受講者は延べ6万人という話題の講座に、小学3年&1年生の息子の子育てをしている筆者も参加してきました。
前回お伝えした育児のヒントは
●自分自身の性格を知って、子育てにどんな風に影響しているか振り返る
●他人の感情や行動をコントロールすることはできない。子どもの行動をコントロールできるのは、5歳がピーク
●他人の不機嫌に振り回されない、余裕のある自分を意識する
思い通りに行かない育児のもどかしさの理由はここあったんだ!と深~く納得したのでした。
さて、今回は、我が子といってもコントロール不可能な他人を相手に、どんなコミュニケーションの取り方をすればいいのか、山崎さんが紹介してくれた具体的な子育てエピソードとともにお伝えします!
子どもにダメ出しを連発してない?親子関係がうまくいくコミュニケーション法は超シンプル!
null【親子の気持ちがすれ違うありがちシーン】
ファミレスで順番待ちの時、子どもがレジ横のおもちゃを持ってきて……
子ども:「お母さん、これ見て! 可愛い~!」
母:「同じようなの持ってるよね?」「どうせちゃんと片づけないでしょ」「この間も買ったじゃん」「どうせすぐ飽きるんだから置いてきなさい!!」
子ども:「別に欲しくないし。欲しいなんて言ってませんけど!」
これは、山崎さんが実際に友達親子とファミレスに行った際に遭遇したシーン。写真のホワイトボードで解説しているように、お母さんは子どもの【行動】だけを見て “正しさ”を次々と突き付けてコントロールしようとしている状態です。
子どもの【感情】は見ていません。
この時のOKパターンは「ホントだ、可愛いね~!」と言えばいいだけ!
山崎さんが講座のベースにしているコーチングでいうと【傾聴=心から聴く】というスキルにあたります。確かに、この時の子どもが言い返したセリフからも、子どもは、自分の【感情】に気づいてほしかったということがわかりますね。
他にも、親子の気持ちがすれ違うシーンがずらり。あぁ……、
全部ダメなパターンで体験済みです。
・子どもが「疲れた~!」と家に帰ってきたら、「いいから、手、洗って来なさい!」ではなく、「疲れたね~」と言ってあげる。
・「このお菓子食べていい?」と聞かれ時、嫌そうな顔をしながら「いいよ~」というくらいなら、「ダメ」とはっきりいった方がいい。いい時は、「どうぞ!」と言って気持ちよく食べさせてあげる。
・習い事を嫌がる子どもに、「嫌だったら辞める!?」と怒りながら子どもに聞くのは、「もう少し頑張る」と言わせる脅し。辞めさせる気がなかったら聞かない!
どのパターンにも共通することは、子どもの【行動】や【感情】を言葉と態度で肯定すること。特に、【感情】を肯定してもらえると、人は嬉しく感じるし、心がパッと開いて相手の言葉が届くようになるそうです。
山崎さんは、相手を肯定する会話を続けることを「YES貯金」と表現します。
“YES貯金”をたくさんして、子どもの自己肯定感を高めよう!
null「皆さんは、YESとNOだったらどっちが欲しい? 普段、子どもにどっちを多く言ってる? “YES貯金”ができるのは、親と会話ができる小学6年生まで。思春期は秘密を持ってしまうので難しいです。今日から、会話の始まりは必ず“YES!”から!」
この「YES貯金」で自分を認めてもらう体験を積み重ねることで、子どもの自己肯定感が育まれ、やがて自立につながるそうです。褒めて伸ばしてあげるのがいいのはわかっているけど、なかなか難しいのが慌ただしい日常の現実です……。
そんな筆者の心の声が聞こえたかのように、山崎さんがアドバイスをくれました。
「そうはいっても、また怒っちゃった!ってことがあると思う。褒めてばかりじゃなくてもいい。例えばソファの上で飛び跳ねる子どもに“いいかげんにしなさい!”と言っちゃったとしても、“でも、その元気の良さはあなたの才能だよね!”と、マイナスをプラスで上書きしてあげればいいんです。
“正しさ”をいくら突き付けても、子どもをコントロールすることはできないんだから、親って無力なんですよ。親ができることは、“YES貯金”をたくさんして、子どもにプラスの意味づけをして安心感を土台にしてあげること。
これから学校選びで悩むお母さんもいると思うけど、親としてやるべきことは学校を選んであげることじゃなくて、どこに行っても大丈夫な子どもに育てることです。小学生のうちにYES貯金を満タンにできたら、中学、高校でぐーんと伸びます!」
周りに迷惑をかけないように、お友達と仲良くできるように……、親としては正しいことを伝えてきたつもりなのに、子どもにとってはマイナスの意味づけをされる日々だったとは! 山崎さんの「“正しさ”って、ムカつくものなんです」というストレートな言葉に、不満げな我が子たちの顔が思い浮かんで、腑に落ちたのでした。
子育て終了のカウントダウンは始まっている!“最後”の瞬間を逃すのはもったいない!!
