脂質ってどんなもの?
脂質ってどんなもの?こんにちは。管理栄養士の宮崎奈津季です。今回も、健康で美しくなりたい女性にとって欠かせない「栄養」についてご紹介します。
突然ですが皆さん、「脂質」にどのようなイメージを持っていらっしゃいますか?「カロリーが高い」「なんとなく不健康」など、悪いイメージが強いかもしれません。
しかし実は、脂質は私たちの体にとって必要不可欠な栄養素です。今回は、「脂質」がいったいどのようなもので、どんな働きをしているのか、1日にどのくらい摂取すれば良いのかについてご紹介します。
効率の良いエネルギー源になる
脂質はエネルギーを産生できる三大栄養素のひとつで、少量でもたくさんのエネルギーを得ることができる効率の良いエネルギー源です。
炭水化物やたんぱく質が1g当たり4kcalであるのに対して、脂質は1g当たり9kcalのエネルギーをもっています。
また、水に溶けないため、体内で貯蔵するためのエネルギーに適しています。
脂質はどんなものに含まれる?
脂質はその名前の通り、「あぶら」です。油脂製品に多く含まれており、日常的に使うサラダ油やごま油、オリーブオイルなどの植物油は脂質100%でできています。
マーガリンやバター、マヨネーズにも多く含まれています。乳製品では、生クリームやチーズなど成分を凝縮されたような製品に多い傾向にあります。
また、種実類には脂質が豊富に含まれており、くるみやアーモンド、マカデミアナッツには特に多く含まれています。
魚介類では、脂がのったトロ、サバやサンマといった青背魚に多く含まれている傾向があります。
肉の場合は、部位によって脂質の量が異なります。部位別では、豚肉や牛肉の場合、脂身が多く含まれるばら肉に多い傾向にあります。一方、ヒレ肉やもも肉、鶏肉ではむね肉やささみは、比較的脂質が少ないです。
鶏肉は全体に脂質が少ないイメージがありますが、皮に多くの脂質が含まれています。脂質が気になる方は、皮を取り除いて食べるといいでしょう。
脂質の働き
脂質の働き脂質にはいくつかの働きがあります。一つは、前述したように効率の良いエネルギー源であることです。少量でも多くのエネルギーを得るには、脂質が一番効率が良いです。
また、使われなかったエネルギーのほとんどは体脂肪となって貯蔵され、体温を維持する働きもあります。
また、脂溶性ビタミンであるビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKの体内への吸収を助けています。これらのビタミンを多く含んでいる食材は油といっしょに摂取するのがおすすめです。
その他、脂質の中でもコレステロールは、細胞膜やホルモンなどの材料にもなっています。
飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸って?
脂質を構成する成分のひとつに「脂肪酸」というものが存在します。脂肪酸は構造の違いから飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けることができます。その中でもさまざまな種類があり、それぞれ特有の働きがあります。
飽和脂肪酸は、肉や乳製品に含まれる脂肪に多い脂肪酸です。主にエネルギーとして使われ、中性脂肪やコレステロールの材料にもなっています。とりすぎると血中の脂質のバランスが悪くなるといわれています。
不飽和脂肪酸は、植物油や魚に含まれる脂肪に多い脂肪酸です。こちらもエネルギーとして使われるほか、種類によりさまざまな働きがあります。
特に不飽和脂肪酸の中には血中コレステロールを減らしたり、血中脂質のバランスを整える働きのあるものがあるため、近年注目されています。
例えば、オリーブオイルに多いオレイン酸は血中コレステロールを減らすといわれています。亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸は、ヒトの体内で合成することができない必須脂肪酸のひとつであり、血中の中性脂肪を減らす効果があるといわれています。
脂質はどれくらいとればいいの?
脂質はどれくらいとればいいの?脂質の1日の摂取量の目安
日本人の食事摂取基準(2020年版)(※1)では、18歳以上の女性の場合、目標量として摂取しているエネルギーの20~30%を脂質から摂取するよう設定しています。
必要なエネルギーの量は、性別や年齢、日々の活動量によって異なるため、必要な脂質の量には個人差があります。例えば、30~40代女性の方で、日常生活の中でデスクワーク中心で通勤や徒歩もある方の場合、目標とする脂質の量は約46~68g程度となっています。
脂質の1日の目標量を摂取するには、食材にするとどのくらいになるのでしょうか。下記の食材に、脂質がどのくらい含まれているかを見てみましょう。
・豚肩ロース肉 100g 18.4g
・さば 1切れ(70g) 9.0g
・納豆 1パック(50g) 4.9g
・牛乳 1杯(200ml) 7.4g
・サラダ油 小さじ2(8g) 7.8g
これらを合計すると、47.3gになります。
(※2 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量を参照)
さらに、肉や乳製品に多いとされる飽和脂肪酸の目標量は、摂取するエネルギーに対して7%以下(上記の対象者の場合は15.90g)を目標量としています。その他、不飽和脂肪酸であるn-3系脂肪酸は1日当たり1.6g、n-6系脂肪酸は1日当たり8gを目安量として定めています。
上記の食材で、各項目をそれぞれ合計すると
飽和脂肪酸 16.95g
n-3系脂肪酸 2.53g
n-6系脂肪酸 7.72g(※2をもとに算出)
となります。
飽和脂肪酸がやや多めなことが分かりますね。
脂質の摂取量が多すぎる・少なすぎるとどうなる?
日本人は、食生活が豊かになったこと、また食の欧米化が進んだことで脂質をとりすぎている可能性があるといわれています。脂質のとりすぎは、エネルギーの過剰摂取につながり、使われなかったエネルギーが体脂肪として蓄積されるため肥満につながります。
さらに血中脂質のバランスが悪くなることで動脈硬化などを引き起こし、生活習慣病のリスクが高くなります。
一方、少なすぎると、エネルギー不足になる可能性があります。さらに脂質によって吸収率が良くなる脂溶性ビタミンの吸収が悪くなります。女性の場合は、月経不順などにつながる可能性もあるといわれています。
ダイエットと脂質の関係
「脂質カット」「脂質制限」といったように、極端に脂質を減らすダイエット方法がありますが、これはあまりすすめられるものではありません。なぜなら、脂質を極端に減らすことで、エネルギー源が偏ってしまったり、エネルギー不足になること、また栄養素の吸収率が悪くなってしまう可能性があるからです。
ダイエットにおいて大切なことは、食事全体のバランスです。脂質を極端にカットするのではなく、1日の摂取量の目安を守り、バランス良く食べることが大切です。脂質をとりすぎている場合は、揚げ物を控えて脂身の少ない肉を選んだり、1食の中で油を使った料理を重複させないなどの工夫をすることからはじめてみましょう。
【参考文献】
※1 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
※2 文部科学省:日本食品成分表2020年版(八訂)
※3 吉田企世子、松田早苗監修:正しい知識で健康をつくるあたらしい栄養学、髙橋書店(2021)
※4 飯田薫子、寺本あい監修:一生役立つきちんとわかる栄養学、株式会社西東社(2019)
※5 香川明夫:はじめての食品成分表 八訂版、女子栄養大学出版部(2022)
管理栄養士・薬膳コーディネーター。介護食品メーカーで営業を2年間従事した後、フリーランスの管理栄養士に。料理動画撮影やレシピ開発、商品開発、ダイエットアプリの監修、栄養価計算などの経験あり。 現在は、特定保健指導、記事執筆・監修をメインに活動中。
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※「崎」は正式には立つ崎(たつさき)です