Q.子どもと過ごせる時間が短いので、寂しい思いをさせているのでは……と罪悪感を持ってしまいます。
nullA.仕事を“やる”と決めたときはネガティブな罪悪感を持たずに、短時間でも子どもにとことん向き合う場面を作りましょう。
「仕事をするということは、お母さんなりの社会的な使命を果たすとか、自分の夢を叶えるとか、ひとりの女性としての生き方なので、“やる”と決めたときは罪悪感を持たない方がいいんです。
とはいっても子どもに対して、つい罪悪感を持ってしまうものですよね。持ってしまうけど、でも、それをネガティブな方向で持たないことです。
“今日はちゃんと話を聞いてあげられなかった”とか、“お迎えから寝かしつけまでパパだったから顔を合わせられなかった”なんて時は、その分をどこかでしっかり埋め合わせしましょう。
10分でも15分でもいいから、仕事や家事のことは考えず子どもと過ごす。上の空で1時間一緒にいてもダメなんです。不誠実さが子どもには伝わってしまうのです。
本当は10分や15分、仕事のことをすっかり忘れても大きなリスクはないはずです。頭を徹底的に空っぽにして誠実に子どもと接すると、意外なことに“お母さん、もういいよ”とか“お仕事行かなくてもいいの?”というように、子どもの方が反対に心配してくれたりするものなんです。言葉を巧みに使えない分、大人の行動や表情をよく見ているからだと思います。
私自身が子育てをしていた時も、預け先まで子どもの足だと20分以上かかってしまうところだったのですが、土曜日の朝だけは子どものペースで歩いて行くと決めていました。もし遅刻しそうになっても、それは子どもとの大事な時間なので“遅刻します”と言える勇気を持とう!と思って子どもに付き合うことをしたら、意外にも子育て時代を振り返った時に、一番先にいい時間だったとよみがえってくる時間になりました。そして、子どもたちは私が仕事に行くことに対して協力的だったんですよ」
登園スタイルは、大人都合ではなく子どもの気持ちに寄り添って
null道端の草花や虫を眺めながら、子どもとあれこれ会話してのんびり歩くって、理想的ですよね。そんな光景を目指してゆったりした朝の時間づくりに努力しても、筆者の息子は“自転車で行って、いちばん早く着きたい!”とつれない態度です……。
「それはね、お子さんがゆっくり散歩しながら行くことを求めていないということなので、やらなくてもいいんです。大人も子どもも色々なタイプがいるので、お子さんの“早く着きたい!”という気持ちを優先して協力してあげてください。自転車で風を切ることが好きなのかもしれませんね。大人の理想を押し付けるのではなく、お子さんのありのままの気持ちに応えることが、“共感する”ということです。
子どもの思いというのはね、そんなふうに親の思いとすごくズレがあるものです。子どもにとっていちばん大事なのは、お父さん、お母さんが自分の気持ちをわかってくれると感じられること。
“こんな親でありたい”、“こんな子どもであってほしい”という型に子どもをあてはめるのではなく、子どもの心に合ったものを用意するオーダーメイドがいいのです。誰とも比べられない自分だけに合ったもの。それが、子どもが“愛されている!”と思える育児です」
登園の仕方ひとつとっても、子どもによって親にして欲しいことは違うものなんですね。お父さん、お母さんとの時間を楽しみながらゆっくり行きたい子もいれば、いちばんに着いて早く遊びたい子もいる……。
一緒に過ごす時間は短くても、我が子が求めていることに応える育児に自信が持てれば、保育園に預けることにも後ろめたさを感じず過ごすことができそうです。
次回は、それでもどうしても子どもが泣いてしまう時について聞きました。泣かれてしまって、後ろ髪を引かれる思いで仕事に向かうのは、親もつらいですよね。そんな時の対処法は?
【取材協力】
井桁容子(いげた ようこ)
2018年3月まで保育士として東京家政大学ナースリールムに42年間勤務。現在は、乳幼児教育実践研究家として、全国での講演のほか、『すくすく子育て』(NHK、Eテレ)への出演、『いないいないばあっ!』(NHK、Eテレ)の監修も行う。また、2018年6月に立ち上げた“子供から学び、豊かに生きる”をテーマにした非営利団体『コドモノミカタ』の代表理事を勤めワークショップを開催するなど、保育士からステージを移した後も精力的に活動している。小中学生が職業を学ぶために出版された各ジャンルのスペシャリストが集う『個性ハッケン! 50人が語る長所・短所』(ポプラ社)に、元保育士として登場。