nullひとり息子を持つ山崎さん。乳幼児期を経て、小学生、思春期を過ぎて高校卒業を控え、この春からは別々に暮らすという、だんだん手が離れていく子育てを経験済みです。
「子育ては期間限定。必ず終りがきます。子育てカウンターは子どもが生まれた瞬間から減り続けていて、増えることはないんです。いまは、”お母さん、お母さん“と言われていちばん役に立てる時!
うざいと思う事もあるかもしれないけど、味わって! だんだんと”お母さん”って呼ばれなくなって、ATMになるんだから。会話の3回に1回は”お金!“って言うんだよ。思春期の時なんて、”存在自体が無理。あっち行って“って言われましたからね」
山崎さん曰く、子どもひとりにつき6,000回のオムツ替えをするそうです。「6,000回やった人、手を挙げてー!」、「1万2,000回やった人~!」「1万8,000回やった人~!」と会場に呼び掛けて、その度に「よくやった!!」と拍手ともにほめたたえてくれました。
そんなに途方もない数字をよくこなしたもんだ!と心の中で自画自賛していたら、
「でも、最後のオムツ替えがいつだったか覚えてる?」
とさっきまでのハイテンションから、静かに問いかける山崎さん。
「おかあさ~ん、あたしあと5枚でオムツやめる!って言われたら、絶対ビデオ撮るよね? じゃあ、幼稚園や保育園の帰り、手をつなぐのは今日で最後って言われたらどうする? いつもは”早くしなさい!“とか”石、触るな!“とか言ってるのに、わざわざ遠回りして帰るでしょ? たとえ雨が降っていても、遠回りしませんか?」
さっきまで山崎さんのトークに笑いっぱなしだったのに、赤ちゃん時代の大変だったころや、イヤイヤ期に怒ってしまったこと、いろんな思い出や後悔が押し寄せてこみあげてくるものが……。
「私自身も、息子と最後に手をつないだり、むぎゅーってしたり、チューしたのがいつかわかりません。突然、予告なく終わるんです。最後ってね、味わい尽くして終われないんだよ。子育ての全部がいい思い出になるから! 楽しいことになるから! 武勇伝になるから! 嘆いてもしょうがない、髪振り乱してやったらいいよ!」
という熱い後押しに、筆者の涙腺は決壊! 笑いで沸いていた会場も静まり返り、あちこちからすすり泣く声がもれ、目頭を抑える人も……。
山崎さんは、味わえなかったいくつもの最後を経て、高校3年生の息子さんに“お弁当の最後”を教えてほしいと伝えたそうです。
筆者は、1年生の息子に朝の送りをせがまれたり、3年生の息子に一緒に寝て欲しいと言われるのを”いつまでやるの~?”と面倒くさがっていましたが、いつでも求められるままにやってあげよう!と心に誓ったのでした。
子育てを経験した山崎さんならではのリアルな体験談と緩急織り交ぜた引き込まれる語りに、子育てには終りが来ることを改めて実感。良かれと思っていても、我が子にダメ出しをしてギスギスした時間を過ごすより、YES貯金を積み重ねて、親子で安心感を育む日常を過ごすことの大切さを学びました。
次回は、”子育てのゴールを見据えて、我が子を社会に戻すときまでに親ができること”についてお届けします。
【取材協力】
山崎洋実(やまさき ひろみ)
1971年生まれ。旅行代理店、大手英会話学校勤務を経て、コーチング講師に。2004年に「ママのイキイキ応援プログラム」をスタートし、ママの特徴に合わせ、豊富な事例とともに体系的に伝える講座が評判に。”ひろっしゅコーチ”の愛称で全国規模で講演を行うほか、小学校や保育園、企業研修などオファーの幅も拡大中。『あなたはあなたのままでいい!自分とうまうつきあう方法27』(講談社)など著書やメディア出演も多数。2020年はyoutubeチャンネルも開設予定。
撮影/アレキサンダー麻美