ステンレスボトルの「保冷力・保温力」の秘密は?
nullまず知っておきたいのが、ステンレスボトルの基本的な仕組みについて。
「水筒にはステンレスのほか、プラスチックやガラス、その他の金属など、さまざまな素材が使われています。その中でステンレス製の水筒、なかでも“真空断熱二重構造”を採用している水筒は、なんといっても高い保冷力・保温力があるのが大きな特徴です。
“真空断熱二重構造”とは、二重の壁をつくって、その間を真空状態にするというもの。熱は物体や空気を通して移動しますが、真空には熱を伝えるものが何もないため、周囲を真空にすることで、飲み物の冷たさや温かさが外に逃げるのを防ぐことができます。
ガラスなどと比べて丈夫なのに加えて、軽量で持ち運びやすいのも特徴です」(象印マホービン・山元伸悟さん、以下同)
現在多くのステンレスボトルを取り扱っている『象印マホービン』ですが、1918年の創業以来、長きに渡ってガラス製の魔法瓶を中心に製造していました。
その後、時代のニーズに合わせてより割れにくいステンレス製の販売がスタートしましたが、ガラスでもステンレスでも、どちらも“真空断熱二重構造”という基本的な仕組みは同じなんだそう。(※ガラス製やステンレス製のボトルでも、真空断熱二重構造を採用していないものもあります。)
「高い保冷力・保温力」、「比較的、軽量で持ち運びやすい」という特徴に加え、熱を外に伝えにくい構造のおかげで、「結露が発生しづらい」のも大きなメリット。そのままカバンの中に入れても中のものが濡れることがなく、使い勝手のよさにも繋がっています。
【夏場の注意点】温度を長持ちさせる2つのコツ
null皆さんはステンレスボトルにどんな飲み物を入れることが多いでしょうか? 2023年にkufuraで配信した記事「夏場の麦茶、何時間で飲みきるべき?【専門家に聞きました】」でご紹介したアンケート調査によると、夏場の外出時に飲む飲み物として一番人気なのは、年代問わず「麦茶」という結果になりました。
ただし、上記の記事でご紹介したとおり、実は麦茶は穀物を原料としているため炭水化物などの栄養素が多く、水や緑茶、紅茶などと比べて、菌が比較的増えやすい飲み物。
菌が増えやすい温度はだいたい20℃~40℃で、特に人間の体温に近い30℃~40℃は要注意! そのため、持ち歩く際は、しっかり冷たい状態を保つことが重要になるのですが、そこで活躍するのが高い保冷力をもつ「ステンレスボトル」なんです。
さらに、ステンレスボトルで冷たさを長時間キープして、飲料の美味しさを長持ちさせるためのポイントがあるそう。
「冷たさを長くキープさせる方法として、氷をたくさん入れるという人は多いと思います。そうすると確かに冷たくはなりますが、氷によって入れることができる飲み物の量が減ってしまい、氷が溶ける過程で味も薄まってしまいます。
そこで、少なめの氷でも高い保冷力を保つ方法として有効なのが、“水筒自体をあらかじめ冷やす”というものです。
具体的には、飲み物を入れる前に氷水を入れて、水筒の中身を冷やしておくだけ。氷だけだとボトルの壁との接点が少なくて冷えるのに時間がかかるので、水も一緒に入れるのがポイントです」
水筒ごと冷蔵庫に入れる方法もあるのでは?と思ってしまいますが、ステンレスボトルは断熱効果が高いため、冷蔵庫に入れても外側ばかり冷えてしまい、肝心の内側はあまり冷えないんだそう。外側でなく、あくまで内部を冷やすようにしましょう。
「もう1つのポイントは、“水筒の中身を容量いっぱいまで入れる”こと。こうすることで、より長い時間、温度をキープすることができます。これはお風呂の浴槽に少しのお湯を入れると冷めやすいのと同じ原理ですね」
美味しく飲むためにも、飲み物が痛むのを防ぐためにも、これらのテクニックを駆使していつまでも冷たさをキープしたいですね。
【冬場の注意点】緑茶は早めに飲みきるべし
nullでは、これから先やってくる寒い季節に、温かい飲み物を持ち歩く場合はどうでしょうか?
「冬場も基本的な考え方は同じで、飲み物を入れる前に水筒の内部を温めておくことで、より長く温かい状態を保つことができます。
また、容量いっぱいまで入れる方が温度を長く保てる、という点も同様です」
冬場に人気のある飲み物として緑茶がありますが、温かい緑茶を水筒に入れて持ち歩く場合には、1つ注意が。緑茶を高温に保つと、緑茶に含まれるタンニンが酸化して、茶色く変色してしまうことがあるんです。
「ステンレスボトルで熱いお茶を保温した場合、常に高温状態にあるため、酸化が促進され、通常より早く変色してしまう場合があります。ステンレスボトルの保温性能が高いために起こる現象で、異常ではありません。
変色しても体に害はありませんが、風味も変化してしまうので、冬場に緑茶を持ち歩く際は早めに飲みきることをおすすめします」
冬場の対策として、例えばオフィスなどで緑茶を飲みたい場合は、ステンレスボトルにお湯だけを入れて、飲む直前にティーバッグの緑茶をつくるというのもアリかもしれません。
「炭酸水」や「レモンの輪切り」もNG!入れてはいけないもの&その理由
nullもちろん麦茶や緑茶などお茶以外の飲み物をステンレスボトルに入れるケースも当然あると思います。その際、どんな飲み物が適しているのでしょうか?
