PFCバランス/エネルギー産生栄養素バランスとは?
PFCバランス/エネルギー産生栄養素バランスとは?こんにちは、管理栄養士の宮崎奈津季です。さっそくですが皆さん、バランスの良い食事ができていますか?
バランスの良い食事とは、主食・主菜・副菜を揃えることで、エネルギーや栄養バランスの整った食事であることです。特にダイエットしている方などは、エネルギー量だけにとらわれて、そのバランスが崩れてしまっていないでしょうか。
今回は、栄養素のバランスを知る上で大切な、「PFCバランス(エネルギー産生栄養素バランス)」について解説します。
カロリー計算だけではNG!
ダイエットしている方に多いのが、エネルギー量(カロリー)のみをチェックしていることです。しかし、エネルギー量をどれだけ抑えても、その中身のバランスが崩れてしまっていると、上手にエネルギーを代謝することができません。
つまり、同じ2000kcalでも、ある一つの栄養素の過剰や不足があると、そのバランスが崩れてしまいます。カロリー計算だけではなく、その中身のバランスがきちんと整っているのかをチェックすることがとても大切です。
これをチェックすることができるとして使われていたのが、「PFCバランス」と呼ばれる指標です。
PFCとは、P=Protein(たんぱく質)、F=Fat(脂質)、C=Carbohydrate(炭水化物)を指します。現在は栄養学的にはPFCバランスという言葉は使用せず、「エネルギー産生栄養素バランス」という言葉を使用しますので、今回は以後そのように表記します。
エネルギー産生栄養素バランスは、栄養の質を評価する指標のひとつです。食事でのエネルギー構成比をみることによって、各種栄養素がバランスよく摂取できているかがわかります。
基本のエネルギー量を知る
まず、バランスをチェックする前に、自分が1日にどのくらいのエネルギー量が必要なのかを計算してみましょう。
1日のエネルギー必要量は、下記の計算式で算出できます。
基礎代謝基準値とは、体重1kg当たりの1日の基礎代謝量で、性別や年齢により数値が決まっています。基礎代謝基準値に体重をかけたものが基礎代謝量となっています。
また、身体活動レベルは、「低い(Ⅰ):1.50」、「ふつう(Ⅱ):1.75」、「高い(Ⅲ):2.00」に分類されており、基礎代謝量にかけることで、1日のエネルギー必要量が算出できる仕組みになっています。
<身体活動レベルの分類>
低い:座位がほとんど
ふつう:座位が多いが家事や移動も行う
高い:移動や立ち仕事がメイン
仮に、30~49歳女性、体重50kg、身体活動レベルがふつうの場合、計算式は下記の通りです(基礎代謝基準値は※1を参照)。
21.9(kcal/kg体重/日)×50(kg)×1.75=1916kcal
ご自身のエネルギー必要量はどのくらいなのか、算出してみましょう。
基礎代謝と関わりのある除脂肪体重
除脂肪体重とは、体重から体脂肪を除いた重量のことで、筋肉や骨、内臓、水分、血液などの総重量です。
除脂肪体重の7割程度が筋肉といわれており、筋肉量が多くなると基礎代謝量は高くなる傾向にあります。そのため、基礎代謝量には個人差があります。
代謝を上げる上でも、除脂肪体重を落とさず体脂肪を減らすことが大切です。
エネルギー産生栄養素バランス
エネルギー産生栄養素バランスとは、エネルギーを産生する栄養素であるたんぱく質、脂質、炭水化物それぞれから摂取するエネルギー量が、総エネルギー摂取量に占めるべき割合を示す指標です。
これらの栄養素バランスは、各栄養素の摂取不足と生活習慣病の発症、重症化の予防のためにとても重要だといわれています。
ここまで、1日のエネルギー必要量がどのくらいあるのか、またそれには個人差があることが分かりました。このエネルギー必要量をバランスよく摂取するにはどうすればよいのでしょうか。
エネルギー産生栄養素バランスは、総エネルギー量に対して、たんぱく質、脂質、炭水化物それぞれどのくらい摂取するのが良いかを、%エネルギーを使って表しています。
30~49歳の女性のエネルギー産生栄養素バランスは下記の通りです。
・たんぱく質:13~20%エネルギー
・脂質:20~30%エネルギー(ただし、飽和脂肪酸は7%エネルギー以下)
・炭水化物:50~65%エネルギー
これらをそれぞれ実際の量に換算すると、どのくらいになるのか計算していきましょう。
必要な3つの栄養素の量を調べてみよう
必要な3つの栄養素の量を調べてみよう下記の数値は、30~49歳の女性、体重50kg、身体活動レベルがふつう、1日のエネルギー必要量が1916kcalの場合をもとに算出しています。
たんぱく質の量
たんぱく質は1g当たり4kcalのエネルギーを産生します。たんぱく質の目標量は、総エネルギー量の13~20%です。これをもとにたんぱく質の目標量を算出すると、下記の通りになります。
1916kcal×13~20%÷4kcal/g=62.3~95.8g
目標量を総エネルギー量の15%と設定すると、たんぱく質の目標量は71.9gとなります。
脂質の量
脂質は1g当たり9kcalのエネルギーを産生します。脂質の目標量は、総エネルギー量の20~30%です。これをもとにたんぱく質の目標量を算出すると、下記の通りになります。
