42年間の保育士生活からステージを移した現在も、テレビ出演や全国での講演会にひっぱりだこのなか、井桁さんが代表理事を務める非営利団体「コドモノミカタ」がワークショップを開催しているとの情報を聞きつけて、小学3年生&1年生男子の育児に日々迷子になっている筆者も参加してきました。
今回は、ワークショップで学んだ中から、“辛くならない子育て”ができるヒントを、仕事に育児に頑張るkufura読者の皆さんにシェアします!
育児のモヤモヤを鎮める、自分なりのイメージを持つのが大事
null開催された場所は、東京都の名勝に指定されている清澄庭園の「涼亭」。無機質な会議室ではなく、初夏の緑が映える庭園に囲まれた趣ある和室という会場選びには、井桁さんならではの育児に一生懸命になっている大人たちへのメッセージが。
「子どもと一緒にいると、いろんな感情にまみれて頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう時がありますよね。
“子どもに、何てことしちゃったんだろう、何てこと言っちゃったんだろう”とモヤモヤすることも。私の子育ての経験の中でそんな自分を鎮めるためにイメージしていたのは、このような静寂が漂う庭園だったんです。今日は、自然の中に身を置いて肩の力を抜いた自分から出てくる思いや言葉でお楽しみくださいね」
モヤモヤがたまって爆発しそうな時、“深呼吸する”“頭の中で〇秒数える”という方法もよく耳にしますが、自分がいちばん落ち着けるシーンを想像するのは、とても効果がありそうです!
「ありのまま」でいれば優しくなれる。子育てに通じるグループワークのルール
nullグループで話し合う前に説明されたルール。よく見ると、子どもとのやりとりにも役立ちそうなものばかり。
“ありのままに―自由に表現する”というのは、表現しない自由も含むので、積極的に話さない人がいても「今日は話したくないのね」と受け止めればいいそうです。
また、“信頼して―価値判断を一旦止めて”というのは、相手から良くも悪くもどう思われるか考えず話すこと。
素の自分でいることを大切にしながら相手を受け入れることで、お互いが優しさでつながるんですね。
口が立つようになった長男とケンカ腰の言い合いになってしまう筆者は、このルールを家訓にしたいです!
〇か×の正解を急がない。余裕も持って「ちょうどいい着地点」を見つけよう
null似たような育児環境のママ友との子育て談義もいいけれど、様々な立ち位置の人達の考えを聞けるのがワークショップのいいところ。
「保育士時代は、園長に“子どもの喧嘩をどっちが悪いか大人が決めないで”と言われていたのに、いざ自分の子どもとなったら少しでも順番を抜かすと叱ってしまう」(元保育士で2歳の子どものお母さん)
「自分なりの育児の正解を持って子どもと向き合っているけど、そうじゃないことがたくさんあって、ここにくれば答えがみつかるんじゃないかと思った」(1才のお子さんと一緒に夫婦で参加した働くお母さん)
“育児の正解”に対する戸惑いを話す親の想いに、井桁さんは、
「親になると責任があるので、早めに正解を出したい、早くいい子にしつけたいという気持ちは、だれもが持っていると思います。でも、滑り台の順番を守れなかった結果だけを見て〇か×を決めるのではなく、その経過を知る余裕を持つことが大事ですね。
正解は、AIが出すような時代が来ます。人間だからできることは、一方的に正解を押し付けるのではなくお互いに無理がないかな~というところで、ちょうどいい答えを出すことです」
と、肩の荷が軽くなるお話をしてくれました。
1才のお子さんを持つ働くお母さんの「頭で考えすぎず、子どもの面白さを自分も楽しめるといいなと勇気をもらいました」という笑顔に、筆者も“純粋に育児を楽しもう!”と想いを新たにしました。
井桁さんが唱える!母と子どもだけが一緒にいるのは4時間が限界説
null0才と4才のお孫さんがいる井桁さん。「私の娘が、赤ちゃんのお世話で朦朧としながら、かまって欲しい盛りの上の子を育てている状況を間近で見て、以前から思っていたことに確信を持ちました。
“1才までは、母親と子どもだけでいるのは4時間以内!”。それ以外は、預けるか第三者の目があるところで育てるべきです。これはもう、法律で決めてほしいくらい! 人類の長い歴史の中で、子育ては集団で行ってきたんです。それを母親がひとりでするというのは、不健全で不自然なことなんです」
母と子は4時間みっちり一緒にいれば十分とは驚きでした。「この子の母親は私だけなんだから、ゆっくり眠れなくても、抱っこばかりで腕が痛くても、この私が頑張らなくちゃ!」と里帰りを終えた後に孤独な子育てをしていたあの頃の自分に教えてあげたい(涙)。ワークショップの感想を全体でシェアする中で、その想いを井桁さんにお伝えすると、
「日本の経済成長の過程で、“母親が子どものそばにいるべきだ”“母親の愛で子どもを育てるべきだ”という母性神話が作られた時代もありましたが、保育の世界ではそういう価値観はもう崩されています。
なのに、いまだにそれを引きずっている社会や大人、思い込んでいるお母さんがいるのも事実ですね。母親ひとりだけで赤ちゃんの命を守っているのではなく、子どもは社会の宝なのでみんなで守っていくものなんだという感覚を持つ人がそばにいることが大切ですね」
と温かいメッセージをいただきました。
我が子について、良いところより悪いところに目が行ってしまう理由は?
null「例えば、ノートから付箋がはみ出ていると気になりますよね? これは、心理学的にいうと、いつもと違うところに気がつくことで危険を察知する危機管理能力が働いているからだそうです。
人間に置き換えると、我が子のいいところをわかっているはずなのにダメなところに目がいってしまうのは、“危ない!”という危機管理が働いている状態なんですね。でも、人間の子どもは物ではないので、それでは心を育てるとはできません。
なので、ひとりで育てず、おじいちゃんやおばあちゃん、のんきなご近所さん、誰でもいいので、人の手を借りて我が子を見てもらって、いいところに気づいてもらいましょう。
子どもにとっては、自分を認めてくれる人が必ずしも親でなくても大丈夫。意外と、全く別の人から認められたことをいつまでも覚えていて糧にしてる子もいるんですよ。
なので、親がやるべきことは、自分が精いっぱい責任を背負うのではなく、親以外の誰かから我が子のいいところを言ってもらえるような関係性を作ってあげることですね。そのためには、まず、親自身が、我が子でなくても、子どものいいところを見つけて言える人になることも必要です」
確かに、よそのお子さんがやることなら微笑ましく思えても、我が子となると必要以上に叱ってしまうことって身に覚えがありすぎます! 自分だけで我が子を育てなくて大丈夫という安心感を得たと共に、子どもが親以外の信頼できる大人と関わることの大切さも学びました。
あなたの”育児の辛さ“を和らげてくれるヒントは見つかりましたか?
次回は、「子どもの心の秘密」について。思春期にも効く乳幼児からできる関わり方をお伝えします。
【取材協力】
井桁容子(いげた ようこ)
2018年3月まで保育士として東京家政大学ナースリールームに42年間勤務。現在は、乳幼児教育実践研究家として、全国での講演のほか『すくすく子育て』(NHK、Eテレ)への出演や『いないいないばあっ!』(NHK、Eテレ)の監修も行う。著書は「保育でつむぐ子どもと親のいい関係』(小学館)など多数。また、2018年6月に立ち上げた“子どもから学び、豊かに生きる”をテーマにした非営利団体『コドモノミカタ』の代表理事を勤めワークショップを開催するなど、保育士からステージを移した後も精力的に活動している。
撮影/菅井淳子