山元さんに、ステンレスボトルに入れてはいけない飲み物とその理由を解説してもらいました。
【NG1】中の圧力が高まるようなもの(ドライアイス・炭酸水・炭酸入り飲料など)
「炭酸飲料やドライアイスは炭酸ガスを発しており、ステンレスボトル内部にガスが溜まり続けると開けた瞬間に中の炭酸が噴き出したり、破損する恐れもあります」
入れてはいけないものとして、まず注意したいのが、中の圧力が高まるようなもの。ただし近年は、炭酸を入れても大丈夫な設計の水筒を販売しているメーカーもあるため、炭酸に対応しているか、その商品ごとに確認して使用するのが重要です。
【NG2】腐敗しやすいもの(乳製品、果汁など)
「乳製品や果汁は腐敗しやすく、いくら保冷力があったとしても夏場は腐敗を促す温度帯になってしまうことも想定はされます。それに加えて腐敗することでガスが発生し、炭酸飲料と同様のリスクも出てきます」
乳製品や果汁は、腐敗しやすいだけでなく、腐敗した場合に発生するガスも大きな問題。特に、入れたまま長時間放置することはリスクが高いと言います。
【NG3】固形物(茶葉、果肉など)
「水筒は、中の水分が漏れないことがとても重要です。茶葉や果肉などの固形物を入れてしまうと、漏れない役割を果たすパッキンに挟まり、すきまが発生するリスクが生じます。そうすると密閉性が失われ、水分が漏れてしまう恐れが出てくるので禁止としています」
気づいたらカバンの中で中身が漏れてしまっていた!なんていうトラブルを防ぐためにも、茶葉などがボトル内に入らないように気をつけましょう。
【NG4】塩分濃度の高いもの(味噌汁、スープ、昆布茶など)
「弊社のステンレスボトルは軽く、かつ高い保温性能を保つため、商品にもよりますが約0.1~0.3mmと非常に薄いステンレスを使用しています。ステンレスは基本さびにくい構造ですが、塩分濃度が高い飲料を入れると、さびる可能性はゼロではありません。
お酢のような酸性の飲み物も、使用状況によっては同様にさびの原因になる可能性が否定できないため、避けるようにしてください」
さびによって穴があいてしまうと、真空が保てず、保温・保冷力も低下してしまうとのことなのでこちらも要注意です。
その他、注意すべき飲み物は?
塩分濃度の高いものはNGとのことですが、熱中症対策に効果が期待できるスポーツドリンクにも塩分が入っています。スポーツドリンクはステンレスボトルに入れても問題ないのでしょうか?
「市販のスポーツドリンクに含まれる塩分濃度であれば、基本的には問題ありません。ただし、古い年式のものだと対応していない可能性もあるので注意してください。弊社の製品もほとんどのステンレスボトルで問題ありませんが、古い年式の製品の中には対応していないものがあります。
まずはお持ちの水筒がスポーツドリンク対応かどうかをご確認いただき、対応していない場合や、対応しているか不明の場合は、入れないようにしたほうがいいでしょう。
また、対応している場合でも、スポーツドリンクを入れたあとは翌朝まで放置せず、必ずその日のうちに洗うようにしてください。これはどの飲料でも共通ですが、長く安全につかっていただくためにも“その日のうちに飲んで、その日のうちに洗う”を習慣にしていただければと思います」
よくお子さんなどが、一晩、かばんの中に入れっぱなしにしていて朝になって気づく……というシチュエーションがありますが、あれはボトルのためにもよくないのですね。最後に、コーヒーについてはいかがですか?
「コーヒーは入れていただいてまったく問題ありません。ただし先ほど申し上げた通り乳製品は腐敗しやすいので、カフェオレのような牛乳を使ったものは避けてください」
なお、今回教えていただいたのは、あくまでステンレスボトルの場合。ガラスやプラスチックといった他の素材の水筒などの場合、入れられるものも変わってくるそうです。
特に熱中症の危険が高い夏の時期、水筒は、自販機などで自ら飲み物を購入することが難しい子どもにとっても、命を守るために重要なアイテム。今一度、ステンレスボトルの正しい知識をしっかり身につけ、有効に活用していきましょう。
【協力】象印マホービン
東京都出身、千葉県在住。短大の春休みより某編集部のライター見習いになり、気が付いたら2022年にフリーライター歴25年を迎えていた。現在は雑誌『DIME』(小学館)、『LDK』(晋遊舎)などで取材・執筆を行うほか、『kufura』などWEB媒体にも携わる。
執筆ジャンルは、アウトドアや子育てなどさまざま。フードコーディネーターの資格も持つ。