1916kcal×20~30%÷9kcal/g=42.6~63.9g
目標量を総エネルギー量の25%と設定すると、脂質の目標量は53.2gとなります。
炭水化物の量
炭水化物は1g当たり4kcalのエネルギーを産生します。炭水化物の目標量は、総エネルギー量の50~65%です。これをもとにたんぱく質の目標量を算出すると、下記の通りになります。
1916kcal×50~65%÷4kcal/g=239.5~311.4g
目標量を総エネルギー量の60%と設定すると、炭水化物の目標量は287.4gとなります。
ちなみに、炭水化物の量にはアルコールも含まれています。
たんぱく質・脂質・炭水化物の目標量は
30~49歳の女性、体重50kg、身体活動レベルがふつうの方の場合、総エネルギーに対して、たんぱく質は13~20%、脂質は20~30%、炭水化物は50~65%を目標量としており、合計で100%になるように摂取します。
今回は分かりやすく、たんぱく質を15%、脂質を25%、炭水化物を60%としました。その場合の目標量は下記のとおりです。
たんぱく質・・・71.9g
脂質 ・・・53.2g
炭水化物 ・・・287.4g
エネルギー産生栄養素バランスが設定されていることで、どれかひとつの栄養素に偏ることなくエネルギーを得ることできます。
ただし、エネルギーの必要量は個人差があるため、これらの数値はあくまで目安です。エネルギーの過不足は体重でチェックするのが基本です。
ご自身にとってエネルギー量が不足しているかとりすぎていないかを体重でモニタリングすると良いでしょう。
食事メニュー例で考える栄養バランス
食事メニュー例で考える栄養バランスエネルギー産生栄養素バランスの大切さが分かったところで、実際の食事をチェックする場合は、どんなポイントに気を付けると良いか見ていきましょう。
今回は2日間の朝・昼・夜の食事を例として、それぞれどんなポイントがあるのか解説します。忙しい方にありがちな食事内容ですが、栄養バランスはどう改善できるでしょうか。
1日目:パン・パスタ・唐揚げ定食の1日
<メニュー>
朝:クロワッサン、カフェオレ
昼:トマトソーススパゲッティ
夜:唐揚げ定食
<良い点>
・朝食はクロワッサン、昼食はパスタ、夕食はご飯と主食をしっかりとることができています。
・夕食は主食・主菜・副菜の揃ったバランスの良い食事ができています。
<悪い点>
・クロワッサンはパンの中でも脂質が高め、さらに夕食に揚げ物が出てきているため、少し脂質が高くなっています。
・朝・昼食にたんぱく質を含む食材やビタミン・食物繊維を含む野菜・果物が不足しています。
<改善できるポイント>
朝食に卵料理、野菜・果物を一品ずつ追加する、もしくはクロワッサンをハムレタスのサンドイッチに変更してみましょう。
さらに、朝食と昼食にサラダか野菜スープを追加するとバランス良くなります。
2日目:納豆ご飯・天ぷらそば・居酒屋メニューの1日
<メニュー>
朝:納豆ご飯、お味噌汁、卵焼き、漬物
昼:天ぷらそば
夜:ビール、鶏のから揚げ、手羽先の塩焼き、枝豆
<良い点>
・3食とも、たんぱく質を含む食品を摂取することができています。特に朝食は主食・主菜・副菜が揃った食事になっています。
・お酒のおつまみに枝豆はかなり相性の良い組み合わせです。アルコールの代謝で消費してしまうビタミン類を補給できます。
<悪い点>
・昼食に海老の天ぷら、夕食に鶏のから揚げと揚げ物がかぶってしまっているため、脂質の摂取量が多くなっています。
・夕食のようにお酒を飲む場合、おかずや揚げ物などをとりすぎる傾向にあり、エネルギー過多になりやすいので注意が必要です。
<改善できるポイント>
・朝食は、味噌汁に野菜やワカメなどの海藻類を入れて具だくさんにすると、ビタミンやミネラル、食物繊維をよりしっかり補給できます。
・昼食の天ぷらそばを、とろろそばや肉そばなど揚げ物が入っていない種類に変更すると、脂質を抑えることができます。可能であれば、ねぎやワカメをトッピングすると、ビタミン・食物繊維を摂取することができます。
今回の改善できるポイントはあくまで一部です。最初から全て改善しようと取り組むのではなく、まずはできることを1つから始めてみましょう。
健康的な生活を送るには、食事バランスを整えることが大切です。今日の食事はたんぱく質が足りているかな?揚げ物ばかりになっていないかな?おかずばかりで主食が不足していないかな?野菜は足りているかな?など、食事のメニューを考えるときに意識してみましょう。
<参考文献>
※1 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
※2 吉田企世子、松田早苗監修:正しい知識で健康をつくるあたらしい栄養学、髙橋書店(2021)
※3 飯田薫子、寺本あい監修:一生役立つきちんとわかる栄養学、株式会社西東社(2019)
管理栄養士・薬膳コーディネーター。介護食品メーカーで営業を2年間従事した後、フリーランスの管理栄養士に。料理動画撮影やレシピ開発、商品開発、ダイエットアプリの監修、栄養価計算などの経験あり。 現在は、特定保健指導、記事執筆・監修をメインに活動中。
X:https://twitter.com/NatsukiMiyazak1
※「崎」は正式には立つ崎(たつさき)です