「歌」や「楽器」が好きな子に絵本を選ぶなら
nullこんにちは、絵本ナビの磯崎です。今回ご紹介するのは、「歌」や「楽器」を扱った本。楽譜がついていて、歌いながら読み聞かせられる本から、“音楽と初めて出合うねずみ”の物語まで、内容はさまざまです。
人間、ちょっとイヤなことや大変なことでも、歌や音楽の力で楽しく乗り越えられることってありますよね。大好きな曲の話で盛り上がったり、一緒に演奏するなかで心を通わせたりした経験がある人も多いと思います。
音楽の持つそんな力を、絵本を通して感じ取ってもらえたら、きっと「歌」や「楽器」がもっと好きになるのではないでしょうか。
音楽に限らずですが、“好きなこと”の価値って、それが何かに繋がるかどうか……だけじゃない、と感じます。たとえ下手でも、明確な目的がなくても、それをしていて楽しい!嬉しい!という気持ちはきっと、未来の自分を支えてくれるはず。
今、好きなことがハッキリある子は、それを大切に育ててほしい。そうでない子でも、例えば“納豆ごはんの納豆とごはんのベストなバランス”とか、そういった小さなこだわりの1つひとつを、ぜひ大事にしていってもらえたらな、と思います。
【分類の見かた】
●入門編:もともと「歌」「楽器」が好きな子はもちろん、はじめの1冊としても楽しめる絵本(目安/1歳~)
●発見編:「歌」「楽器」が好き!という子が、どんどん読み進めるのにぴったりな絵本(目安/3歳~)
●探求編:ちょっとディープで、なぜ「歌」を歌うの?世界にはどんな「楽器」があるの?など、さらに興味が広がるような絵本(目安/5歳~)
【入門編】~新しい「好き」の入り口に~
null●愛嬌のある、ころんとしたぶたさんが愛おしい
『パンツの はきかた』
パンツを履くって、大人は自然とできることですが、子どもは何でも一步一步、試行錯誤しながら身につけていくんですよね。この本を読むと、そんなことに気づかされます。
頭ごなしに「ちゃんと履きなさい」って言われるのではなく、この絵本で、可愛い歌と絵を通してそれぞれの動作を覚えられる子は、きっと幸せだろうなと思います。
“しつけ”というと少し堅苦しいけれど、覚えなくてはいけないことを歌にすることで、(子どもも、そして親も!)楽しく乗り越えられるのが、この絵本の醍醐味。最後の「あー裏返し」っていうオチも可愛く、きっと何度も読みたくなりますよ。
●音を重ねる楽しさが、ぎゅっと詰まった1冊!
『たいこ』
この本に登場するセリフは、「なかまに いれて」「いいよ」と、中盤で出てくる「うるさいぞー」の3つだけ。
ほとんど言葉を交わさなくても、一緒にたいこを叩くなかで、音を重ねて気持ちを重ねて、心が通じ合う……。小さい頃に一度でもこんな体験ができたら、その後の音楽との関わりかたが、きっと丸っきり変わるのでは。
あかちゃんでも楽しめるシンプルな絵本にもかかわらず、ここまで上手に心の動きを描ききる手腕は、著者の樋勝(ひかつ)さんの持ち味の1つ。最後には盛り上がりすぎて、たいこを叩くのも忘れて「ガオー ガオー ガオー ワァー!」と歌い始めちゃいます。これぞ、音楽の力!ですね。
【発見編】~もっと「好き」を楽しもう!~
null●歌の力で気持ちをチェンジ
『ねこのピート だいすきなしろいくつ』
こちらも『パンツの はきかた』同様、巻末に楽譜がついた絵本。アメリカ発の翻訳絵本ですが、訳文がとってもリズミカルで楽しくて、毎回出てくる「かなり さいこう!」という一言も効いています。
まだ意味が分からなかったとしても、読んでいるだけで気分が上がる! そんな絵本です。
ピートが大好きな靴に、思いもよらないことが次々と起こっていく展開は、子どもにとって共感できる部分が多いはず。実際、彼らの毎日って思いもよらないことの連続で、しかも次に起こることを予測できない。だからこそ、気持ちが切り替えられず、泣き続けてしまう……なんてこともよくあるんです。
そんなふうに子どもにとっては難しい気持ちの切り替えを、歌の力を借りて楽しく乗り越えていけるのは、この本ならではだと思います。
●音楽を知らないねずみが、音楽家になる物語
『おんがくねずみ ジェラルディン』
主人公のジェラルディンは、「音楽」に触れたことがありません。でもある時、チーズの固まりのなかから表れた“チーズのねずみ”がフルートを奏で始め、音楽の魅力を知ります。そして最後には、ジェラルディン自身が音楽を奏で、その喜びを届けられるようになり……という、ちょっと哲学的な絵本です。
でも考えてみると、生まれてくる時ってまだ誰1人、(胎内で聞いている、というのを別にすれば)音楽を知らないし、奏でられませんよね。
そこから、成長の過程で誰かが奏でた音を受け取り、そして自分が表現者になっていく。目には見えない、世代を超えて続いていく音楽のバトンそのものを、この本は描いているように感じます。
【探求編】~「好き」が導く!未知の世界~
null●ぼくのうたは、誰かの役に立つの?
『アマガエルのうた』
歌が好きで、みんなに歌ってあげたいと思っているアマガエル。でも、「必要ない」「何の役にも立たない」って言われてしまう。
「ぼくの歌なんて、誰も求めていないんじゃないか」と悩み、旅に出た先で、いろいろな出会いを経験し、自分の歌を認めてくれる人(正確には人でなくクジラ)に出会います。そして、アマガエルが森に戻ると……?
好きなことを続けていくのは容易ではないけれど、誰かのために続けていけば、きっといつかはむくわれる日が来るんじゃないか。そんな風に思わせてくれるストーリーです。
●音楽の奥深さを実感!新登場の「音楽図鑑」
『小学館の図鑑NEO 音楽』
11月下旬に発売したばかりの、新しい図鑑。その名もズバリ「音楽」!
「音楽の歴史」「世界の音楽」「世界の楽器」の3部に分かれていて、特に「世界の楽器」は図鑑全体の半分、約100ページを占める充実ぶり。世界各国の楽器が、構造の似たもの同士でまとめられ、豊富な写真とともに紹介されています。
これとこれ、全然違う国の楽器なのに、なんだか似ている!なんていう発見も。日本古来の音楽や、世界の国々にも関心が広がります。
さらに、ドラえもんが案内する70分のDVDと、QRコードから聞ける合計300分以上の音源・動画という、圧倒的な情報量! 普段聞いている音楽は、多様な音楽のほんの一部分でしかないんだな、と思い知らされますよ。
なにかにつけ、“わかりやすいもの”=“いいもの”と考えがちな私たち。でもこの図鑑には、全く知らなかった楽器から、耳馴染みのないメロディーまで、音楽が持つ膨大な可能性が詰まっています。さらに、ここに収録されていない音楽も無限にあって……なんだか、気が遠くなっちゃいます(笑)。
掘れば掘るほど奥深い「音楽」の世界。時に寄り添い、時に鼓舞してくれる、かけがえのない存在ですね。お子さんがこれから出合う「歌」や「楽器」も、きっと心強い味方になってくれますよ。
次回は「おしゃれ」や「可愛いもの」が好きな子にぴったりの絵本をご紹介します。
撮影/横田紋子(小学館)
構成/苗代みほ、kufura編集部