どうして親知らずって呼ばれているの?
null親知らずは歯のいちばん奥に、いちばん最後に生える永久歯。早い人では18歳頃から生えてきますが、稀に生えない人や傾斜して途中までしか生えない人もいます。
「親知らずという名前の由来には諸説あります。親が知らないうちに生えてくることから、その名がついたともいわれていますし、人が50〜60歳で亡くなってしまうような寿命の短い時代に、親が亡くなってから生えることから、そう呼ばれるようになったともいわれています」(以下「」内、山本先生)
現在も、親のもとから巣立ったあとに生えてくることも多い親知らず。なにげなく使っていることばですが、そんな意味があるんですね。
「親知らずは英語で『wisdom tooth』といいます。wisdomは知恵という意味ですから、『ある程度、知恵がついた頃に出てくる歯』というようなニュアンスになるんですね。そのため我々歯医者さんは、親知らずのことを『智歯(ちし)』と呼ぶこともあります」
親知らずは虫歯になりやすい?
null一般的に、親知らずは虫歯や炎症など、さまざまなトラブルが起こりやすいことで知られています。なぜ、親知らずは虫歯になりやすいのでしょうか? その原因は親知らずが磨きにくいことだけではなく、現代人の顎の大きさにもあるそう。
「かつて狩猟をして、あるいは野にあるものや木になるものだけを食べていた原始人たちと現代人とでは、食べているものがまったく違います。基本的に、一生懸命顎を使って咀嚼しなくてはいけないものを食べていた原始人は、それだけ噛む力も筋肉も必要でしたから、顎も大きく発達していたのです」
一方、現代人は食生活の変化から、あまり大きな筋肉を使わなくなったため、ガチッとした顎の骨は不要に。特に、現代の若者はシュッとした顔立ちが多く、顎の骨のサイズ自体がコンパクトになってきました。
「ただし、歯の本数は昔と変わりません。もともと日本人をはじめ東洋人は、一つひとつの歯が巨大歯といって割と大きめな傾向があります。これはつまり、普通乗用車が10台停められる駐車場に、大型バスが10台来てしまうようなもの。親知らずがうまく生える場所がないという問題が生じてしまう。生えたくても生えられないのです」
生える場所がない親知らずは、斜めや水平になって一部またはすべてが骨の中に埋伏(まいふく)してしまう場合が多く、歯垢(プラーク)などがたまって虫歯になったり、周りの歯肉に炎症(智歯周囲炎)を引き起こしたりします。
また、まっすぐ生えたとしても、顎が小さいと顎の噛めるゾーンの奥に出てきてしまうため、上に歯茎がかぶさり、智歯周囲炎を起こしてしまいます。
「たとえきちんと生えていても、物理的に磨くスペースがない親知らずをブラッシングするには、相当なテクニックが必要です。毎日のケアでリカバリーできる環境ではないですから、どんなに頑張って磨いていたとしても、親知らずには痛みや腫れが出ることがあると思います」
親知らずの痛みを放置するとどうなる?
null虫歯や炎症など、さまざまなトラブルが起こりやすい親知らず。痛みなどの異変を感じたまま放置すると、どうなってしまうのでしょうか?
「親知らずの感染が悪化してしまうと、閉鎖された環境で腫れようとする独特の痛みが出ますし、顔まで腫れたり熱が出たりする可能性もあります。さらに、ものすごく膿んだ場合、口腔底蜂窩織炎(こうくうていほうかしきえん)という細菌感染症になる可能性もありますし、それだけの感染を起こせば体調が悪くなることもあるんですよ」
では、そのような一刻でも早く親知らずを抜いてほしいというほどの急な症状が起きたときは、どうしたらいいのでしょうか?
「残念ながらそのような状況のときは、基本的に抜歯はしません。急性症状のあるときは、炎症を抑えないともっと症状がひどくなる可能性があります。まずは膿を出して、抗生剤を使って症状を抑えて、落ち着いたときに抜くということになります」
親知らずが生えてきたら…抜いたほうがいい?
null親知らずは急性症状が起きた場合すぐには抜けないとのことなので、やはり事前に抜いておいたほうがいいのでしょうか?
「稀にいらっしゃるのですが、親知らずがまっすぐ生えていてきちんと機能している方は、抜く必要はありません」と山本先生。
ただし、生え方が悪かった場合、将来、仕事など「ここぞ!」というときに、疲労が蓄積して抵抗力が落ち、腫れたり痛みが出たりする可能性も……。
「そういうリスクを減らすためにも、将来的に希望のない親知らずであれば、症状のないときにきちんと整理しておいたほうが、あとで大きな問題にならなくて済むと思います」
親知らずを抜くなら早めに!抜く際のリスクは…
とはいえ、虫歯でもない歯を抜くことのリスクはないのでしょうか?
「親知らずの抜歯に関しては、生え方あるいは状況をきちんと見極めて抜歯をしないと、神経や血管を傷つけて、いわゆる麻痺が出てしまう可能性もあります。そのため、親知らずの状況によっては、設備の整った大学病院あるいは大きな病院で抜くこともあります」
山本先生によると、親知らずはできれば生え始めの20代あるいは30代あたりに抜くのがいいとのこと。年を取ると、骨自体の硬さも増すうえ、歯の周りも硬くなってくるため、抜歯がより大変になる可能性があるそう。放置している方は、できるだけ早く処置したほうがいいようです。
「親知らずの状況によっては、すぐに抜かずに歯の頭が出てくるまで待ったり、上にかぶさった歯茎を切開して清掃性を上げたりすることもあります。まずは歯医者さんに行って、自分の歯のことをよく知っておくこと、そしてきちんと診断をしてもらうことが大事だと思います」
次回は、「大人の虫歯」を治療する際に使われることが多い「詰め物」や「かぶせ物」についてお届けします。
イラスト/菜ノ花子 取材・文/清瀧流美
やまもと歯科 院長/デンタルネットワーク株式会社代表取締役/歯科医
都立目黒高校卒業後、レストラン勤務を経て、明海大学歯学部入学。1995年、同大学卒業。歯科医師免許を取得。南青山友歯会ユーデンタルクリニック勤務を経て、1999年、やまもと歯科(東京都)開設。2018年、デンタルネットワーク株式会社設立。歯科専門情報サイト「Smile Teeth」を立ち上げ、多くの人に歯科医療に関する正確な情報を提供している。