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「会えない」今だからこそ響く!「漂流郵便局」に届いた母への手紙、母からの手紙

「漂流郵便局」を知っていますか? 瀬戸内海の小さな島に設けられた「届け先のわからない手紙を受け付け、預かる郵便局」です。もともとは数週間のアートプロジェクトだったにも関わらず、島の人たちの協力により今なお存続中。開局7年目の今、預かる手紙は、なんと4万通を超えています。

毎日のようにたくさんの手紙が届きますが、実は初めての1通は「お母さん」宛てだったそう。
今年の母の日は例年と違い、実際お母さんに会えない人も多いですよね。そんな時だからこそ読みたい「お母さんへの手紙」「お母さんからの手紙」を、この漂流郵便局を長く取材している、ライター・田中美保さんに紹介してもらいました。

この世でいちばん、素直になれない相手。それは……お母さんではないでしょうか

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昨夜、ほうれん草やレタスほか、魚や肉など生ものを大量に送ってきた田舎の母親に対して「なんで突然、冷蔵庫に入りきらない量を送ってくるの! 日持ちしないし、量が多すぎて食べきれない! 送るなら送るで、事前に連絡してよ!」と、思わずブチ切れ電話をして、切った直後「ちょっと言いすぎたな…」と反省。

野菜や肉をひとつひとつラップに包みながら「コロナ自粛で、買い物に行けないと思って送ってきてくれたんだよなぁ……」と涙していたら、段ボールの一番底に封筒が。中にはなんとマスクが10枚入っていました。「お母さんだって必要なのに、なけなしのマスクを送ってくれたんだ……」と深夜に号泣。

「ありがとう」「ごめんなさい」「元気でね」「大好きだよ」 たったひと言なのに、面と向かっては言えない。「うるさいな、ほっといて!」「もう子供じゃないんだから!」 会えば必ず喧嘩して、後からちょっと後悔する。なぜ、お母さんにだけは、なかなか素直になれないんだろう……。

今年は母の日に手紙を書いてみませんか。たったひと言でいいから、素直な気持ちを。

コロナ自粛が続く今、実家に帰れない人も多いと思います。今年は、母の日に手紙を書いてみませんか。たったひと言でいいから、素直な気持ちをはがきに託して。

そんな気持ちになる1冊があります。『漂流郵便局―お母さんへ―』。瀬戸内海に浮かぶ小さな島、粟島にある漂流郵便局は、2013年の瀬戸内国際芸術祭の出展作品として、島内の古い郵便局舎を蘇らせたアートプロジェクトでした。

「届け先のわからない手紙を受け付け、預かる郵便局」というコンセプトが話題を呼んで、数々のテレビ番組でも取り上げられ、数週間のアートプロジェクトだったにも関わらず、島の人たちの協力により今なお存続。開局7年目の今、預かる手紙は、なんと4万通を超えています。

天国へ行ってしまった愛する人へ、未来の自分へ、大好きだった愛犬へ、忘れられない初恋の人へ、宇宙人へ、過去の私へ……。漂流郵便局には、そんな「届け先のわからない」たくさんの手紙が今なお、日々届き続けています。

その漂流郵便局に届いた初めての一通は「お母さん」宛でした。

母への手紙、母からの手紙に込められた想い……

『漂流郵便局―お母さんへ―』には、漂流郵便局に寄せられた、お母さんに宛てた手紙、お母さんからの手紙、あわせて89通が紹介されています。もうすでにこの世にいない母へ宛てた感謝の気持ち、介護をしながらイライラをぶつけてしまった反省、反抗し続けた自分への後悔、母の元を離れて初めて気づいた母の優しさ、天国へ旅立った息子や娘に宛てた母の想い……。

女手ひとつで育ててくれた、今は亡き母への手紙

神奈川県に住む伊佐子さんは、テレビ番組で漂流郵便局の存在を知りました。「母が亡くなって32年も経っていますが、一日たりとも母のことを忘れたことはありません。こんな場所があるんだ! 母に伝えたいことがいっぱいある!」とすぐにお母さん宛にはがきを書いたそうです。

伊佐子さんが1歳半のとき、お父さまが交通事故で亡くなり、以来、お母さまは女手ひとつで伊佐子さんを育てられたそう。

「父が亡くなったとき、母はまだ25歳。新婚で小さい子どもを抱えて、どんなにか不安だったでしょう。でも、母は私に、そんな気配をまったく見せなかった。なんの苦労もせず、学校にいかせてもらいました。寂しさや甘えもあって、しょっちゅうわがまま言ってケンカもしました。母は、朝から晩まで働いていたのというのに……」

母ひとり、子ひとり。お母さんの愛情や苦労を誰よりもわかっていながら、素直に感謝の言葉を伝えられなかった、という伊佐子さん。 「私も社会人になって、やっと、これからは母自身の人生を謳歌してほしい。そう思っていた矢先、母は48歳という若さで亡くなりました。がんでした。まさかこんなに早く天国に行ってしまうとは……。ずっと、面と向かって“ありがとう”と伝えられなかったことが引っかかっていたんです。漂流郵便局という受け取り先があってよかった。手紙を書きながら、母の偉大さにあらためて気づき、涙がとまりませんでした。素直に心の底から“ありがとう”を伝えることができたように思います」

伊佐子さん自身、お母さんの想いや苦労を我が身のこととして実感したのは、自分がふたりの娘の親になってからだったそう。

「いつか、娘や孫たちと粟島を訪れてみたいと思っています。でもね、“お母さん、ありがとう”ってちょっとでも思ったら、電話でもなんでもいい。すぐに伝えるべきです。人生、何が起きるかわかりません。伝えたいときに相手が必ずいる、とは限らないんですから」

そう。伝えたいと思ったときが、伝えどき。

そして、お母さんへ何を書こうか迷う人はぜひ、この本を読んでみてほしいです。

文/田中美保 写真/『漂流郵便局 お母さんへ』より


 

届け先のわからない手紙、預かります

『漂流郵便局 お母さんへ』

著/久保田沙耶 (1,200円・税別 小学館)

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