革新的なIT製品を生み出した「スティーブ・ジョブズ」
null2011年10月5日、56歳という若さで亡くなったアップル社の共同設立者のひとり、スティーブ・ジョブズ。
1976年にスティーブ・ウォズニアックらと共に実家のガレージで事業をスタートし、翌年アップル社を創業。ホームコンピュータ『Apple I』『Apple II』を発表し成功を収めました。しかし、社長就任時の1984年には『Macintosh』を発売するも過剰在庫を抱え、責任を問われて追放されます。
アップルを離れていた期間には後のNeXT Computer社を創業し、ジョージ・ルーカスが設立したルーカスフィルムのコンピュータ・アニメーション部門を買収してピクサー・アニメーション・スタジオを設立。
1996年アップル社に復帰した後は、業績不振に陥っていた同社を見事復活させます。1998年の『iMac』発表に始まり、『iTunes』と『iPod』シリーズで音楽事業に参入、2007年に『iPhone』を発表して以降の売上高の主軸を占める携帯電話事業を開始するなど、画期的なIT製品を次々と生み出して常識を覆すような事業を展開していきました。
世界中の度肝を抜いた!? 初代「iPhone」の新製品プレゼン
null製品開発に長けた優れた実業家としてだけでなく、スピーチやプレゼンの名手としても知られたスティーブ・ジョブズ。今回は初代『iPhone』を発表したときのプレゼンを取り上げて、その特長を解説してみたいと思います。
時は2007年1月9日、ジョブズはサンフランシスコで開催された「Macworld」の基調講演の中で『iPhone』を発表しました。残念なことに公式動画は公開されていないため、ここに掲載することはできませんが、興味を持たれた方は探してみてくださいね。
構成はシンプル! でもジョブズは「型通りで型破り」
nullまずは、初代『iPhone』発表プレゼンの構成と内容の一部をご紹介しましょう。基調講演の始まりから『iPhone』 発表へと続きます。以下の流れで、ゆっくり動きながら語り、ところどころ“間”や“笑い”を入れながら展開しています。
(1)プレゼンのテーマ
・これまでアップル社が発売してきた画期的な製品の数々を紹介
・今日ここでまた、新しい3製品を発表することを伝える
・3製品の特徴を述べる
・実は3つの特徴をすべて兼ね備えた『iPhone』が新製品:(サプライズ)
・ニセの新製品画像の紹介:(ユーモア)
(2)新製品を発売する背景(他社製品との比較)
・データをまじえた携帯電話の現状を紹介(操作が複雑、キーボードが邪魔で使いにくいなど)
・携帯電話からボタンをなくし、画面だけにする解決策をアップル社が編み出したことを伝える
(3)新製品「iPhone」について
・『iPhone』は指で操作するスマートフォンである
・『iPhone』のイメージ画像を初公開
・指で操作する技術は特許も取得している:(ユーモア)
構成は、大きく分けて以下のようになっています。
(1)テーマの開示
(2)テーマにまつわる背景を詳しく説明
(3)テーマの詳細
この構成自体は、いたってシンプルな型通りのもの。でも、その内容と展開の仕方は実は“型破り”なのです。
はじめにバーンと新製品の名前や詳細を発表するのではなく、新製品市場の状況や他社製品との比較を紹介して、ところどころユーモアを交えながら少しずつ明かしています。「全貌はまだかな?」「『iPhone』て、何?」「まだ……?」「早く教えて~!」と、聞き手がワクワクして早く『iPhone』について知りたくなってしまう心理を生み出す演出。
聞いている人々の心を掴んで飽きさせず、いつの間にか興味を持たせてしまうテクニックは、ジョブズがプレゼン上手と言われる所以のひとつでしょう。
意外と取り入れやすい! ジョブズのプレゼンテクニック3つ
null聞き手の心を惹きつけて放さないスティーブ・ジョブズの素晴らしいプレゼン。もちろん、私たちにも真似できるテクニックがありますよ。取り入れやすい3つをお伝えしましょう。
(1)聞き手側を見ながら、動いて話す
話し手が動いていると聞き手は必然的に目線で追うことになり、飽きにくくなります。
ただし、注意点がひとつ。それは、“必ず聞き手側に顔を向ける”こと。プレゼン資料などを映し出すスクリーンばかりを見て話すと、失礼にあたるだけでなく、聞き手を自分に引きつけることが難しくなります。
「初心者だし、動きながら話すなんてとてもできそうにない……」という人は、スクリーンに映し出すプレゼン資料の入ったPCと自分が立つ演台をわざと遠くに配置してみましょう。PCの操作という名目ができるので、必然的に動くことができますよ。
(2)適度な「間」をつくる
今回取り上げた初代『iPhone』 発表プレゼンでは、「2年半、この日を待ち続けていた」という出だしからの序盤、ジョブズは適度に“間”を取りながら聞き手に語りかけるように話しています。間をつくることで、「これから何を話すのだろう?」という聞き手の期待感をさらに煽っているのです。
とはいえ、「真似したいけれど、沈黙をつくるのが怖い」という人も多いでしょう。そんな場合は、大事なポイントを話す前に、わざと水を飲むなどしてみてください。気持ちも落ち着きますし、半ば強制的ではありますが自然に間をつくることができますよ。
ちなみに、ジョブズも今回解説したプレゼンの最中に水を飲んでいます。
(3)サプライズやユーモアを交える
サプライズやユーモアを盛り込む……これらも初心者にはなかなか難しいと感じられるかもしれません。しかし、今回取り上げた初代『iPhone』のプレゼンでは、ジョブズはプレゼン資料上で笑いを誘う演出をしています。
例えば前半、上述したプレゼン構成の「(1)プレゼンのテーマ」部分では、ニセの新製品画像を表示して笑いを誘いますが、誰が見てもひと昔前の型のものだとわかるものを見せることで「それは違うよね!」と瞬時に大きな笑いが起きます。
こんな風に、誰もがわかりやすいユーモアやサプライズを無理なくはさむと場が和みますよね。あらかじめ資料に仕込んでおく方法であれば、比較的取り入れやすいのではないでしょうか。
いかがでしたか? つい雲の上の遠い存在のように感じてしまう“有名人の名スピーチ”ですが、私たちが取り入れやすいところもたくさんあります。身近にも、話し上手や朝礼のスピーチ上手はいるはず。「上手だな」と思う人を見つけたら、よく観察して真似してみるのも勉強になりますよ!
【取材協力・監修】
チームビルディング・コンサルタント
尾方僚
大手就職情報会社に9年間勤務した後、コンサルタントとして独立。大学や企業人事担当者向けの講演を数多く行い、企業の採用コンサルテーション・研修に従事する。現在、日本女子大学リカレント教育課程 講師、日本工業大学、デジタルハリウッド大学の非常勤講師としてキャリア系科目を担当。著書は『プレゼン以前の発表の技術』(すばる舎)、『100人の前でもキチッと話せる本』(インデックスコミュニュケーションズ)など多数。