ベジファーストは意味がない?
nullこんにちは、管理栄養士の宮﨑奈津季です。「ベジファースト」という言葉を聞いたことはありますか? 今回は、厚生労働省が先日発表した「日本人の食事摂取基準(2025年版)」で、この「ベジファースト」についての記載がなくなったことの意味を解説していきます!
※「日本人の食事摂取基準」とは、健康な人が1日に摂取すべきエネルギーや栄養素の量を示した基準です。厚生労働省が健康増進法に基づいて定め、5年ごとに改定されています。
ベジファースト=血糖値を上手にコントロールする食べ方

「ベジファースト」とは、その名の通り、「食事の最初に野菜から食べる食事法」のことです。野菜を先に食べることで、同じ食事内容でも食物繊維の働きにより、血糖値の上昇が緩やかになると報告されています。そのため、ベジファーストは生活習慣病や肥満の予防に役立つ事が期待されており、近年注目されていました。
実際、日本人の食事摂取基準(2020年版)では、「生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連」の糖尿病の章において、「特に食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1c(※)を低下させ、体重も減少させることができることが報告されている」と記載されていました。
※HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):血液中のヘモグロビンと糖が結合した割合を示す数値。糖尿病の診断や血糖コントロールの評価に用いられます。
なぜ記載がなくなったの?
ところが、日本人の食事摂取基準(2025年版)では、これまでベジファーストに関して記載されていた糖尿病の章の中の「食事摂取パターン(eating pattern)とシフトワーカー」の項目がまるごと削除されました。
この件が「ベジファーストは意味がないのでは?」と話題になったのです。削除の理由について、厚生労働省の資料には「栄養素摂取に関連するものではないことから、章立てとして削除」と記載されています。
この「栄養素」とは、たんぱく質やビタミンなどを指しています。つまり、ベジファーストのようないわゆる「食べ方・食べる順番」などは食事摂取基準の範囲外となるため、削除したということになります。
野菜→主食を食べるまでに10分空ける


ベジファーストの食べ方として「野菜を食べた後、10分ほど時間を空けてから主食を食べると良い」とよく言われます。
食事をすると、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を示す血糖値が上昇します。食物繊維には、この血糖値の上昇を緩やかにする作用があります。そのため、まず食物繊維を含む食品を食べてから糖質を摂るのが良いとされているのですが、ポイントは両者の消化吸収の速さの違い。
食物繊維を含む野菜を食べてからすぐに炭水化物を含む主食を食べても、食物繊維による血糖値の上昇を抑える効果が十分に発揮されないと考えられるのです。このため、野菜を食べてから主食を食べるまでに10分程度時間を空けるとより良いとされています。
実際の研究でも、野菜と炭水化物の間隔を10分間空けて食事を行うと、先に炭水化物から食べた時と比べて血糖値の上昇が抑えられたという結果が出ています。
食べる順序以外も大事です!
null「効果がある」とは言い切れないかもしれないけれど…
このように、ベジファーストは血糖上昇を抑制し、HbA1cを下げて体重を減らすのではないかと考えられますが、全ての人に推奨するにはエビデンスが不十分と言えます。
ベジファーストの研究は、糖尿病の人が対象であることが多かったり、研究に限界があったりする点は把握しておく必要があります。

ベジファーストを意識することで、「サラダをプラスしてみよう」など、栄養バランスが向上することにつながります
とはいえ、ベジファーストに全く意味がないわけではありません。野菜を先に食べることを意識すれば、野菜を食べない食事が少なくなり、結果的に野菜の摂取量が増える可能性があります。
また、野菜はしっかり噛まないと飲み込めないため、結果的に噛む回数が増えて、ゆっくり食べることにもつながります。
適度な運動も大切
血糖コントロールには、食事だけではなく運動も大切です。筋力トレーニングにより筋肉量が増えると、血糖値が下がりやすくなるとされています。
また、ややきついと感じる程度の有酸素運動も勧められており、これらを組み合わせる事が血糖値を安定させるのに効果的だと考えられています。体を動かす習慣が全くない方は、まずはできそうなことから少しずつ始めてみましょう。
ベジファーストが2025年版の日本人の食事摂取基準から削除されたのは、食事摂取基準の範囲外の話とされたためです。ベジファーストの健康効果についてはまだまだエビデンスが不足している現状があり、今後の研究に期待したいところです。
「これだけやればOK!」といったような一つの食事法に期待するのではなく、やはり食事のバランスや食べ方などを意識することが大切です。また、よく噛んでゆっくり食べることを心がけてみましょう。
【参考文献】
・飯田薫子、寺本あい「一生役立つ きちんとわかる栄養学」西東社(2019)
・佐々木敏「データ栄養学のすすめ」女子栄養大学出版部(2018)
・日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」南江堂(2024)
・株式会社ケアネット「糖尿病(11)糖尿病の食事療法(6):ベジファースト【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q137」CareNet
https://www.carenet.com/series/beforeafter/cg003455_137.html?utm_source=m15&utm_medium=email&utm_campaign=2025032702#va03(閲覧日:2025年4月5日)
・厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html(閲覧日:2025年4月5日)
・厚生労働省「「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html(閲覧日:2025年4月5日)
・厚生労働省:「第3回「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会 資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/newpage_00085.html(閲覧日:2025年4月5日)
・日本健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター「糖尿病の運動のはなし」
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/040/03.html(閲覧日:2025年4月5日)
・厚生労働省:「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf(閲覧日:2025年4月11日)
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・Nitta A,et al.Impact of Dietitian-Led Nutrition Therapy of Food Order on 5-Year Glycemic Control in Outpatients with Type 2 Diabetes at Primary Care Clinic: Retrospective Cohort Study.Nutrients.2022 Jul;14(14);pii:2865

管理栄養士・薬膳コーディネーター。介護食品メーカーで営業を2年間従事した後、フリーランスの管理栄養士に。料理動画撮影やレシピ開発、商品開発、ダイエットアプリの監修、栄養価計算などの経験あり。 現在は、特定保健指導、記事執筆・監修をメインに活動中。
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※「崎」は正式には立つ崎(たつさき)です