくれる人に出会えることは、子どもにとって幸せなことなのです。

家族以外の人とどれだけ気持ちよく楽しく豊かに関わりあえるかが、これから生きていく上ですごく大事なことなのです。ほかの人との出会いを楽しみ、社会への確かな信頼につながるからです」

子どもの豊かな人生の土台作りとして、保育園に預けることは、親の関わり方次第ではとても価値のあることなんですね。育児も仕事も両立して、子どもを通して親も成長したいと思ったとき、井桁さんのお話は優しく心に響くものばかりでした。


 

【取材協力】  

井桁容子(いげた ようこ)

 20183月まで保育士として東京家政大学ナースリールムに42年間勤務。現在は、乳幼児教育実践研究家として、全国での講演のほか、『すくすく子育て』(NHKEテレ)への出演、『いないいないばあっ!』(NHKEテレ)の監修も行う。また、20186月に立ち上げた“子供から学び、豊かに生きる”をテーマにした非営利団体『コドモノミカタ』の代表理事を勤めワークショップを開催するなど、保育士からステージを移した後も精力的に活動している。小中学生が職業を学ぶために出版された各ジャンルのスペシャリストが集う『個性ハッケン! 50人が語る長所・短所』(ポプラ社)に、元保育士として登場。

撮影(井桁さんインタビューカット)/黒石あみ(小学館)

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